レディ・ロゼッタの未来観測｜リアクション

レディ・ロゼッタの未来観測

「こんにちはー」
　続いて赤い扉をくぐったのは晴海飛鳥だった。
「うーん。さすが洋風だね。ばあばも占いをやってたけど、こういうのとは違うからなぁ」
飛鳥の祖母は『拝み屋』。神霊と交信を行う、いわゆる祈祷師を務める存在だった。祈祷の一環として占いを行うこともあったのだが、タロットとは根本から違う。人の気配に気づいたのか、青い扉の中から招く声がした。

「わあ。中はこんな風になってるんだ」
ランプの光で照らされる室内を飛鳥は興味深げに眺める。
「気楽に話してね。今日は何を見ましょうか？」
次に目の前の女占い師をそれとなく観察した。
（きらきらした衣装は仕事着だよね。名前は芸名かなぁ。日本人だと思うんだけど、どうだろ。いちばん気になるのは人間かどうかってことだね）
「どうかした？」
「ああ、ごめん。いろいろ気になっちゃって」
「私のことも？」
「うん、少し怪しいと思ってた」
ストレートなやり取りが続いた後、飛鳥は用意しておいた物を取り出す。
「はい、これ。お代は先払いってことで受け取ってほしいな」
「……お札、かしら？」
「正しくは霊符って言うんだ。見よう見まねで拝み屋の孫が作ったものだけどね」
「お婆さまが？　秘術の相伝というわけね」
「あはは。それほど大げさなものじゃないよ。これは鎮宅七十二霊符って奴の一つでね。家内安全のお守りだと思ってくれていいよ」
「どこに飾ってもいいのかしら？」
「水場はやめておいたほうがいいかな」
「なるほどね。では、ここに」
ロゼッタは壁にかけられていた額をはずす。押し花を取り出してしまうと代わりに霊符を挟み込んだ。
「これならどう？」
「いいね。でもここって、ロゼッタさんの家？」
「そんなところね。狭いけど悪くないわ。ところで、せっかくだから占って行くんでしょ？」
本心を見抜かれ、苦笑する。
「ばれちゃってたかな」
「いいのよ。見える人には、この場所は目立つでしょうから。お札のお礼をさせて」
「うんうん。誠意ある対応、ありがとう。じゃあ……僕は進路について聞きたい」
「心にすでに浮かんでいる道はある？」
「あるよ」
飛鳥の顔は真剣なものになる。
「僕は生まれ育ったこの島を愛してる。大好きな人もたくさんいるし、このまま暮らし続けるのもいい。でも生まれつき好奇心が強くてね。世界を飛び回るのも悪くないんじゃないかなーって思ってるんだ」
「そうね……なら、島を出るという選択をした場合を見てみましょうか」
「どうして留まるほうで占わないの？」
「その方が大きな変化を伴うからよ」
ロゼッタに促され、飛鳥は二枚のカードを選ぶ。
「Wheel of Fortune。変化、チャンス。飛鳥ちゃんが島の外へ行くなら、あなたの日常はがらりと変わる。天職、冒険、成長……どんな変化かはその時わかるわ」
虹が立ちのぼり、伏せられたカードに向けて橋を渡していく。その先には島に残ることを選択した未来が眠っている。
「そしてこちら。コインの6ね。島での暮らしを続けるなら、いつも十分な助けが得られる。満たされた生活になるでしょう。どちらの選択も悪くない。あとは飛鳥ちゃんの本心に聞かなきゃね」
「そっか……おもしろいね。ゆっくり決めるよ。まだ時間はあるし。人生どう転ぶかわからないからね」
「それがいいわ」
「次が来たみたいだね。じゃあ僕はこれで！　またね」
元気に手を上げ、飛鳥は部屋を出て行く。
（僕のほんとうの気持ち……どっちかな？）

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