猫鳴館、自治会長選任戦1370春　～天使の羽選手権｜リアクション

猫鳴館、自治会長選任戦1370春　～天使の羽選手権

●天使の羽選手権「ミミ、飛びます！」

　ハワイアンな音楽が流れてきた。
　チューブトップブラに、足首をゴムで締めたアラビアン風に膨らんだデザインのズボンに身を包み、羽根は、天使風の羽根にハイビスカスやプルメリアなどを飾ったカラフルかつ美麗なデザイン。その羽根を背負ったミミ・アハユルが、踊りながら登場すると、大きな歓声と拍手で、会場の熱気は一気にヒートアップした。
（朱蘭、ビックフライトだった。敵わないかもしれない。けど、応援してくれる先輩もいた）
　美野梨、そしてサキリ。観客の中にいる二人に向かって投げキッス。
（だから、ミミにも、大空を飛べる羽根が生えた。気持ち的にも、物理的にもね）
　踊りながら崖の突端までゆくと、修がマイクを差し出してきた。
「抱負を」
「なれたら頑張りまーす！」
　ミミはぱちんとウィンク。
（ミミの羽根は、みのりが作ってくれた凄い奴。綺麗に飾り付けて、音楽もつけてもらった。あとはミミが飛ぶだけ。フラとサーフィンで鍛えた腰さばきで、一等すごい風をとらえてやろう）
　目を閉じると風を感じた。故郷の音楽がミミの気持ちを高ぶらせてゆく。
　呼吸ができなくなるくらい、いっとう強い風の塊が崖の上のミミの背を押した。
（今！）
　ミミは目を開いて、崖を蹴る。
（うわ！）
　思った以上に風が強い！
　羽根に飾った花たちが、花吹雪となって、ひらひらと海に舞い散ってゆく。
　ミミは美野梨に教えられたように、ズボンの側面の突起を掴んだ。
　広がったズボンが風を受けて広がり、まるでムササビの膜のような役目を果たす。
「飛べてる！」
　ミミは思い切って景色を見渡した。崖の上で、美野梨が大きく手を振っているのが見えた。
（みんなが見てる。みのりが笑ってる。こわくないよ、たのしい。ミミ飛ぶよ。ずっと、ずっと）
　笑みが零れる。
「メ・ケ・アロハ（愛をこめて）！！」

　ほんの数秒の奇跡的なフライトののち、ミミは「あははっ！」と笑い声を上げながら湖面に着水した。
　到着したカモさん号に引き上げられても、ミミはまだ笑っていた。
「たのしかったー！」
　記録は、３４メートルであった。

◇

「ミミちゃんのキラッキラな飛行でしたの！　デザイン点の発表ですなの！」
　泉先生が１０、茂が９、鳶色彦が９の札を上げる。
「おおーっと、これは高い点が出ましたなの！　鳶色彦さん？」
「ハワイらしさと、ズボンの機能性がマッチした、素晴らしいデザインだったと思います」
　花びらが、ひらひらと舞落ちてくる。この日一番の拍手は、なかなか鳴りやまなかった。