【中間テスト】一夜漬け狂騒曲　～寝るなよ？　絶対寝るなよ？～｜リアクション

【中間テスト】一夜漬け狂騒曲　～寝るなよ？　絶対寝るなよ？～

【10】

（モタモタしてたら、朝陽が昇っちゃう……やるなら今しかない！）
　プロの漫画家であり徹夜をものともしない、常盤四月がとうとう作戦を開始した。
　四月はこっそり人気の無い廊下に出ると、男性同士の絡み合うふしだらな妄想と共に、彼女の分身【となりのドッペルさん】を出現させる。
　ドッペルさんの耳に唇を寄せると、四月は言う。
「統計によると、停電の夜はラブが生まれる確率が跳ね上がるんだって。吊り橋効果って奴？　恋愛にハプニングは付き物！　お願いドッペルさん、ひとっ走りブレーカー落としてきて」
「オッケー、そっちもバッチリ先輩×会長のいい絵を撮ってね。しばらくしたら、元に戻すから」
　互いに指でマルを作って、幸運を祈って二手に別れる事しばし。
　お茶をたんまり買い込んだ、民谷鋭二がコンビニから戻ってきたのを、やり過ごし。
「あれー、流石に大きい建物だから、ブレーカーもいっぱいあるなぁ……どれ落とせばいいんだろ？　いいや、どうせ夜だし全部落としちゃえ」
　約束どおり、ドッペルさんが暗闇を作り出した。
　突然のハプニングに、勉強会場はパニックになる。
「なんだ、停電か！？」
「雷も鳴ってないのに……」
「ブレーカーじゃないのか？」
「こんな夜中に、どうしてブレーカーが落ちるのさ。もう誰も、ケーキ焼いてないよね？」
「やだー、暗いの怖いよぉ！」
「くっそ、誰かの悪戯か？」
「とりあえず見に行って来いよ」
「どこに何があるか、わかんないのよー」
「皆、取りあえず落ち着きなよ」
「痛っ！　ぶつけた」
「きゃああぁ、怖いよぉ！」
　北原みゆきのか細い声が、久しぶりに聞こえたと思ったら、また消えた。
「懐中電灯どこだったかなぁ」
　多くのざわめきに混じって、鷹取洋二の声。
　みゆきちゃんが持ってたんだけどなぁ。
「俺の後ろのタンスの引き出しに、ペンライトがあったような」
　こちらは海原茂。
「どれ、先輩動けないだろうから、俺が」
「いや半身を捻れば取れるから、俺が取って渡そう。寝てるのを踏んだら、それこそ……」
　二人が同時に動き、ごそごそとタンスをまさぐる気配。

　そして。
　大部屋に明かりが戻り、四月が見たものは……。
「電気が回復した時　そこには手を握り合う会長と先輩の姿が！　やーん萌えーっ！　ドッペルさん、ナイス……！！」
　ヒャッハーと叫び出さん勢いで、四月は構えていた携帯のカメラに、証拠写真を収めた。
「む。おかしいと思ったら、常盤の仕業か……！　捕まえろ！！」
　茂の声で、洋二が回りこんで通せんぼ。四月から、携帯を奪い取ろうとするが。
「ドッペルさん、パス！」
　アドレナリン全開で、┌(┌＾o＾)┐となった四月は、小柄な体を生かして、素早く洋二の脇をすり抜けて、携帯をドッペルさんに投げる。
　上手にキャッチしたドッペルさんは、外の闇に紛れて逃走し、うまく逃げおおせた。
　ならば本体の四月を、と振り返った時は、四月も混乱に乗じて雲隠れ。
「やるねぇ……一本取られた」
「悪知恵の働く奴だ」

「さっすが相棒！　次のネタはこれで決まりだね。突然の停電、触れ合う手と手、心と心！　戸惑いと禁忌感、これだからBLはやめられないよね」
「テープレコーダーは、ちゃんと持ち出してきた？」
「もちろん！」
「やったぁ、あたしにも聞かせてくれるよね？」
「うん、一緒に聞こう」
　はしゃぐドッペルさんに、四月も立ち止まる。
　二人はしばし頭をつき合わせて、戦利品の内容に耳を傾ける事にした。

『…………ずっと、黙って……ど、俺は…………とが……き……』
　テープレコーダーが何やら、深刻な声色の会話を再生し始める。
　録れてる！　思いがけない収穫に、逆に狼狽する四月とドッペルさん。
「ええっ！！？　いま何て？　良く聞こえないよー、ボリュームもっと上げて！」
「これが限界だよっ！」
『………………輩…………れも………………』
「うぐぐ、いいトコっぽいのに」
　ぎりぎりしながら、二人でペッタリとテープレコーダーに耳をくっつけて、聞き入る事しばし。

『………………………………スタントそのあとに！　少林製薬♪』
　聞き覚えのあるフレーズと共に、ここだけ妙にハッキリと録れていたのは、企業のCM。

「！！！？」
「…………CM…………？　ってこれ、ドラマじゃない？」
　ぽかーん。あんぐりと口を空けて脱力する、四月とドッペルさんなのであった。

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