【激戦、壁裏迷宮！】

　一方こちらは、壁のなか。
「うっわ、こっちもすごいことになってる」
「すご。なにこれすごっ」
　樹と由枝はA.I.C.O.に映し出された光景を見上げて、思わずぽかんと口を開けてしまいました。
　上へ上へと続く階段は、拾い集めた木片やプラスチックのかけらなどで作られているわりに、かなりしっかりとして頑丈そうです。踊り場からはいくつもの足場や小部屋が繋がっていて、どうやらねずみたちがそこに常駐しているようです。見たところかなり入り組んでいて、うっかりすると迷ってしまいそう。
　情報を共有するため、由枝……ギアマスターネーム・セナは部屋の面々へと、それを掲げてみせました。本当は少々人見知りな彼ですけれど、せまい部屋にぎゅうぎゅうと詰め込まれながら、ひとつの目的に向かってみんなでがんばるというこんな状況には、ちょっぴりうきうきとしていたのかもしれません。
「わぁ、まるで迷宮だね！」
「思った以上の複雑な構造……これはたいへんだなぁ」
　覗き込んだのは、工藤 歩夢と深谷 博士です。
「由枝くん、そっちはふたりだけで大丈夫？」
　女の子のようなお顔の歩夢が鼻先の触れてしまいそうなところでそう言ったので、セナはなんだかどきどきとしてしまいます。
「だ、大丈夫……それより、そっちの床下班のほうが厳しそうだし。がんばって」
「うん、ありがとう♪」
　そう。床下大城塞があまりに大規模なもので、こちらの壁裏班はセナと樹のふたりでなんとかしなければならないのです。
「よし、それじゃいくよー」
「ＯＫ。慎重にいこう」
　マイペースな樹の操るカプセルギアが、セナとその愛機を先導します。
　『配管工』はいくつかある樹のカプギアのひとつで、なんと言いましょうか。ぶっちゃけどっかで見たような、世界的に有名なあのゲームキャラをモチーフとした機体です。真っ赤な帽子にちょび髭を生やしたオーバーオールの人型ギアには、きっと誰もが親しみを覚えてしまうことでしょう。
　それはさておき。といーん、ぽいーんと特徴的な効果音、特徴的なポーズとともに階段をジャンプで登っていく配管工に、セナはちょっぴり不安を覚えます。
「そういえば……これだけあちこちにねずみがいるんだから、話し声とか音が聞かれてたりしないのかな」
「言葉が分かるねずみだからねー、そういう可能性も……」
「そのとおりだっちゅ！！」
　突然聞こえてくる声。
　ばばん！　階段の踊り場に、あちこちの小部屋に設けられた覗き窓に、ちゅっちゅっちゅっとたくさんのねずみたちの姿が……待ち伏せです！
「このいえはもはやわれわれのものだっちゅ！　われわれのネットワークがつねにおまえたちをカンシして、ハンランはみのがさないのだっちゅ！」
　おそろしいことをのたまうねずみたち……ともあれ、戦闘開始！
　さっそくねずみたちの弓隊が、高い所からびゅんびゅんと矢を放ち始めます。
「勝手なこと言っちゃって。ま、面白い相手と戦えるのは嬉しいけどね」
　といんぽいんと小刻みジャンプで矢を避けながら、配管工は右腕から炎の玉を発射！　某ゲームキャラが得意なアレです。
「っちゅうー！？」
「あついっちゅ！」
　ぽこん、ぽこんと火の玉をぶつけられたねずみはちゅうっとダウン。とはいえ敵の数は膨大でして、一匹ずつやっつけていくのはちょっと大変そうです。
「なら、これだね！」
　左腕からぽこんと現れたのは、大きな緑色の亀の甲羅。某ゲームキャラが踏んづけたり投げたりするアレです。といーんとジャンプしてぶん投げると、甲羅は階段を滑るように走り抜け、直線状に並んだねずみたちをまとめてぽこぽこぽこん！　
　なんて、ひょいひょい矢を避けつつの快進撃で、ちょっぴり油断していたのでしょうか。
「……あれっ、なにこれ！？」
　ねずみたちの遊び道具か、はたまたトラップか。樹の配管工が入り込んでしまったのは、くるくると回転する回し車！
「それ、ハムスターが良く遊んでるやつ……？」
「いまだっちゅ、ぐるぐるだっちゅうー！」
「うわわわわ、回る回る回る～！」
　ねずみたちも回し車の上に乗っかり、ダッシュで回転を早めてくれるもので、配管工は逃れる隙がありません。
　くるくるくる、ぐるぐるぐる……次第に樹まで目が回ってきてしまいました。
「い、今助けるから待ってて……！」
　と言いつつ、セナはセナで手いっぱいです。
　セナの『ポラリス』は魔法使いをモチーフとしたカプセルギアで、攻撃力とスピードに優れる反面、機体の強度は決して高くありません。雨のように降ってくる矢はつまようじ程度のもので、それほど威力はありませんけれど、それでもじわじわとダメージは蓄積していきます。防戦一方では、いずれやられてしまいます！
「こうなったら……！」
　氷の魔法を放ってねずみたちを凍えさせて追い出し、占拠した部屋に陣取ると、ポラリスは左手を掲げます。
「ねずみたちの弓を壊す！　当たれっ、ミーティア！！」
　セナの声とともに、左手へ生まれた光がぱあっと飛び散り、壁裏迷宮の上のほうへと登っていったかと思うと……ずばばばば！
「ちゅうっ！？　いえのなかに、いんせきがふってきたっちゅう～！」
　ポラリスの大魔法が炸裂！　流れ星が降りそそぎ、ねずみたちの手から次々に弓矢を弾き飛ばしていきました。
「おーっ、派手だね～。これは私も負けてられないね！」
「こっこいちゅ、われらのぐるぐるトラップからのがれられるはずが……」
　ずごごごご……実は樹の愛機、配管工には特定の条件のもとでのみ発動する、特殊な機能があるのです。
　大量のねずみに囲まれ、罠にかかって身動き取れない今こそが、まさにその時！
「ふふふ、とっておきを見せてあげよう。配管工、巨大化だー！」
　左手からぽんっとキノコを生み出すとそれを取り、配管工はことばどおり、二倍程度の大きさにずずずんっと巨大化！　某ゲームキャラのようなパワーアップ風景です。
　配管工はあふれ出すパワーで回し車を内側から破壊すると、そのまま階段を上りながら進撃して、目に付いたねずみ製のあれこれを豪腕で薙ぎ払っていきます。
「お、おちるっちゅう～！？」
　時にはねずみ自身がそれに巻き込まれて、ちゅう～～～っと階段を落下してしまうこともありました。そんなときには、
「……危ない！」
　ポラリスが素早い動きで駆け抜けて、うっかりねずみを空中でぽすんとキャッチ！　安全に下ろしてあげました。
「大丈夫？」
「た、たすかったっちゅ。にんげんなのに、いがいといいやちゅ……？」
　セナの目的は洋子ちゃんのスマホを取り返すこと、海堂家の平穏を取り戻すことで、ねずみたちをいたずらに傷つけるつもりはないのでした……樹のほうはと言いますと、ちょっとどうだか分かりませんけれど。

「いけいけ～配管工！　ぜーんぶぶっ壊せ～！」
「ごめんよ。オレも、退くわけにはいかないから……いくよ、ポラリス！」
　二体のカプセルギアがほうぼう壊しまくり、時には落っこちねずみをレスキューしたりしているうち、やがて壁裏迷宮は完全崩壊！　がらがらがらと崩れ落ち、
「ま、まいったちゅう……！」
「にんげんのへいき、おそるべしだちゅう……」
「えっと。とりあえず、しばらく大人しくしててね？」
　ねずみたちは、白旗を振って降伏したのでした。