＜零神探訪＞青の幽玄（ブルー・アルカディア）｜リアクション

＜零神探訪＞青の幽玄（ブルー・アルカディア）

●墓室・２

　八神修、朝鳥さゆる、音海なぎさ、神薙焔であった。
　米を撒いたのは修だ。居住区では見つけられなかったもち米を、修は、死体の副葬品の中に見つけたのである。米は巾着に入っていて、死者が飢えぬようにと傍らに置かれたと思われたが、緊急事態ゆえ巾着ごと拝借させてもらった。
　修と焔は桃木剣で応戦し、さゆるは鞘に鳳凰があしらわれたサーベルを、抜かずに鞘ごと鈍器のように振るって乾尸の脳天を打ち砕く。表情を一ミリも動かさずにそれをやってのける姿は、光の射さぬ冷え冷えとした深海のような、狂気の底を感じさせた。
　なぎさが海のそばに駆け寄り、首筋の牙跡を確認する。
「大変だ、噛まれたら僵尸化しちゃうんだっけ？」
　メディカルバックを開く。が、乾尸に噛まれたときどういう対応が最適なのかがわからない。通信機で助けを求めると、すぐに夏夜から返事があった。
『札があれば、丸めて飲ませて』
「わかった！」
　なぎさは手持ちの黄色の札を小さく丸めると、海の口の中に押し込んだ。

　なぎさが海の治療にかかりきりになっている間に、目覚めた乾尸はあらかた退治された。
「見た目はインパクトあったけど、乾尸って僵尸よりも、シツレイだけど格下っぽいわよね」
　焔は水滴を飛ばすかのように桃木剣を振って、乾尸の欠片を振り払う。
　不死信仰なら信仰の中心地はむしろココなのかとも思ったが、そういうわけでもないらしい。
「死体だけか？　生存者は？」
　修が懐中電灯であたりを照らしてみるが、村人らしき人間の姿は見当たらなかった。
　焔がぶるる、と身を震わせる。
「墓室に安置された遺体が乾尸になるのなら、居住区の僵尸はどこから来たのかしら。ジンさんも話に聞いていただけで、『住人』を見たことがあるわけではないのよね……村の本来の『住人』というのが……僵尸、つまり死者だったり？」
　一同は顔を見合わせる。ここまで村人の姿を見ないとなると、あり得ない話ではない。
　そのとき、普通の人間ならたじろぐ様な死の充満するこの部屋で、淡々とした態度は崩さずにあたりを観察していたさゆるが、つ、と棚の方を指さした。
「ここにも僵尸、いるみたいよ」
　むくり、と上体を起こす死体。一体ではない。棚中の死体が一斉に起き上がっている。
　それは先ほどのものより新鮮で、まるで先ほどまで生きていたかのような人間の肉体を持っていて。
「逃げろ！」
　修が叫ぶ。
「こんなに多くちゃ埒が明かない。俺は居住区に戻って僵尸が出てこないよう地下への扉を封じて回る。塔の方へ行く人がいたらそっちも頼む！」
　皆は暗がりの中、散り散りに逃げる。
（どうしよう……）
　噛まれた痛みと僵尸化してしまうかもしれないという不安にさいなまれながらしゃがみ込んでいた海を、軽々と抱き上げた人物がいた。
「大丈夫か、海」
　うん、と海は気丈に頷く。すぐに札も飲んだ。きっと、大丈夫だと自分に言い聞かせる。
「ここから塔にも繋がってるらしい。そこに行ってみよう」
　うん。
　海はもう一度頷き、刀の首に手を回した。