レディ・ロゼッタの未来観測｜リアクション

レディ・ロゼッタの未来観測

「お邪魔しまーす」
　宮田厚が赤い扉を開くと同時に、青い扉からは晴海飛鳥が出てきた。少々緊張した面持ちの厚に対して、飛鳥は晴れやかな表情をしている。
「今終わったとこ。すぐ入れるよ」
「あ、どもー」
厚は青い扉に手をかけた。中には一人の女占い師。
「寝子高一年、宮田厚です！　本日はお招きいただき！」
かしこまって自己紹介する。厚を見つめるロゼッタが、思いがけない行動に出た。
「ふうん。これがヘアピン男子ってやつなのね」
「あ……あははー……」
長い手袋に包まれた腕を伸ばし、ちょいちょいと厚の前髪を留めるピンをつつく。厚は苦笑いを浮かべるほかなかった。
「ようこそ。私がロゼッタよ。今日は何を聞きたいのかしら？」
「ああ、うん。俺、生まれてこの方ずっと寝子島だから、外のこと知らないんだ。この先ずっと島がいいのか、外に出た方がいいのか、占ってほしいんだー」
「わかったわ。もし外に出て行ったら、を見てみましょうか」
幾分迷うそぶりを見せて、少年は二枚のカードを選ぶ。
「ワンドの6。勝利、進歩、吉報。もし厚くんが島の外の世界に出たなら、成功を収めるはず。苦労しても、それは必ず報われる」
「ワンドの3。島に留まれば目標の達成、夢の成就、成功……どちらも似たようなメッセージね……」
カードは何の幻影も示さない。ふうむ、と考え込むロゼッタに、厚はたまらず頭を下げた。
「占い師さん、ごめんなさい。俺ホントは、答え決まってるんだ！」
そのまま顔を上げずに続ける。
「外へ行きたいんだ。だけどなんか勇気がなくてさ。後押しがほしかったんだ。占いで結果が出たら、勢いがつくかなって。ほんと、ごめなさい！」
顔を上げると、ロゼッタが笑っている。またヘアピンをつついた。
「いいのよ。頭上げて。カードが同じようなことしか言わない理由がわかって私もすっきりしたわ」
と、おどけたように肩をすくめる。
「私はあなたの選択の後押しができたなら満足なのよ」
「うん。来てよかった。ホントそう思ってる。……あ、そうだこれ！　ちゃんとお代は持って来たよ」
厚がロゼッタに手渡したのは小さな袋だった。袋を開くと、花柄の台紙にセットされたヘアピンのセットが現れる。
「あら、かわいいわね。厚くんが選んだの？」
「うん、そうだよ。俺ヘアピン大好きなんだー。髪を上げると相手の顔がよく見えるからね」
「厚くんはわかってるわね。額を出すって、相手に心の一面を見せるということらしいわ」
ロゼッタは横に流していた前髪を上にあげ、黒いヴェールごと花のヘアピンで左右を止めた。
「うん！　このほうが信用できる占い師に見えるかも。ありがとう」
「うん、いいね。でもちょっと曲がってない？」
「今日はこれでいいのよ」
若干ゆがんでしまったヴェールを気にすることもなく、にいっと厚に笑ってみせる。気さくなロゼッタの振る舞いに、厚はどこか親近感を覚えた。
「ロゼッタさん、ありがとう」
「こちらこそ」
別れの前に、厚はもう一度振り返る。
「あのさ。また会える？」
「もちろんよ。私にはまだこの島でやることがあるの。また会いましょ？」

「俺が外に出るとして……それは高校が終わってからだよね」
花畑の中、厚は考える。あと二年、たくさん楽しんで、いろんなことを経験して。旅立つのはそれからだ。
「あの人、きっと普通の占い師さんじゃないよなー」
次に会える機会は、ひょっとしたらないかもしれない。それでも。
「いつかまた。そのときは、俺のお勧めの旬の野菜持ってってやるんだ！」

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