【ラブ・アタック！】

「おお、いいぞ君たち！　その調子で、ガンガンねずみどもを懲らしめてやってくれたまえ♪」
　なんて、次々と戦果を上げるギアマスターたちに、洋子ちゃんはひとりごキゲンですけれど。
　りゅーきとkanon、Aoiなど床下班の面々は、大城塞を前に大苦戦中であります。
「わぁ、ねずみたちの要塞、すっごい頑丈だなぁ。がんばって作ったんだねぇ」
「あの大砲とバリスタがやっかいだね！　これじゃ壁に近づくこともできないよ！」
「とにかく、今は耐えるしかないわね……！」
　のほほんりゅーきはともかく、kanonとAoiの表情には焦りも見え始めます。城塞はありものの材料をかき集めて作ったとは思えない堅牢さでして、突破の糸口が見えません。
　と。そんな城壁の上に、ぴょこん、と現れた人影……いいえ、鼠影が！
「ちゅっちゅっちゅ。ニンゲンはやはりオロカなイキモノよ……このようなぶきをつかいながら、われらにまえあしもうしろあしもでないではないか。ちゅっちゅちゅちゅ！」
「あれ？　なんかすごくえらそうなねずみがいるよ？」
　kanonのキングニャーサーが剣で指した先には、ヒラヒラとしたながーいマントを羽織り、きらきらラメの入った服を着て杖を持った、なにやら身分の高そうなねずみがおりました。頭には、おもちゃの王冠まですっぽりとかぶっています。どうやらねずみたちの王さま、リーダーであるようです。
「このいえはもはや、われらねずみていこくのものだっちゅ。いえちゅうをあなだらけにされたくなければ、いちにちにチーズをひとつかまたたびメイトのブロックを、みちゅぎものとしてささげるがよい。さもなくば……ちゅっちゅっちゅ！　あのニンゲンのむすめは、このひかるいたがたいそうだいじなようだっちゅ。これをめちゃくちゃにしたら、どうなるっちゅかな……？　ちゅっちゅっちゅ！」
「あっ。あれ、例のウィルス入りスマホじゃない！」
　ねずみの王さま、いえねずみ帝国だから皇帝？　エンペラーねずみはこれみよがしに奪った洋子ちゃんのスマホを見せつけて、ずうずうしくも差し入れを要求してきました。なんとも大胆不敵なねずみたちでありました。
　とにもかくにも、スマートフォンを取り戻さなければなりません。幸い、ねずみにはそう簡単にウィルスを拡散するなどという芸当はできないでしょうから、まだしばらくの時間の余裕はあるでしょう。ただ、皇帝ねずみは確かに知能が高そうですし、いずれは洋子ちゃんに代わってスマホを使いこなしてしまわないとも限りません。
　もちろん彼らだって、従順に要求を受け入れるつもりもありません。
「……後悔、するよ？　ねずみさんたち……」
　静かに、氷のような冷たさで言ったのは、スピカ・フォーツ。ギアマスターネームはエクリプスです。
「そうとも。大事になる前に、そのスマホは返してもらおうか」
　かたわらには、スピカとは互いを大事に想い合う間柄である、鷹司 凜太郎の姿もありました。
「いっしょに……いこう？　リンタロウ」
「ああ！」
　ふたりはそろって、ヤル気十分！　城壁の前に群がるねずみたちめがけ、それぞれのカプセルギアが突撃していきました。



　りゅーきは城壁へ、割りばしを使ったはしごをかけようと試みています。分厚い壁を破れないなら乗り越えてしまおう、というナイスな発想です。
　エクリプスの『トライアルα』と凜太郎の『頼光』は、これを援護するよう布陣することにしました。
「久々に、この機体使うけど……」
　エクリプスはもはや、経験豊富なベテランマスターです。防御をまったく考えていないピーキーな性能のトライアルαを自分の手足のように操って、ねずみたちを翻弄します。
「こっちはこっちで……イイ、感じ……！」
　トライアルαのメインウェポンは、ライラプス・CWC2R（圧縮波動砲）。威力と攻撃範囲は絶大ながら、撃つためには長いチャージ時間が必要です。
　その時間を稼ぐために、トライアルαはローラーダッシュによる高機動を活かしてねずみたちの間を駆け巡り、引っかき回してかく乱します。接近するねずみには、左腕のクローからぶおんっと光波を放ち牽制攻撃。同時にボディからはリフレクトビットを展開して、援護射撃とバリアでねずみたちの小銃による波状攻撃をしのぎます。
　華麗な機体さばきで回避しまくり、ちゃくちゃくとエネルギーをチャージしていくエクリプス。とはいえ、なにしろねずみたちは数え切れないくらいにたくさんです。
「っ、ちょっとキツイ、かも……！　リンタロウ、お願い……！」
「ああ、任せてくれ」
　そんな時は、相棒の出番！
　凜太郎の頼光もやや攻撃とスピードを重視しているものの、どちらかというとあらゆる状況に対応する、オールラウンダーなバランスタイプです。
　そしてそのポテンシャルの全ては今、トライアルαを守ることに費やされています。

「スピカ君の機体には触れないでもらおうか？」
　言うが早いか、頼光はレッグパーツの『縮地』機能を発動して急加速。一瞬でトライアルαの前へ走り込むと、右腕の名刀・童子切を一閃！　ずばばんっ！
「ちゅうっ！？　いたいっちゅ！」
「ニンゲンめ、なかなかやるっちゅう……！」
「スピカ君を狙うというなら……僕の頼光が斬り捨てる！」
　銀色に輝く左腕で、小銃の威力をそのまま返すカウンター攻撃！　怯んだ隙に、
「『壱』ッ！！」
　短い言葉に反応し、頼光が稲妻のような突きを放ちます。凜太郎はA.I.C.O.の音声入力機能へ、壱なら突き攻撃、弐なら袈裟斬り、参なら逆袈裟に斬り上げ……などなど攻撃パターンを登録して、とっさに繰り出せるよう備えているのでした。
　おまけに右手に握った童子切には、斬りつけた相手からエネルギーを吸収する『血吸』の効果が備わっています。
「簡単に落とせると思わないでもらおう」
「ちゅ、ちゅよいっちゅうー！」
　頼光、獅子奮迅の大活躍！　そんなふうにカプギアを操る彼の凛々しいお顔には、スピカも思わず、
「リンタロウ……かっこいい♪」
　メロメロでありました。バトルしながらもすぐ横を見れば彼の顔でうっとりできるとは、なんて便利なんでしょう！
　凜太郎が情け容赦ナシにずばずばねずみを攻撃しているうち、トライアルαの圧縮波動砲にはやがて十分なエネルギーがチャージされ、発射可能の合図をA.I.C.O.が伝えます。
「……チャージ完了！」
「頼む、スピカ君！」
　示し合わせたように、するりと体を入れ替える二体のカプセルギア。前へ出たトライアルαは右腕を突き出し構え、レッグパーツに搭載された鉤爪状のアンカーを地面に食い込ませ、耐ショック！
「圧縮波動砲Ｒ２……放て……！」
　ずばーーーっ！！　右腕の砲口からぶっといビームが発射されて城壁の一角へ真正面からぶち当たり、城塞をごごんっと揺らしました。おまけにトライアルαは砲口を横に振って、広範囲をビームで薙ぎ払います。巻き込まれたねずみたちは弾き飛ばされ、ちゅう～！？　っと宙を舞いました。
　壁の上では皇帝ねずみが、
「ちゅちゅちゅちゅちゅうっ！？　お、おまえたちゅ、われらがようさいをししゅするのだっちゅう～！」
「慌ててているな。この調子で頑張ろう、スピカ君」
「……うん♪」
　スマホで操縦しながらも、スピカは頭を凜太郎の肩へちょこんと預けます。
　ふたりの愛の快進撃（？）は、まだまだ続きます！