【床下大城塞の攻防】

「まずは、こっそり偵察するよぉー……」
　こっそりこっそり。ギアマスターネーム・りゅーきこと曖浜 瑠樹は、簡易端末に映し出された映像を覗き込みながら、『ラズちゃん』をゆっくりと前進させていきます。
　りゅーきと一行は、壁の穴を抜けた先、下へと続く道を伝ってお家の床下へと降り立ちました。そこには、なんとも驚くべき光景が広がっていたのです。
「ふわー。こんなところに、でっかいお城ができてる！」
　滝原 カノンも『キングニャーサー』の盾をがっちり構えて警戒しつつ、目をぱちくりとしてそれを見つめました。
　お城というか、砦というか。いっそ城塞と呼ぶべきかもしれません。そこにはねずみたちがかき集めたいろんな材料によって作り上げられた、カプギアと比べたらあまりにも巨大な床下大城塞が、ででんっとそびえていたのです！
「ねずみがこんなものを？　神魂の影響とはいえ、すごいわね」
　蒼……AOIはおもわず感心してしまいながらも、愛機『Diablo Azul』を柱の陰に潜ませて、様子をうかがいます。
　りゅーきは端末へ、ついつい自分も小声になってしまいながら、
「A.I.C.O.ちゃん、もう少しズームおねがい」
『分かりました。カプセルギアでねずみと戦うなんて、想定外の使い方ですけど、せいいっぱいサポートしますね！』
　やけに物分かりの良いカプギアオペレーションシステム、A.I.C.O.の協力もあって、城塞のあちこちがより詳しく映し出されます。
　城壁は分厚くて高く、ちょっとやそっとではびくともしなさそうです。それに壁の上には大砲やバリスタが据えられていて、あたりへ狙いをつけています。
　そしてそこらじゅうには、鉄砲を持った兵隊ねずみたちの姿がありました。
「ねずみさんすごいなー！　って、感心してる場合じゃないよね……きっとここが本拠地だよね、どうしよっか？」
　KanonがりゅーきとAOIにそう尋ねた……次の瞬間！
「……ちゅうっ！？　なんかヘンなやつが、われらのじょうさいをのぞいてるっちゅ！」
「あれはかぷせるぎやーっていうやちゅだっちゅ！　ニンゲンがつかう、おそるべきシンリャクヘイキっちゅう！」
「て、てきちゅうー！　てきちゅうー！」
　ねずみたちもきっちり見張りを立てていたらしく、あっさり見つかってしまいました。
　ちゅうちゅうちゅうちゅう！　あたりにはどこかから拾い集めてきたらしい、オモチャのブザーやらサイレンの音がぶーぶー鳴り響いて、ねずみたちは臨戦態勢！
「うおー、そっちはすごい状況だなぁ」
　ひょいと蒼のスマホを覗き込み、カプギアは別行動中なお隣の新田 樹が、思わずぽつり。
「どうするの？　それ。私のカプギアも応援に向かわせようか？」
「ううん、大丈夫。こっちはこっちで、なんとかするわ」
「オッケー。んじゃ、そっちは任せたー」
　ばらばらに行動していながらも、こうしてすぐに意思の疎通ができるのは、なんとも便利なことです。
「戦闘開始ね！　行くわよ、Diablo Azul！」
　AoiはDiablo Azulのビームライフルで牽制射撃を行いながら、高機動レッグでしゃきしゃきと移動を始めます。
「きっと大砲やバリスタの射撃でこっちの足を止めて、兵隊ねずみが包囲するって手堅い作戦ね。頭上を取らないと膠着状態になる……私は高所を取りに行くわ、援護して！」
「分かったよぉー！」


　ラズちゃんはわっかビームをほわほわほわんと放ち、壁の上の大砲やバリスタを操作するねずみたちを狙い撃ち。その隙にDiablo Azulが、いくらかねずみのマークが薄い、城壁と同じくらいの高いところを探します。
　これもまた神魂の影響でしょうか？　今日はなんだか、カプセルギアの攻撃が現実のものにも作用するようで、ビームは壁をちょっぴり剥がし、ちゅうーっというねずみたちの悲鳴も聞こえてきます。とはいえ、当たってもそれなりに痛いというくらいで、大怪我をさせてしまうほどではないようです。
「ごめんなぁー、ねずみたち。ちょーっとガマンしてなぁー？」
　やさしいりゅーきはねずみたちのことも心配しておりますけれど、
「ふぁいやーっちゅ！」
「ニンゲンのへいきをちかづけるなっちゅ！　うつっちゅー！」
　城塞の門扉から現れた兵隊ねずみたちがライフルを構えて、ちゅちゅちゅちゅちゅん！　と撃ちまくり！
「わわわ……！」
「瑠樹くん、あぶないー！」
　すかさずキングニャーサーがラズちゃんの前に滑り込み、クロスシールドを構えてがっちりガードしてくれました。
　けれど、
「ありがとなぁー、滝原君！」
「うん！　でも、銃弾くらいなら防げるけど……」
「いしゆみとたいほう、うてーっちゅ！」
「……あれはむりかもー！」
　大砲がどかどか、どかん！　身をかわしたキングニャーサーとラズちゃんの目の前で砲弾が大爆発を起こし、バリスタから発射された矢が雨あられと降りそそぎます。
　ねずみにしては火力過多な布陣によって、ギアマスターたちは防戦一方です。Aoiも銃弾砲弾に阻まれて、まだ有利なポジションを得ることはできないようです。
「もう。ねずみも案外、やるじゃない……！」
　と。
　その時でした……みんなが操作するA.I.C.O.の画面に、ぴこん！　とメッセージの到着を伝えるアイコンが灯ります。
『やっほーっ！　グリフィーちゃんより、伝令でんれいっ♪』
「あっ。グリフィージスちゃんだぁー！」
　聞こえてきたやけに明るいノリノリ・ボイスに、りゅーきのお顔がほんわかします。
　『グリフィージスちゃん』。それは近頃カプセルギア界隈でウワサの、ヴァーチャルMewTuber！　先日行われた、カプセルギア初の公式イベントにて鮮烈なデビューを果たし、少しずつ知名度を上げつつある注目株なのでした。
　ちなみに中の人こと八重崎 五郎八お姉さんの姿は、この部屋のなかにはありません。どこか別のところからミッションに参加しているようです。いわく、『そのほうが謎めいてて面白くない？　てへぺろ☆』とのこと。
『グリフィーちゃんが、これから煙幕を張ってねずみさんたちを燻し出すよ～！　そしたら一網打尽、よっろしくね～♪　でもちょっと準備に時間がかかるから、それまで耐えててね！　いっしょに頑張ろうね～、にんにんっ♪』
　どろろん！　というニンジャが追手を煙に巻くようなサウンド・エフェクトとともに、メッセージはぷつりと切れました。今日のグリフィーちゃんは、忍びの者よろしく隠密行動に徹するようです。
　ねずみたちの攻撃はどかどかと続いておりますけれど、どうにかしばらく耐えることができたなら、その後は状況も好転するかもしれません。
「なるほど、了解！　厳しいけど、なんとか凌ぎましょう！」
「「おー！！」」
　Aoiの言葉にりゅーきとKanonも元気よくお返事をして、びしばし飛んでくる攻撃の嵐を耐え忍ぶのでした。