＜零神探訪＞青の幽玄（ブルー・アルカディア）｜リアクション

＜零神探訪＞青の幽玄（ブルー・アルカディア）

●聖域前

　謎はつきないが、いつまでも話をしているわけにもいかない。
　いつまた僵尸がやってくるかもわからない。焔が口を開く。
「あたしは塔に用事はないけど、行きたいんだったら僵尸を避けていくルートを確保すべきかしら」
「あっしが、かがり火を焚いちゃろう」
　瓢が答える。
「僵尸が人の吐く息を感知しているのなら、あちこちで火を焚けば奴らの鼻をごまかせるかもしれんしねぇ」
　楓が片眉を上げる。
「それもいいが、居住区の何処からでも降りれるなら何処からでも出てこれるって意味だろ？　骨削が火を焚くなら、その火を明かりに少しばかり墓室に潜ってくるぜ。僵尸は東西の塔にいく奴を追って数が減るだろうから、特にやる事がない奴は、その間に北の聖域まで突っ切って隠れてるといい」
　楓が目顔で指したのは、梨香やリンコだ。
「北の聖域……たしか、サキリ君の偵察では扉があると言っていたわね。一度確認しておきましょうか」
　聖域に向かう途中、瓢は部屋で見つけた紙銭を紙縒り状にして油壷に浸し、蝋燭の要領で火をつけ、道々に置いた。僵尸は火を嫌うという。かがり火は、瓢の思惑通り、僵尸除けになりそうだ。

「目が見えずとも言語を解さずともあっしに騙せんものは無いよぃ」
　飄々と嘯くところが、まったくもって瓢らしい。

　聖域の扉の前にはすでに、ブリジット・アーチャーがいて、お嬢様探偵らしく調査をしていた。
　扉はブリジットの身長の２倍近くある大きなもので、押しても引いてもびくともしない。
　ちょうど目の高さの位置に月と太陽が描かれている。
「この先が聖域かい？」
　瓢が扉に近寄っていく。
「ご神体やエライお方はそういう所にいたがるからねぇ。迂回して抜け道があったり、ろっこんで扉を破壊できりゃラクだがねぇ」
　そういってあたりを調べるが、抜け道らしきものは見当たらない。試しに＜悋気の独楽＞で竜巻を起こしてぶつけてみたが、扉は頑として動じなかった。瓢はさして期待していたふうでもなく、肩を竦めて引き下がる。
「ま、そう簡単に開いちゃあ聖域といえんだろう」
　ブリジットが月と太陽の絵の中央部分、饅頭ほどの大きさのくぼみを丹念に観察して言った。
「この扉はあれよね、この窪みにぴったりあう物を嵌め込んだら扉が開くギミックよね」
　おおっ、と、みんなも覗き込む。たしかに、なにか嵌りそうだ。
　ブリジットはちょっと得意げに胸を張る。

「グランパじゃなくてもこれぐらい知ってる。ハリウッド映画のなんとか教授の大冒険や伝説的な日本製ゾンビゲームシリーズでも同じようなギミック使ってドア開けてるシーンみたことあるわ。と、考えると鍵はやっぱり東西の塔にあるという考えは……安直だけど一番可能性としては高そう」
　このブリジットの考えに、ほとんどの者が納得した。
　そこで、東西それぞれの塔、それから僵尸の出処と思しき地下の墓室――この三か所を重点的に探索するよう通信機を通じて伝達がなされる。