やんちゃ座敷童子のいる夜｜リアクション

やんちゃ座敷童子のいる夜

●紗雪幽はかく語りき

「はいはーい！　そんじゃ、次は俺が行くっすね！」
　元気良く、ひらひらと手を振って幽が宣言する。
　かくして、からりと晴れた声での怪談話、始まり始まり。
「俺の実家って寺なんすけど、よく、お祓いなんかも依頼されるんすよ」
「……早速、雰囲気満点ね」
「うんうん♪　これは、盛り上がる予感だよ♪」
　青山絢が疲れたような声を零し、響タルトはそわそわと身を乗り出す。
　それぞれの反応にニコッとして、幽は再び口を開いた。
「そう言ってもらえると話し甲斐があるっすね。……それで、この話はそのお祓い絡みなんすけど……」
　ある時、寺に、アンティークのブローチのお祓いをお願いしたい、という依頼があった。
　大きな宝石が据えられた、素人目にも、ものすごく高価なのがわかる品だったという。
「俺、一体どんな曰くがあるんだろうって、こっそり手に取って検めてみたんすよ」
　幽の言葉に、柏村文也が「これはこれは」とおどけたような声を出す。
「また、随分とチャレンジ精神に溢れた行動だね。勇気か、さて、それとも無謀かな？」
「いやあ、好奇心には勝てなくって。それで、なんとなーく宝石を覗いてみたら……」
　そこには、幽の顔が映っていた。
　但し、宝石の中の幽の目はギラギラと赤く、口元には、気分の悪くなるようなニタニタ笑いが乗っている。
「あ、ヤバいやつだなって思って戻そうとしたら――宝石の中の俺の口が、動いたんすよ」
「何て言ったんだ？」
　デザートのプリンをもぐもぐしながら、楢木春彦が尋ねた。
「声は聞こえないんすけど、『か・い・だ・ん』って。で、それから数日後……」
　幽は、階段から転がり落ちた。
「その時、足をひやっとした手に掴まれた感触があったんすよねー」
「だ、大丈夫だったの？」
　恵御納夏朝が切実な声音で問うのに、
「この通り、ぴんぴんしてるっすよ」
　と、幽は屈託なく、ピースサインを作ってみせる。
「丁度、御札を持ってたのがよかったのかな？　あれがなかったら……どうなってたんすかね？」
「もしかして、『宝石の中の自分』に成り代わられてたりしてね」
　くす、と如月蘇芳が静かに笑んだのに、ちょっぴりだけ真面目な顔で頷く幽。
「かもしれないっすよね。いやー、無事でよかったー」
「ええ、本当に。しかし、何とも不可思議な話ですね、ふふ……！　……おや？」
　応じるアケーチ・タッマーキの声の調子がほんの僅か変わるのに、
「座敷童子さん、次は、明智さんの所へ？」
　と、御巫時子がのんびりと尋ねる。
　それに、アケーチは、うっとりとした声で応じた。
「はい、私、今、華奢で愛らしい腕に抱き締められております……！　これが噂の……！」
　アケーチ、もう、それはもう嬉しそう。
「あぁ！　そんなに優しく抱き締められては、私、興奮してしまいます……！」
「……何故だろう……座敷童子の困惑が見て取れるような気がする……」
　呟く八神修も、やっぱり少し、困惑していたかもしれない。