【奇襲、天井裏監視所】

「スピカ君の機体には、指一本触れさせないよ」
「リンタロウ……♪」
　なんてイチャイチャ、スピカと凜太郎の周りにかもしだされるピンクの波動は、お子さまの多いこの空間においては少々、刺激が強かったかもしれません。
「ＯＨ～。オトナのカップルとゆーやつなのデス……」
「これこれ。子どもはあまり見てはいけませんよ」
　思わず穴が開くほど見つめてしまうトワに、姫がツッコミを入れました。
　天井裏を捜索する任務を洋子司令官より（彼女はまったくもって役に立ってませんけれど）仰せつかったのは、トワことギアマスターネーム・セツナと、ネコヤシキ。そしてもうひとりは、ぐみ。ちゃんでありました。
「おもちゃで動物をいじめちゃダメって、お母さんが言ってたけど。今日はしかたないのかなぁ？」
　確かに、純真な子どもたちならまず真っ先に、そこのところが気になることでしょう。優しいぐみ。もまたおかあさんの言いつけと子どもらしい正義感、そして目の前の状況との板挟みに悩み、さぞ心を傷めて葛藤に暮れ、
「オトナだって、お金を払ってねずみとかムシとかやっつけるもんねー。なんにでも例外はあるってことだよね！　よーしがんばろー！」
　即決！　なんとまあ明朗快活でありました。
　左手に愛用のウェアラブル端末を装着し、これでもってカプギアを操縦するのがぐみ。のお気に入りです。
「じゃあいくよー！　ねずみたちの夢の国、ネズミーランドにれっつごー！」
「「おーっ」」
　セツナとネコヤシキも元気よくお返事して、いざ出撃！



　なんて言いつつも、三人の作戦でまずは肝要なのが、隠密行動。セツナとぐみ。はちょっぴりニガテなヤツなので、先導するのはネコヤシキの『ナデシコ』です。

しゃららららん
「ヒメー。ナデシコの背中にくっついてるビンはなんなのデス？」
　セツナと言うとおり、A.I.C.O.に映し出された画面のなか、先を行くナデシコの背中には何やら、毛のようなものが詰まった小瓶がくくりつけられています。これがネコヤシキの考案した作戦でして、
「猫の毛をティーパックに詰めたのです。ねずみは匂いにビンカンな生き物ですから、これをつけたナデシコが基地に潜入して駆けまわれば大混乱、というわけなのですよ」
「潜入って、どうするのー？」
　ぐみ。の疑問にも、ネコヤシキは不敵な笑みを浮かべます。実に、仕掛けは万全なのです。
「ナデシコにはステルス機能がありますからね。この手の作戦には最適なのです。だからこっちは気にせず、そちらの作戦はよろしく頼むですよ」
「分かったーのデスー！」
「うん、まかせてー！」
　ねずみたちの天井裏基地攻略のため、三人はふたつの作戦を同時決行することになりました。ひとつはナデシコによる猫の毛潜入大作戦。
　そしてもうひとつはセツナが考案した、ナデシコの基地潜入への糸口となる、洋子ちゃんとの連携プレーです。
「ハイチについたデス！　ヨーコ、ヤッテヤルデスー！」
「ああ、まかせたまえ！」
　セツナの要請に応えて洋子ちゃんがばばーんっとこれ見よがしに取り出したのは……そう。またたびメイト・チョコレート味！
「フフフ、ぼくのこれを開ける動作にかけては、右に出る者などいないぞ？　なにしろ３６５日、毎日開け続けているのだからね！」
　あんまりカッコよくないセリフとともに、個包装をぺりぺりぺりと開けた瞬間……じりりりりりん！　天井裏に築かれたねずみたちの監視所へ、何やらブザー音が鳴り響きます。
「でんれいっちゅ！　でんれいっちゅ！　ニンゲンがまたたびメイトをあけたっちゅ！」
「おお、しょくりょうゲットのチャンスだっちゅ！　ごうだつぶたい、しゅちゅげきっちゅー！」
　さっそく、というかまんまとと言いましょうか、剣と盾で武装したねずみたちの部隊が監視所からずらずら出てきて、今しがた洋子ちゃんの開けたまたたびメイトを奪い取るべく行動を開始しました。
　その瞬間こそがセツナの、
「サクセンドーリ！　なのデス！」
「よーし、私の出番だね！」
　強奪部隊が階下へ降りる前、なんとかポッシブル的にロープを垂らしているところを狙って、セツナの『ブレイズガーディ』とぐみ。の『ST93』、通称ガラクタ君が突撃！
「うわっちゅ、しまったっちゅ！　こ、これはワナだっちゅ～！」
「気づいても遅いよー！」


　ぐみ。がウェアラブル端末へ華麗に指を滑らせると、画面のむこうでガラクタ君が唯一の武器、高周波振動式無銘刀をずばばんっと一閃！　ねずみたちをまとめて薙ぎ払います。
　変形カプセルギア、ブレイズガーディは黒豹モードで高速接近し、人型モードへ変形して強襲！　ブレードを二度三度と振るってねずみたちへ斬りつけ、あっという間に部隊を全滅させてしまいました。
　ちなみに念のため、もちろんねずみたちはＫＯされてグロッキー状態なだけでして、彼らのその後の健康状態には問題ないのでご安心を。
「上手くいったねー！」
「ＯＫ！　ツギにいくマス！」
　そうして何度か同じ手を繰り返し、ふたりは監視所の守りを少しずつ削いでいきます。
「ご、ごーだつぶたいがいっぴきももどってこないっちゅ！　どーなってるっちゅか！？」
「まずいっちゅう、このままではまたたびメイトがぜんぶたべられてしまうちゅう！」
　そしてここからがいよいよ、ナデシコの出番です。
「……んっ！？　な、なんかニオウっちゅう……？」
「こっこれは、ねねねねねねねこのニオイっちゅう！？」
「た、たべられるっちゅうー！！」
　監視所はたちまち、天地をひっくり返したような大騒ぎ！　ステルス機能を駆使して潜り込んだナデシコが縦横無尽に駆け抜けると、背中の小瓶からモワモワと流れ出す猫ちゃんスメルに、ねずみたちは大混乱に陥ってしまいました。命のキケンとあっては、食べ物どころじゃありません。
　さらにネコヤシキの作戦は、それだけに留まりません。
「この隙に、糸を切っておくですよ」
　この監視所を中心に家中へ張り巡らされた糸電話ネットワークを、右手のカタナですぱすぱと切断していきます。
「こうして電話をガシャンと切ってしまえば、本隊にも連絡は届かなくなり、通信部隊も強奪部隊も阿鼻叫喚というわけなのですよ……」
「ああっ、ニンゲンのへいきがもぐりこんでるっちゅ！　われらのハイテクなネットワークをハカイしようとしているっちゅう！」
　こうなってはもう、見つかっても大丈夫。左腕のユミから待ち針を発射して足止めしたところへ、カタナでひと突き！　ちゅうっとダウンしたところへ、満を持してガラクタ君とブレイズガーディも監視所へ乗り込み合流、大あばれ！
「ねずみくんたち、かわいいなー。仲良くできるのが一番なんだけどねー……でも、人のもの取ったらダメだよー！」
「ショセンこの世はジャック・ニック・キューショク！（注・弱肉強食）　強いほーが生き残るのデス。ナムー」


　ブレイズガーディは黒豹モードへ変形し、素早い動きで駆け巡りながらミサイルを乱射。ガラクタ君の無銘刀はますます冴えわたり、ねずみたちをばったばったと仕留めていきました……繰り返しますけれど、二度と起き上がれないまでやっつけてしまったりはしてませんよ！
「ていうかねずみくんたちー。そんなかわいい手で剣とか盾を持つより、顎つかおうよ！　そのほうがよっぽどつよいと思うけどなー」
「い、いわれてみればそのとおり、だっちゅう……」
　ネコヤシキ、セツナ、ぐみ。の活躍で、天井裏監視所もまた完全制圧！
「こんなところでしょうか。いいシゴトっぷりだったのですよ、ふたりとも」
「yeah！　ホメられたのデス！」
「やったねー！　それじゃ私たちも、床下のみんなを助けにいこう！」
　これで残すは、床下大城塞のみとなりました。