あなたの財布に１０万円！｜リアクション

あなたの財布に１０万円！

　部活を終えた羽生碧南は、シャワーを浴びて纏わりつくような汗を流し、さっぱりと着替えたあとで、
「……え？　じゅ……１０万円が入ってる！」
　と、財布の中身を確認して、目を剥く羽目になった。
　普段碧南は、財布には千円札を２、３枚程度しか入れていない。
　今日も、その例に漏れてはいなかった。そのはずなのに。
「ど、どういうことなの……？」
　頭の中に謎の声（ミラの声だ）が響いたのはその時だった。
　声が碧南に伝えたのは、今日中にこの１０万円を使い切らなくては世界経済が破綻する、という話。
　しかし碧南は、その声や話を訝しむでも恐れるでもなく、
（何だかよくわからないけど……ウキウキしてきた！）
　なんて調子で、胸をふくふくと膨らませる。
　かくして碧南は、友人達からの誘いも「今日は用事があるから！」と断って、
「よーし！　目指せ、シーサイドタウン！」
　と、意気揚々と街へと繰り出した。
　向かったのは、馴染みのゲームショップだ。
「こんな機会でもないと、今まで買えなかったゲームを買う機会なんてないじゃない！」
　なんて、今まで予算的に諦めていた乙女ゲームを、片っ端からカゴに入れていく碧南。
「これ、ずっと気になってたんだよね。あっ、ファンディスクも買わなきゃ！　グッズも色々気になるし……」
　という具合で、碧南はカゴいっぱいに乙女ゲーム（とその関連グッズ）を詰め込んで、レジへと。
　支払い金額を聞いて、「お釣りお願いします」と財布から７万円を取り出していると、
「わ、碧南ちゃん？　どうしたの、そんなにたくさん買って」
　と、近くを通った顔馴染みの店員が、驚いたような声を出した。
　えへへ、と弾む心のままに笑みを零す碧南。
「実は、宝くじに当たったんです！」
「へええ、それはすごいね」
「あ、そうだ。これ全部、宅配便で寮に送ってもらえますか？」
　大量の心の栄養（乙女ゲーム達）のことはお店に一旦任せてしまって、碧南は再び街へ。
　ゲームに触れる時のことを考えるとそれだけで頬が緩むが、
（残りのお金も使わなくちゃなのよね……どうしよう）
　あれを買うか、これを買うか。
　色々と考えながら歩いているうちに、碧南は、寝子島シーサイドアウトレットに辿り着いた。
　ぐっ、と拳を握る碧南。
「うん！　ここで何か買っちゃおう！」
　アウトレットの中で、碧南は、『新作水着大セール！』の文字を目に留めた。
　セールは、複数の店舗で行われているようだ。
　色々と店を巡ってみたものの、自分では「これだ！」というものを探し出せず、
「すいません、水着を探してるんですけど……」
　と、碧南は、気になったショップの店員に声をかけてみた。
「そうですねぇ……お客様は、モデルさんみたいな高身長ですので……」
　あ、こちらなんてよくお似合いかと思いますよ、と、差し出される１着。
　それは、大人っぽく、かつ、ちょっと色っぽいアイテムで、
「こ、これ、本当に大丈夫、ですか……？」
　なんて、試着した碧南は、頬を朱に染める羽目になった。
「大丈夫どころか！　とてもお似合いですよ、お客様！」
「じゃ、じゃあこれで。あとは、サンダルとか……」
「ああ、でしたら……」
　そして始まる、水着姿のファッションショー。
　結局小物類等もそのショップで購入して、碧南は無事、世界平和に貢献し、
「あー、楽しかった！　夏の準備もバッチリだし、帰ったら乙女ゲームも待ってるし！」
　と、軽やかな足取りで家路を辿ったのだった。