しいたけ！｜リアクション

しいたけ！

【遭遇】

　真辺伸幸が猫鳴館に帰ろうとして、ふらふら校舎の外を歩いていると、目の前をしいたけの山が横切っていった。
「……ぬん、きのこ星人さんー」
　よく見ると、しいたけの塊は人の形をしている。
「わさわさー。しいたけー。ぬぅー、しいたけ星人さん……？」
　あっけにとられて、伸幸は、しいたけしいたけと連呼する。
　日々の異変に慣れてきたかと思った矢先のしいたけ。
　ぷんとただようしいたけの香り。
「こんなとき、どんな顔をすればいいのかわからないのー……」

　北原みゆきもまた、中庭を散策中に怪人しいたけと遭遇した一人だった。
　同人誌のネタを考えながら歩いていたみゆきの視界を、しいたけがかすめる。
　目を丸くして、みゆきは悲鳴をあげた。
「きゃっ、やっ……！」
　全身をしいたけで埋め尽くされた怪人の姿は、幼い頃に見た映画に出てくるキノコの化け物にそっくりだった。
　悲鳴に驚いたのか、振り向いた怪人が後ずさる。
（に、逃げなきゃ……。あ、でも……？）
　怪人の態度は怯えているようにも感じられ、みゆきは立ち止まったまま様子をうかがった。
「あのぅ……」
　おずおずとみゆきは声をかけた。
（なんだか少し、悲しそう？）
　危害を加える素振りもなく後ずさる怪人を見ていると、こちらの胸も痛んでくるようで、自然と力になってあげたいとみゆきは思った。
「びっくりして、悲鳴をあげたりしてごめんなさい」
「あ、いや……」
　すると、しいたけにさえぎられてくぐもった声が返ってきた。
（よかったぁ。意思の疎通はできるんだね……）
「もし何か困っているなら、私にできること――」
　悩みを聞いてあげようとしたみゆきの気持ちを伝えきるより先に、そこに人影が乱入してきた。

「ファンガス発見なのだー！」
　目を輝かせて叫んだのは、後木真央だった。
　ファンガスとは、つまり菌類のことである。
　ここから展開して、キノコの形状をとるモンスターをこう呼ぶこともあるのだが、真央はこの創作上のモンスターが中庭に現れるたのだと考えてテンションを上げた。
「キノコ人間は実在したのだ！　にゃっふうぅぅ！」
　素早く携帯で写真を撮って、ねこったーにアップする。
「真央ちゃん知ってる！　やっつけ方は、えっと、……そう、燃やす！！！」
「えっ」
「え！？」
　言い切った真央に、怪人とみゆきが驚きの声をあげる。
「あっ、待って、しいたけさん……！」
　途端に逃げ出した怪人の背中をみゆきは呼び止めたが、燃やされてはたまらない。
　怪人しいたけの姿はあっというまに校舎の影に隠れてどこかへ去ってしまった。

　真央はまだぶつぶつ言っている。
「ももも燃やしたらまずい……のだ！？　殺戮なのだ。落ち着くのだ」
　みゆきも顔を青くして真央の説得にあたった。
「しいたけさんは、悪い人じゃありませんよぉ！　燃やすなんてとんでもないですぅ！」
「ま、ま、真央ちゃん、燃やさないのだ。別の方法考えるのだ！」
「しいたけさん、悲しそうだったの……。私、悩みがあるならきいてあげたい……」
　真央がぽんと手を打つ。
「よし！　とりあえず全部もいでみるのだ。そーゆー治療法もあるかも？　なのだっ」
　言うなり怪人の後を追って駆け出す真央を、みゆきも追いかけた。
「あっ、待ってくださいぃ！　乱暴はしないでえぇ……！」

このページにイラストを設定する