【星幽塔】第一階層　ツインズ・ノット・デッド｜リアクション

【星幽塔】第一階層　ツインズ・ノット・デッド

【戦闘開始・２　東】

　西が激しい攻防戦を繰り広げている頃、東も敵の進撃を受けていた。
「みんな、逃げて……！」
　翼の生えた橙色の巨大雌猫を駆る恵御納夏朝が敵の攻撃を打ち払いながら、逃げ遅れた市民を護衛する。
　時には回避し、時には避難する市民や破壊されそうになる建造物を敵の攻撃からその武器で払落す。
　彼女はこうして開戦からずっと防衛し続けているのだ。
「僕が囮になっている隙に、早く……！」
　彼女は市民にねこシールを張り付け、逃げるように促す。
　市民は礼を告げると、避難所のあるサジタリオ城へ急いで逃げていった。

「ここは行かせない……！」
　敵集団の中、彼女の右腕の手甲から肉球型戦輪が連結したワイヤーによって振り回される！
　ＣＲＡＡＡＡＡＡＡＡＳＨ！！
　巻き込まれた竜牙歩兵たちはまとめて吹き飛んでゆく！
　だがその脇を、死霊の馬に乗った指揮官竜牙兵が猛然と抜けてゆく！
　向かう先は、逃亡する市民。
　突撃槍を振り上げる！
「させない……！」
　あらかじめ相棒の翼猫に張り付けておいた『ねこシール』の１枚を指揮官の鎧へ向けて射出！
　シールが付いた鎧は、恵御納のろっこん『重く軽く』によって重量が急激に増加！
　バランスを崩した指揮官は落馬し、その全身は衝撃で粉々に砕けた。
「よし、みんな、前線の竜牙兵が混乱しているうちに各個撃破するよ……！」
　空飛ぶ猫で敵軍勢へ突撃する恵御納。
　これに一般兵たちも続けて応戦。
　竜牙兵相手に苦戦を強いられるが、恵御納の指揮の元、何とかうまく立ち回りながら前線を駆逐してゆく。
「思ったよりも、数が多いね。兵士さんも押されてる……」
　恵御納の上空には、１体の飛竜が舞っている。

　八神修が負傷した市民を城へピストン輸送しているのだ。
　ゆえに、八神は避難活動が終わらない限り戦闘に参加できない。
　限られた人数で防衛する状況下で、市民の安全を危惧する姿勢は良い心掛けだ。
　だが、『攻撃は最大の防御』ともいう。
　彼の駆る飛竜の機動力とブレスの攻撃力があれば、市民が襲われる前に竜牙兵の小隊を一網打尽にできたであろう。
　それは恵御納のは翼猫にも言える事だった。
　広範囲攻撃を繰り出せ、敵の行動を阻害できるろっこんを有している彼女は、この戦場を攻略するのに最適任の存在だったのだが……。
　この辺りの判断のミスが、東側のジリ貧を招いた要因といえよう。
「でも、僕たちが盾にならなきゃ……護らなきゃ……！」
　肉球型戦輪を振り回し、死中に活を求める恵御納。
　だが降り注ぐ魔法の矢の雨に、四つ腕の竜牙兵の跳梁跋扈に、恵御納ひとりで対応するには限界がある。
　恵御納の目の前で、またひとり、またひとりと兵士が地に伏せ、倒れてゆく。
　……もう、これ以上は持たない。
　最悪、撤退まで視野に入ったこの状況、左の手甲の隠しポケットにしまわれたアンテナアスパラを彼女は握り締める。
「そうだった……。ここには、まだひとり、星の力が使える戦士がいた……」
　彼女は願いを込めて、アンテナアスパラを指で弾いた。