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猫鳴館、自治会長選任戦1370春 ～天使の羽選手権
●羽根作る猫館生たち
館内は賑やかだ。
玄関先では、雨崎 荒太郎を連れた青野 海仔が、鷹取 洋二と談義を繰り広げている。
「だからさ、彼があなたに意見を聞きたいというんだ。相談に乗ってやってくれないか」
「ワカメ先輩！ 何卒、衣装の御指南を、がんす！」
「衣装だって？ 男なら裸一貫で立ち向かってみたらどうだい。そも人間の肉体美というのは～」
云云かんぬん。
洋二と海仔のトークは、ギリシャ彫刻の筋肉美から最近のマッチョ事情についてまで、常人にはついていけないゾーンに突入していく。
「ふぅ」
翼状に組み合わせたアルミ片のエッジ部分を、刃になるまで無心に削り続けていたサキリ・デイジーカッターは、銀色の屑を吹き飛ばした。アルミの翼を研磨剤で鏡の様になるまでピカピカに磨き上げると、主翼部分に猫鳴館の黒猫のロゴを貼る。
「これでいい」
「美しいですね」
海苔を巻いたおにぎりが差し出される。
「恵御納さんからの差し入れです。具はツナマヨ、おかか、さけ、昆布がありましたが、ツナマヨでよかったですか。おしぼりもどうぞ」
それは、曲がったことが嫌いで理詰めで物を考えるため、中学時代は「三角定規」とあだ名されたこともある鈴野 加代であった。
「ありがとう」
サキリはおにぎりとおしぼりを受け取る。
彼が腹ごしらえをしている間、加代はサキリの羽根を惚れ惚れと見つめていた。
「あなたの羽根は本当に美しい。アルミを刃のように削って軽量化したのですね」
「『ブレードウィング』。刃の翼を作ってみたかったんだ。工作は得意でないけど、刃を研ぐのは好きでね、かなり本気になってしまったよ」
刃物依存症を自覚するサキリは、翼というより大きな刃を研ぐ感覚で羽を作り上げてしまった。アルミはガラクタ廃材の中から見つけたもの。足りない分はホームセンターで買ってきた。
好みの方向性は同じだと加代は思い、サキリの仕事に好感を抱いた。
「飾ることも大事ですが、削りに削って機能させる機能美こそ、美しいと私も思います」
加代が作っている羽根も、軽い金属や木材で強度を確保しつつ、滑空のためだけの形状を追求したもの。原理としては紙飛行機のそれに近い。
「実用性こそ美。私はそう思います」
「なははっ、せっかく空を飛ぶならさ、遊び心も大事だぜ！」
通りがかりの近石 簾が会話に混ざる。肩に担ぐは、粗大ゴミの中から拾ってきたと思しきスチールラック。ポケットはボルトやナットで膨らんでいる。
「ふはは、見ろ！ 俺の天使の羽根はな、ファンタジーはファンタジーでもスチームパンクだぞ！」
「すちいむぱんく？」
「そうさ！」
簾は加代の手をぐいぐいと引き、自分の作業場へと連れてきた。
分解された自転車や錆付いた廃材の中に、ごてごてしい金属の物体が横たわっている。
「これが、すちいむぱんく、ですか？」
「ああ！ 粗大ゴミのスチールラックとかから板とったり棒とったり拾ったネジフル活用してんだ。しかも変形機構つき！ 廃自転車のチェーンとペダルをこの辺に取り付けて、ここをこう回すと、羽根が広がる予定！！」
設計計画を話す簾は、どやぁああ！ と目を輝かせる。
「実用的とは思えませんが……」
「だあーっ、ロマンなの、ロ・マ・ン！」
三角定規ちゃんのぴくりとも動かない頬に、簾は地団太を踏んで訴える。
「すると、あれもロマンなのでしょうか」
加代の視線の先には――熊、もとい、邪衣 士がいた。
士は前回の選任戦で使った偽熊皮のあまりを再利用して羽根を組み上げようとしていた。
「邪衣さん。やはり熊ですか」
加代が話しかけると、熊皮を被った元自治会長は言った。
「いまさら熊以外のもの背負えるか！！」
ですよね、と周りにいた猫鳴館生が一様に頷く。
士と言えば熊。熊といえば士。むしろ熊が本体という声も……。
士の羽根は、最小限の骨組みに、熊皮が蝙蝠の羽根のように張られていた。
「ヨットのように向かい風を受けて加速できるようなイメージのものを作ろうと思ってさ。ほら向かい風の中を突き進むほうが猫鳴館らしいだろ？」
「向かい風の中を突き進む……たしかに猫鳴館らしいや」
元自治会長の言葉に、簾は妙に納得した。
「それにしてもおもしれーな。それぞれ個性を貫いててさ」
機能性を追求したサキリや加代のような羽根も、オリジナリティを追求した簾や士のような羽根も、両方あるのが猫鳴館らしい、と簾は思った。
「飛ぶのが楽しみになってきたぜ。しかし自治会長か、うーん、誰にするかなー」
簾は顎を摩って唸る。
「誰になってもこの先どうなるかわからねーし、面白そう。めっちゃ悩むわー」
館内は賑やかだ。
玄関先では、雨崎 荒太郎を連れた青野 海仔が、鷹取 洋二と談義を繰り広げている。
「だからさ、彼があなたに意見を聞きたいというんだ。相談に乗ってやってくれないか」
「ワカメ先輩！ 何卒、衣装の御指南を、がんす！」
「衣装だって？ 男なら裸一貫で立ち向かってみたらどうだい。そも人間の肉体美というのは～」
云云かんぬん。
洋二と海仔のトークは、ギリシャ彫刻の筋肉美から最近のマッチョ事情についてまで、常人にはついていけないゾーンに突入していく。
「ふぅ」
翼状に組み合わせたアルミ片のエッジ部分を、刃になるまで無心に削り続けていたサキリ・デイジーカッターは、銀色の屑を吹き飛ばした。アルミの翼を研磨剤で鏡の様になるまでピカピカに磨き上げると、主翼部分に猫鳴館の黒猫のロゴを貼る。
「これでいい」
「美しいですね」
海苔を巻いたおにぎりが差し出される。
「恵御納さんからの差し入れです。具はツナマヨ、おかか、さけ、昆布がありましたが、ツナマヨでよかったですか。おしぼりもどうぞ」
それは、曲がったことが嫌いで理詰めで物を考えるため、中学時代は「三角定規」とあだ名されたこともある鈴野 加代であった。
「ありがとう」
サキリはおにぎりとおしぼりを受け取る。
彼が腹ごしらえをしている間、加代はサキリの羽根を惚れ惚れと見つめていた。
「あなたの羽根は本当に美しい。アルミを刃のように削って軽量化したのですね」
「『ブレードウィング』。刃の翼を作ってみたかったんだ。工作は得意でないけど、刃を研ぐのは好きでね、かなり本気になってしまったよ」
刃物依存症を自覚するサキリは、翼というより大きな刃を研ぐ感覚で羽を作り上げてしまった。アルミはガラクタ廃材の中から見つけたもの。足りない分はホームセンターで買ってきた。
好みの方向性は同じだと加代は思い、サキリの仕事に好感を抱いた。
「飾ることも大事ですが、削りに削って機能させる機能美こそ、美しいと私も思います」
加代が作っている羽根も、軽い金属や木材で強度を確保しつつ、滑空のためだけの形状を追求したもの。原理としては紙飛行機のそれに近い。
「実用性こそ美。私はそう思います」
「なははっ、せっかく空を飛ぶならさ、遊び心も大事だぜ！」
通りがかりの近石 簾が会話に混ざる。肩に担ぐは、粗大ゴミの中から拾ってきたと思しきスチールラック。ポケットはボルトやナットで膨らんでいる。
「ふはは、見ろ！ 俺の天使の羽根はな、ファンタジーはファンタジーでもスチームパンクだぞ！」
「すちいむぱんく？」
「そうさ！」
簾は加代の手をぐいぐいと引き、自分の作業場へと連れてきた。
分解された自転車や錆付いた廃材の中に、ごてごてしい金属の物体が横たわっている。
「これが、すちいむぱんく、ですか？」
「ああ！ 粗大ゴミのスチールラックとかから板とったり棒とったり拾ったネジフル活用してんだ。しかも変形機構つき！ 廃自転車のチェーンとペダルをこの辺に取り付けて、ここをこう回すと、羽根が広がる予定！！」
設計計画を話す簾は、どやぁああ！ と目を輝かせる。
「実用的とは思えませんが……」
「だあーっ、ロマンなの、ロ・マ・ン！」
三角定規ちゃんのぴくりとも動かない頬に、簾は地団太を踏んで訴える。
「すると、あれもロマンなのでしょうか」
加代の視線の先には――熊、もとい、邪衣 士がいた。
士は前回の選任戦で使った偽熊皮のあまりを再利用して羽根を組み上げようとしていた。
「邪衣さん。やはり熊ですか」
加代が話しかけると、熊皮を被った元自治会長は言った。
「いまさら熊以外のもの背負えるか！！」
ですよね、と周りにいた猫鳴館生が一様に頷く。
士と言えば熊。熊といえば士。むしろ熊が本体という声も……。
士の羽根は、最小限の骨組みに、熊皮が蝙蝠の羽根のように張られていた。
「ヨットのように向かい風を受けて加速できるようなイメージのものを作ろうと思ってさ。ほら向かい風の中を突き進むほうが猫鳴館らしいだろ？」
「向かい風の中を突き進む……たしかに猫鳴館らしいや」
元自治会長の言葉に、簾は妙に納得した。
「それにしてもおもしれーな。それぞれ個性を貫いててさ」
機能性を追求したサキリや加代のような羽根も、オリジナリティを追求した簾や士のような羽根も、両方あるのが猫鳴館らしい、と簾は思った。
「飛ぶのが楽しみになってきたぜ。しかし自治会長か、うーん、誰にするかなー」
簾は顎を摩って唸る。
「誰になってもこの先どうなるかわからねーし、面白そう。めっちゃ悩むわー」
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2018年04月07日
- 参加申し込みの期限
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- 2018年04月14日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2018年04月14日 11時00分
