ダーク・ネコジマシティ・ウォーズ｜リアクション

ダーク・ネコジマシティ・ウォーズ

【美術館での攻防】

　ところで、上を下への大騒ぎになっているシティにおいて、いまだ静寂を保っている場所がある。
　それは、シティの美術館だった。
　その夜、その美術館は、館長と斉田珠喪ことリサとの密約により、保険金を詐取するためにヴィランが盗みに入ることになっていた。
　セキュリティが外され、外部からの情報がシャットダウンされた館内は、まるで別世界のような静けさを保っている。
「……もう少し、警備だの、ヒーローだのが出てくると思ったんだがな」
　美術館を進みながら、怪盗ルンバマークスリーはひとりごちる。
　そうしているうちに、ルンバは目的の美術品『フジコの微笑み』の展示場にまでたどり着く。
　絵の中のフジコは挑発的な微笑みを浮かべたまま、ルンバを見ていた。
　なんだかイヤな予感がする。
　ルンバの長年の勘が警鐘を鳴らしたそのときだった。
「ふはははは！　残念ですが、そこまでですよ！　ヴィランの皆さん！」
「……っ！？」
　刹那、眩い照明の光がルンバ達を襲う。
　目が眩むような強い光を背に立っているのは、クロセル・ラインツァートことヒーローの『エンジェル』だった。
　やはり罠だったのか、と思うルンバは、まだそれほど焦ってはいない。
　だからこそ、彼は不思議に思っている。
　自分は侵入において、決してヘマなどしていない。
　他の仲間達がヘマをしないように、細心の注意を払ってもいた。
　なのに、エンジェルは自分達の前に待っていましたとばかりに現れた。
　まるで、最初から、自分達が来ることがわかっていたみたいに。
（……よもや、Mr.Jが私を売ったなどとは考えたくないが）
　雇い主の顔を思い浮かべつつ、ルンバはハンドサインで指示を出す。
　とにかくバラバラに動き、『フジコの微笑み』だけは奪取しろ、と。
「はははは！　何の符丁か知りませんが、無駄ですよ！　何しろ、ここにはすでにたくさんのヒーローの皆さんがスタンバっていて、今すぐにでもあなた達を……」
　と、そこで、エンジェルがわざとらしい声を出す。
「……って、あれぇ！？　ほかのヒーローの皆さんがいませんよ！　このままでは、全ての美術品を守りきることは不可能かもしれません！」
　まるで、こちら側にそう伝えるように、エンジェルは大きな声でそう叫んだ。
（……なるほど。そういうことか）
　それで、ルンバは理解する。
　おそらくMr.Jは何らかの手段をもちいて、あのヒーローと八百長をする計画を立ち上げたのだろう。
　ならば、とルンバの動きは早かった。
　展示場のロープを颯爽と乗り越え、フジコの微笑みを手早く回収すると、そのまま体当たりするほどの勢いで出口へ向かってひた走る。
「わあ、大変です！　誰か、誰か、早く来てー！」
　エンジェルがまったく大変ではなさそうに言いつつ、手近な三下ヴィランを捕まえて、地道にポイントを稼ぐ。
（……だが、これなら『フジコの微笑み』の奪取は成功したも同然！）
　ルンバがそう思ったときだった。

「おっと！　そうは問屋が下ろさねぇぜ！！」

「なに……！？」
　その瞬間、ルンバの目の前に、黒いヒーロースーツをまとった少年、風雲児轟こと『ザ・ストレイト／ダークナイト』が現れたのだった。