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三歩進んで、
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風が吹き寄せる。
(潮の香……)
海の匂いがする、と瞬く。洗い流されたが如く碧く青く澄み渡った空を仰ぐ。
背中、主に肩甲骨のあたりに力が籠っていることに気づいて首を捻る。まるで背に何か大きなものを負っているものを風に持って行かれないようにしているかのよう。けれど肩越しに背を見遣っても、背には何も負っていない。風に煽られて大きく広がるようなものは、何も。
坂の下に海が見えた。石畳の坂道を駆け上ってくる海風にキスをするように一歩踏み出して、
(ああ)
ふと、思い出した。
記憶がない。
潮風を浴びるその以前の記憶が、何も思い出せない。此処が何処なのかも、何処へ向かおうとしていたのかも、己のことも、何もかも。
(困りましたね)
そう思いはするも、胸に焦りはない。満開の蔓薔薇を這わせた煉瓦塀の瀟洒な邸宅の脇で穏やかな潮風を身に浴びながら、ゆったりと頭を巡らせる。
花水木の街路樹が続く坂道も、どこかしらの邸宅から顔を覗かせる薔薇や紫陽花の花々も、道の果てに碧く広がる海も、すべてが新鮮で、すべてが記憶にない。
「……さて、」
革靴の先がコツリと道を踏む。足を止め、口元に手を当てる。そうしてから、考えるときの癖なのだろうかと、己のことですら新鮮に感じた。くすり、思わず淡く微笑む。
「どうしましょうか」
思案に暮れる心の奥底、
――またか
泡沫じみてふわり、吐き出される思いがあった。
己の内の僅かな声を聞き洩らさずに掴み取り、さてこれはどうした思いなのだろうと眉を寄せたところで、
――いつもと違う?
もうひとつ、疑問が生じた、気がした。
(さて、……)
己を知らぬ己という存在と、その己の奥底から吐き出される記憶を持たぬ己には理解のつかぬ感情を抱えて、それでも焦燥はない。
髪を揺らす潮風も、頭上より降る眩しい陽光も、見知らぬがゆえに新鮮な周囲の景色も、すべて心地が良い。己についての記憶が一切なくとも、己を囲むすべてを愛することができる。
(私、は)
『私』は、元よりそういうものなのだろう。
肩に触れる。先に風を受けた際、肩に何かを負うているような感覚を覚えた。あれは何だったのだろう。
今、指先に触れるのは肌触りの良いスーツの生地ばかり。胸元にはしつらえの良いネクタイと深紅のシルクスカーフ。痩躯をいっそ艶やかに飾る衣服は、もしかすると自分のためだけに仕立てられたものなのかもしれなかった。着心地がよく、動きやすい。おそらくは上質なもの。
懐には財布のみ。あまり物を持ち歩かぬ質らしい。
他人の荷物を覗き見るような妙な申し訳なさと微かな愉悦を感じつつ、財布を開く。中には紙幣とコイン、それだけ。とはいえ、紙幣は数日を泊まり歩いて遊ぶに充分すぎる枚数。
(私は)
何者であるのだろう。
身元を証明するものはないようだ、とそれきり財布の中身に興味を失い閉じようとしたところで、
「……ん」
重なる紙幣の間にくたびれた風情の名刺を見つけた。唇に笑みを刻み、引っ張り出す。使わぬまま忘れていたのか、一枚きりの名刺には、
――明智 珠輝
シンプルな字体で姓名が刻まれている。
(職業、アーティスト)
くすり、笑みが腹の底から湧きだす。己の笑みの意味さえ分からぬまま、くすくすと笑う。
「……これは、私……」
明智珠輝。その名は恐ろしくぴったりと己の器にはまる気がした。
「ということでよいのでしょうかね、ふふ」
財布を懐に仕舞い、当て所もなく歩き始める。ともかくも、己の名が判った。
(明智珠輝)
謳うように己の名を胸に囁き、初夏の光の中を花の香帯びた潮風とともに歩く。コツコツと鳴る靴音も空に囀り踊る名の知らぬ鳥の声も、名前の他には何も持たぬ心を躍らせてくれた。
屈託のない明るい世界に、ふと黒い影が映る。
視界を掠める黒髪を揺らし、首を巡らせる。角の邸宅の住人が私的に設置したらしい低位置のカーブミラーに、眩い世界に黒く落ちたようなそれは映り込んでいた。
不審に思い近づいてみれば、それは黒いスーツ姿の己の姿。戯れに片手を挙げれば、鏡の中の黒髪の青年も片手を挙げる。
痩身長躯、陽光を存分に吸って尚も漆黒の髪、対照的に白い肌。細い鼻梁に閉じていてもあえかな笑みとなる唇、夜より深い紫の色した瞳は切れ長で妖しい艶さえ孕んでいる。
細い顎の線を指先になぞる。
(これが、私)
己の右目を覆い隠す黒髪に触れる。カーテンを捲り上げて秘密を暴くように前髪をかき分け、
(これは……)
すぐに再び覆い隠す。掌で髪ごと右目を塞ぐ。
(そのままの髪型の方が良さそうですね)
夜に咲く花のような色した左目とは違い、右の眼は白目の部分が黒かった。瞳の部分が真っ白だった。一瞬鏡に映しただけでも、自分の瞳ではないような違和感を覚えた。
記憶を失ったと気づいたときに動じなかった心臓が、今は不穏に鳴っている。
両の瞼を閉ざしてただひたすらに呼吸を繰り返す。
(これまでの私もきっと、隠すことを望んだのでしょう)
隠して過ごしていた、ということは隠しおおせていた、ということ。であれば、隠してさえいれば問題はない。この瞳を持っていることで起こる不幸など何もありはすまい。なにごとも、起こりはしない。
自分に言い聞かせる。僅かの間のうちに轟く心臓を落ち着かせ、知らず落ちていた体温を意志だけで引き上げる。軋むほどに食いしばっていた歯を緩め、冷えた唇に甘やかな笑みを浮かばせる。
取り乱したことなど全き嘘のように佇まいを落ち着かせ、鏡から視線を逸らす。
(ああ)
地には花、空には風、海は碧く眩しい。己を囲む世界を瞳に捉え、感嘆の吐息を零す。たとえ己がどのようなものであっても、世界は美しい。
見知らぬ路を辿る。
坂道を下り、海に至る。
靴が砂に汚れるのも構わず波打ち際を歩き、さざめく波に耳を澄ませる。波間に煌く陽光に瞳を細める。
海を離れ、大きな街道に沿って歩く。海を右手に、巨大な町並みを左手に。ひとりきりでどれだけ歩いても、記憶を取り戻す切欠になるものには出会えなかった。心に引っかかるものは何も見つけられなかった。
陽が傾く頃、戻ってきたのは記憶を失っていると気づいた住宅街。
黄昏の色に染まる町並みは、歩き疲れていても、それでも綺麗だと思えた。蔓薔薇の壁を、別の家の鉄柵から顔を出す様々な種類の薔薇を瞳になぞる。
クリーム、真紅、ピンク、白。
(青は無いのですね)
何気なく思って、
――青い薔薇の妖精さん
柔らかな老婦人の声を聞いた気がした。
瞬く。瞬いて、踏み出す。
刹那、黄昏の光がふわり、花と潮の香の風がふわり、変化した。
目前にあるのは薔薇の邸宅ではなく、おどろおどろしい蔦に覆われた暗鬱な雰囲気の煉瓦の館。今しも怪しげな魔女か吸血鬼でも現れそうな重厚な扉には、館の雰囲気にそぐわぬ流麗な書体のプレートが掛けられていた。
『運び屋始めました』
「運び、屋……」
文字の横には、やたら滅多と可愛らしい桃色兎。繊細で丁寧な筆致からは桃色兎に対する並々ならぬ愛情が感じられた。
「うさたん……」
ぽつりと呟いて、呟いたことにも思い至らずふらふらと扉に近づこうとする足元、ふうわり柔らかなものが触れる。見下ろすと、そこには、
「あぁ、うさたん……!」
ふかふかの桃色の毛をもふもふさせて、つやつやのピンクの鼻をひこひこさせて、愛するうさたんがいつのまにか寄り添っていた。
「うさたん、うさたん……あぁ、うさたん……!」
アメジストの瞳をきらきら輝かせ、明智珠輝転じて
アケーチ・タッマーキ
はうさたんを両手で大事に大事に抱き上げる。冷たい鼻に頬ずりし、もふもふの頬に頬ずりし、優しい掌と指先で愛しく撫でる。
ひとしきり撫でた後、記憶が戻っていることに思い当たった。
「おや、……ふふ」
己の記憶が戻ったことは小さな笑みひとつで済ませ、アケーチは留守番をしていてくれたうさたんをそっと抱きしめる。
「ただいま、です」
ぷうぷうと喜びの声を上げてくれるうさたんともう一度再会の熱い抱擁を交わし、アケーチは己の内側をなぞる。この地に、星幽塔に迷い込んで後の記憶は戻っているものの、それより前の記憶はやはり戻っていない。漂白されたように、相変わらず真っ白なまま。
(だが)
真っ白な暗闇に、一筋、希望の光を見いだせた気がする。
(いつかこうして、更に昔のことを思い出せるのでは)
うさたんのもふもふに顔を埋める。いつか、不意に。今回のように失っていた記憶が戻るかもしれない。
星幽塔に来る以前、どのような世界に居たのか。
そこで己はどのような存在であったのか。
何があって、この地にやって来たのか。迷い込んだのか、それとも何かしらの目的を定めてやってきたのか。
己がどのような存在であるのかを、知りたい。失った記憶がどのようなものであるのかを、知りたい。
記憶が完全に戻ることで、右目に関することもやはり思い出すのかもしれない。記憶を失っていてさえ、己のものではないと感じる不穏な右の眼。思い出すことでどのようなことになるのか、今は想像もつかぬけれど、
(それでも、私は)
ばさり、星幽塔に戻ったことにより、背に純白の翼が戻る。風を起こして羽ばたく白翼を背に、アケーチは小さく笑んだ。
知っている。
己がどのような存在であろうと、きっと世界は、変わらず美しい。
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あとがき
担当マスター:
阿瀬春
ファンレターはマスターページから!
お待たせいたしました。
三歩進んでぜんぶ忘れたシナリオ、お届けにあがりました。
息詰まるくらいに緊迫したものや、それでもふんわりとした感じのもの、絆が感じられるもの、色んな記憶喪失を書かせていただけまして、とてもとても! 楽しかったです。
あなたを、あなたらしく描けておりましたでしょうか。
少しでもお楽しみ頂けましたら嬉しいです。
ご参加くださいまして、お読みくださいましてありがとうございました!
記憶喪失ネタは何度書かせていただきましても楽しいです。ので、またそのうちに第三弾も出させていただくつもりでおります。
いつかまた、お会いできましたら幸いです。
ありがとうございました!
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担当ゲームマスター
阿瀬春
シナリオタイプ(らっポ)
ゴールドシナリオ(200)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
定員
10人
参加キャラクター数
10人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2018年04月26日
参加申し込みの期限
2018年05月03日 11時00分
アクション投稿の期限
2018年05月03日 11時00分
参加キャラクター一覧
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