やんちゃ座敷童子のいる夜｜リアクション

やんちゃ座敷童子のいる夜

●如月蘇芳はかく語りき

　柏村文也は、痛む腰をまださすっている。
「うう……やつがれが何でこんな目に……」
「えっと……大丈夫……？」
　半分おろおろとして声をかけるのは恵御納夏朝だ。
　姿こそ見えなかったが、座敷童子の攻撃は半端じゃなかった。それはわかる。
　先ほどまでの騒ぎを思い出して内心にくつくつと笑みながら、
「次は、俺が行くよ」
　と、蘇芳は、腹の底に抱えるのとは全く種類の異なる、善良極まりない笑みを浮かべた。
（とはいえ……）
　ホラー耐性のない面子を顔面蒼白にさせるような怪談なら、幾らでも思いつく。
　しかし、座敷童子の好みに沿うものをとなると、中々に難儀だった。
（まあでも、みんなの面白い反応が見れるよう、頑張ってみようかな）
　そんなことを思って、蘇芳は、考え考え、創作怪談を語り始める。
「……昔、ある閉鎖的な村に、まだ幼い男の子がいた」
　男の子の両親は、彼を愛さなかった。
　また、他に男の子を庇護する大人も、彼に寄り添う子供も、その村にはいなかったのだ。
　御巫時子が、痛ましげに眉を下げる。
「それは……酷いです。悲しい話、ですね……」
「そうだね。唯一、男の子には、いつも一緒の蛇の友達がいたけれど……」
　蛇と行動を共にし、優しく声をかける男の子への風当たりは、益々強くなっていった。
　しかし、ある時だ。
「男の子に石を投げて怪我をさせた子供が、その晩、首を絞められて死んだ」
　その日を境に、被害者は、次々に増えていく。
　命を落としたのは、いずれも、男の子に特に辛く当たっていた者ばかりだった。
「……っ」
　青山絢が、顔から色を失くして、己の首を撫ぜる。
　内心にくすりと笑む蘇芳へと、八神修が真剣な顔で言った。
「けれどそれじゃあ、その男の子が、殺人の疑いをかけられたんじゃ？」
「うん。勿論、最初に疑われたのは男の子だ。だけど、男の子は犯人にはなり得なかった」
　大の大人を絞殺するような握力は、男の子にはない。
　それに、村人が男の子を監視していても、殺人は起きたのだ。
「それでそれで？　どうなったんすか？」
　紗雪幽が、目前の話に似合わない、明るい声で問う。
　蘇芳は、殊更ににっこりとした。
「ある日、被害者の中に一命を取り留めた男が出た。その男が、うわ言みたいに繰り返したんだよ」
　――蛇が……蛇が……ってね。
　しん、と静まった部屋の中、蘇芳は、口元を笑みで彩る。
「男の子を酷い目に遭わせる人間はいなくなり、男の子は、蛇と一緒に幸せに暮らしましたとさ」
　めでたしめでたし、と、蘇芳がしっとりと話を締めた、その時だ。
「うおっ！？」
　不意に、声が弾けた。楢木春彦の声だ。
　響タルトの茶色の瞳が、きらと期待に煌めく。
「おっ、来たね☆　ね、ね、何をされたの？」
「いや、急に首を触られた……。ホラーは別に苦手じゃねーケド、いきなりなんかあるとビックリするよなー」
　ま、軽いおどかし程度なら可愛いもんだケドさ、との春彦の言に、頷くのはアケーチ・タッマーキ。
「確かに、お茶目で愛らしいですよね。あぁ、私の元へも来てくださらないでしょうか……！」
　胸に手を当てたなら、聞こえるのはときめきの鼓動。
　しかし、座敷童子は、まだ春彦の周りをうろちょろしているのだった。
　アケーチへの悪戯は、お預けである。