やんちゃ座敷童子のいる夜｜リアクション

やんちゃ座敷童子のいる夜

●青山絢はかく語りき、そして――

　乱れていた息を整えて、絢は同席者達の顔を緩く見渡す。
「あとは……私だけね」
「絢さん、ご無理はなさらないでくださいね？」
　アケーチ・タッマーキの言葉にこくんと頷いて、絢は最後の怪談話を語り始めた。
「先ず、私は演劇部員で……ある雨の日、部室にひとりで残って、適当な台本を手に稽古をしていたの」
　知らず、稽古に熱中してしまい、気付けば窓の外は黄昏時の色に染まっていた――。
「熱心だね。だけど……」
　柏村文也が言いかけた言葉に、絢は眼差しで応じる。
　黄昏時の夕焼けの下に怪異の話が生まれることは、少なくない。
「もうこんな時間か、と思って、休憩を挟もうとしたわ。その時、壁の鏡を見たら――」
　そこには、絢ではなく、見知らぬ少女が映っていた。
「なんつーか、ド直球な怪奇現象だな。スタンダード、っつーの？」
「そうね。でも、これで終わりじゃないの」
　貰い物のプリンをすっかり食べ終えた楢木春彦の言葉に、絢は神妙な面持ちで応える。
「思わず一歩後ずさると……さっきまで私が立っていた場所に、荷物が落ちてきた」
「へえ、驚いたな」
　軽く目を見開いた以外は微塵も揺らがぬ様子で、如月蘇芳が言った。
「怪我はなかったの？」
　頷きが返れば、蘇芳はにこりとしてみせて、優美な所作でコーヒーを喉に流す。
　絢は、対照的に固さが残る面持ちのまま、「ええっと……」と、紡ぐべき言葉を探した。
「その時私が手にしていた台本の主人公は、病で命を落とした演劇部員の女子高生で……」
　彼女が幽霊になって、コンクールを目指す仲間達を助ける、という内容のものだったらしい。
　ああ、と、八神修が得心したような声を漏らす。
「つまり、台本の通りに、幽霊が助けてくれたんだな」
「そう……だったのかもしれないわ。真実は、鏡と、台本の中だけれど」
　そこで、絢の話はお終いだった。
　空になったグラスの中で氷をカラリと鳴らして、
「いやー、色々起こって楽しかったっすねー！　俺は、もっと沢山語れるっすけど！」
　と、紗雪幽がころころと笑う。
「あ、そうだ。座敷童子君は気に入ってくれ……」
「ひゃあああああっ！？」
　幽の声に覆い被さったのは、響タルトの悲鳴。
　タルト、激しいリアクションで皆を驚かせようとしたのだが、
「…………」
　びくっとしてくれたのは、絢と、恵御納夏朝だけだった。
「……えーっと、楽しんでくれたみたいだよ？　今、笑い声が聞こえたもん」
「本当ですか？　良かったです……」
　プリンを食べていた御巫時子が、座敷童子がいるであろう方向へと、花が綻ぶような微笑を向ける。
　そんな中、「そういえば」と、タルトは声を明るくした。
「皆は、化け猫って見たことある？」
「……化け猫？」
　タルトは、既に、怪談を語り終えている。
　蘇芳が、僅かに怪訝な色の滲む声を零すのを余所に、
「それじゃ僕、お手洗い借りてくるね～♪」
　なんて、タルトはきょとんとする一行を残して、一旦席を立った。
　ろっこんで猫の姿に変じ、皆を驚かせるという算段だったのだが、

　――！！　猫さんだ……！

　と、猫好きの夏朝に捕捉されて終わるというオチが待っているのでした。

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あとがき

担当マスター：巴めろ
ファンレターはマスターページから！

お世話になっております、ゲームマスターの巴めろです。
まずは、ご参加くださった皆様、本当にありがとうございました！

わいわいと大勢で過ごす時間を描くのは、大変ですが楽しいです。
ＰＬ様方・ＰＣ様方にも、座敷童子と一緒の時間、お楽しみいただけておりますようにと願って。

なお、怪談を話す順番と座敷童子に悪戯される順番は、ダイスで決定しました。
花笠家の座敷童子の思し召し（？）……かもしれません。

重ねてになりますが、ご参加くださった皆様に心からの感謝を。
この度も、本当にありがとうございました！

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