あなたの財布に１０万円！｜リアクション

あなたの財布に１０万円！

　ミラの声を聞いた千歳飴楓子は、天から清浄な光でも射しているかのように、自然と空を仰いだ。
「自由に使って良い金が、１０万円も……！？」
　知らず零れた声が、微かに震えを帯びる。
　楓子は、１万円札１０枚分膨らんだ財布を、両手に握り締めた。
（大地に、海に、世界に感謝……）
　１０万円は、常でも美味しい臨時収入だ。
　しかし楓子にとっては、それを得たのが『今』であることにも大きな意味があった。
（これだけあれば、限定ＳＳＲが沢山手に入ってイベントも走れて最高……！）
　そう、楓子が手を出しているスマホゲームの中には、今、水着イベントを開催しているものがあるのだ！
（初夏限定ＳＳＲ水着カード……楓子のことを待っていてくれ……！）
　かくして、楓子はある場所へと向かった。
　目指すは――そう、近隣のコンビニエンスストアである。
　店内へと足を踏み入れる楓子。
　そして彼女は、心中の興奮を覗かせない、何気ない顔で課金に必要なりんごのカードを手に取り、レジへ。
　しかし、楓子がりんごのカードを錬成するのに使ったのは、１万円札２枚だけだ。
　そのまま、何でもない顔をして、店を出る。
　だが勿論、楓子は２万円の課金で満足したわけではない。
（ふう、コンビニをはしごするのも楽じゃないな。次は……）
　楓子は、５分ほど歩いたところにある、別のコンビニエンスストアへと急いだ。
　そこでも、同じ行動を繰り返す。
（１箇所で１０万円分買うと、店員から怪訝な顔で見られるからな）
　店員に余計な心配をさせないため、そして、楓子自身が怪しまれないため……。
　最低３箇所のコンビニはしごは必須だと、楓子は身に染みて知っている。
　そう、これは、経験に基づく、合理的な判断！
　さて、恙無くコンビニエンスストアを回り終えた楓子は、公園のベンチに腰を下ろした。
　取り出すは、勿論スマートフォン。
「ふふ……１０万コイン……これだけあれば初夏限定ＳＳＲ水着カードが３枚は手に入るだろう……ふふ……」
　楓子の口から、勝手に笑みが漏れる。
「まずは１０連……」
　画面をタップすれば、さあ、本気の時間の始まりだ。
　１０連ガチャ１回目。引きは、残念ながらあまり良くない。
「……まあ、最初はこんなものだろう。コインはまだまだあるからな……さて、２０連目……」
　またも、限定ＳＳＲ水着カードは来なかった。
「……まだだ。まだコインはある。ふふ……」
　３０連目、４０連目、５０連目……。
「…………」
　楓子、途中からもう無言である。そして。
「３５０連目……！　これで……！！！」
　渾身のタップ。しかして、その結果は――、
「……くっ……ドブ……！！！！」
　スマートフォンを握っていない方の手で、思わず膝をだむと叩く楓子。
　なんかもう、目が血走っているように見えるのは気のせいだろうか。
「まだだ！　まだコインは……な、無い！？　もう無くなったというのか！？」
　――まだ１枚も、ＳＳＲ限定カードを引けてないのに！？
　見事なまでのガチャ爆死。
　かろうじてＳＲは出ないでもなかったが、そちらも課金した額を考えると渋いものだ。
　楓子は、ガタン！　とベンチが揺れそうなほどの勢いで、立ち上がった。
「くっ！　こうしちゃいられない！　追課金だ！！」
　楓子は走る！　限定ＳＳＲ水着カードの為に、ＡＴＭへと！
　追課金の結果は――未来の楓子のみぞ知る、である。