あなたの財布に１０万円！｜リアクション

あなたの財布に１０万円！

　財布を開けば、そこには見覚えのない１万円札１０枚が追加でドン！
「……へ？」
　思わず間の抜けた声が口から零れたその瞬間、ミラの声が、史越奈津樹の頭の中に響いた。
　衝撃の事実を告げられた奈津樹の第一声は――、
「え、まじで」
　だった。頷くような間があって、ミラが再び言う。
『まじでございます。どうか、その１０万円を使い切ってこの世界の未来を……』
「え！！！　まじで！！！！」
『ひゃっ！』
「財布のこの１０万って、何に使っても良いの！？」
『あ、はい、そうです、そうなのです！　存分に使いまくっちゃってください！』
　お願いしますね！　と奈津樹に負けじとばかりの勢いで言い切って、ミラの声は途絶えた。
　いつの間にか強く握り締めていた手元の財布を見る奈津樹。
　それから彼は、いい感じに晴れている空を見上げた。
「神がいる……！！！！？！！！！！！！！！！！！！！！！！？」
　感嘆符の多さは、興奮と感動の現れだ。たぶん。
　暫し呆然としたあとで、奈津樹は、ハッと我に返ったように、財布の中身をもう一度確かめた。
　そこには、やっぱり１０万円がドン！
　大丈夫だ、消えていない。白昼夢とかじゃなかった。
「え、え、本当に……？　これを、自由に使っていいんだ……！」
　ならば、奈津樹の欲しいものは既に決まっている。
「じゃあ念願の液タブを！　俺は買うよ！」
　かくして、奈津樹はいそいそとＰＣショップへと向かった。
「予算１０万って凄くとんでもないけど、ゲーム制作の為にも使えそうなものをそろえるとなると……」
　うむむ、と唸る奈津樹。
　憧れの液晶タブレットは、当然譲れない。
　けれど、店内には、奈津樹の心を誘うものが、他にも盛り沢山だ。
「あれのバージョンアップもしたいし、モニターももう１台欲しいなぁ！」
　デュアルモニタにしたいんだ！　と、奈津樹の夢は膨らみまくり。
「ええっと、学生割引が効いてもちょっと出ちゃうかな……でも、このくらいなら！」
　奈津樹は、何かに追われているくらいの勢いで、けれど表情はわくわくとさせて、一旦、店を出る。
　走りながらあるものを探す奈津樹の心中は、
（俺の貯金と合わせたら、買えるかも！）
　という次第で、ここでいう『あるもの』とはＡＴＭなのだった。
　奈津樹、どこまでも本気である。
「あった！！」
　今日は何だか、ＡＴＭもきらきらと輝いて見える。
　列に並び、自分の番が回ってくるのを待つこと、５分ほど。
　その時間すらもどかしく感じられて、お金を下ろすや、奈津樹はまたダッシュで店に戻った。
「あの、すいません！！」
　店員に、勢い込んで声をかける。
　奈津樹の更に充実したパソコンライフが、今、幕を開けようとしていた――！

　結局、支払いは１１万円ほどになった。
（１万円の出費は痛いけど、あとはノーダメージだもんな）
　その上、世界の経済も救っているというのだから、お腹の辺りがふわふわするのも止むなしだ。
　帰宅した奈津樹は、早速、取り付け作業を開始した。
　パソコンに、２台のモニターを接続し、ソフトもインストール。
　デュアルモニタを前に、奈津樹はうっとりとして息を吐いた。
「ゲーム画面とお絵かき用の画面があるのって、やっぱり良いなぁ……」
　液晶タブレットも、早速試してみる。
　がりがりと線画を描いて、色を塗って……。
「……うん、凄い、描きやすい……！　これなら……！」
　奈津樹は、パソコン部で作るノベルゲームのことを思い浮かべ、笑みを零した。
「ノベルゲーム用のイラストも、がんがん進められるぞー！」
　眼鏡の奥の黒の双眸が、きらと煌めく。
　魔法の道具を手に入れたみたいに、奈津樹の心はふくふくと弾んでいた。

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