やんちゃ座敷童子のいる夜｜リアクション

やんちゃ座敷童子のいる夜

●恵御納夏朝はかく語りき

　場の賑わいを目に、夏朝はふわりと目元を和らげる。
（座敷童子さんも、楽しんでくれてる……みたい？）
　ならば、（やっぱり怖いものは怖いけれど）自分も頑張らなくては！
　夏朝は、「次は僕が」と小さく挙手をした。
　紗雪幽が、人懐っこくへらりと笑う。
「おっ。次は、夏朝先輩の話っすね」
「うん。……そう、夜を行くのは、おどろおどろしい、不気味な影」
　――『それ』は、あらゆる場所を、ずるりずるりと音を立てて這い回るんだ。
　声を低くして、夏朝がそこまで語った、その時。

　――ずる、ずる、ずり……。

　闇の中に、何かを引きずるような、それこそ何かが畳の上を這っているかのような音が響いた。
「……！」
　青山絢が、言葉にならない悲鳴を、喉の奥に詰まらせる。
　対照的に、幽が、がばっ！　と立ち上がった。
「怪奇現象！？　本物っすか！？」
　が、しかし、ここで響タルトが、咳払いを一つ。そうして、
「ああっ、座敷童子のプリンが食べられちゃう！」
　と、渾身の演技を見せた。途端、音が止む。御巫時子が、
「あら？　……ふふ、おかえりなさい」
　なんて笑って、自身の膝の上の空間を優しく撫でた。
　勿論、座敷童子を撫でているのである。
「……うん！　座敷童子の悪戯だね☆」
「ははは、いやあ、食いしん坊だね。甘えん坊でもある」
　腰の痛みから立ち直った柏村文也が、ころころと笑う。
　突然の物音に詰めていた息を吐いて、夏朝は話の続きを語り始めた。
「……『それ』は、この世の闇を煮詰めたみたいな色をしてて……」
　そしてその『何か』は、人のものに似た目を、十も百も持っている。
「物陰から姿を現わせば、その目が一度に、相手をぎょろりと見下ろすんだ」
「……それって、どんな姿をしているの？」
　絢が、己を励ますようにして尋ねた。夏朝は「ああ」と小さく零して、
「まるで、列車みたいに大きな蛇だよ。こう、車よりも大きな口をがばっと開けて……」
　――恐怖に怯える人を呑み込もうと……したところで。
「なんと、可愛い猫さんが、ぴょーんと大蛇の上にとび降りてきた！」
「……猫？」
　如月蘇芳が小さく首を傾けるが、夏朝の勢いは止まらない！
「他にも、たっくさんの猫さんがとび降りてきて、ふーしゃーかみかみ大暴れ！」
「あはは、何だか可愛らしいな」
　猫達の奮闘を想像したのか、八神修が優しく笑う。そんな中、
「大蛇は泣いて逃げ去って、偶に現れようとしても、猫さんがいる場所には行けないんだって」
　夏朝が話し終えたその時、蘇芳は、とんっ、と背中に小さな拳が当てられたのを感じた。
（……ちっ）
　内心には舌を打ちながらも、「おっと、次は俺のところみたいだね」と皆に伝える蘇芳。
　その間も、座敷童子によるパンチ攻撃は続いている。
「……ふふ、元気だね」
　優しい声音をして、蘇芳は、笑顔で座敷童子の方を振り返った。
　但し、赤の双眸だけは笑っていない。
　座敷童子にだけ、蘇芳の目が、冷たく凍っているのが見える――。
「……あれ？　不思議だな、もうやめちゃったみたいだ」
「某の時は長かったのに……気紛れだなあ」
　文也がそんなふうに零す中で、アケーチ・タッマーキはふるりと身を震わせた。
「ふ、ふふ……！」
「……明智さん？」
　楢木春彦が、怪訝な声で、アケーチの名前を呼ぶ。
「これは失礼を。私、今、胸がキュンとくる何かを受信してしまったもので……！」
「……ホラーの次はオカルトっすか？」
　アケーチのＭ心をくすぐった蘇芳は、今は素知らぬ顔で、サラダを口に運ぶのだった。