＜宝石人形＞柘榴石ガネット｜リアクション

＜宝石人形＞柘榴石ガネット

　【心霊現象と人形】

　薄暗い照明の中、舞台の中央にスポットライトが当たる。
　そこには純白の髪をした、男性とも女性とも判断の付かない面立ちをした存在が立っていた。
　和装の祭服に身を包んだ夏神零は、マイクを前に静かに語り出す──

「神社の主と言う役柄、参拝者から様々な相談も受ける。
　曰くつきの物から奇妙な事案まで……」

　背後を流れていた風流な音楽が消えた。
　代わりに、流れてくるのは静かな小雨の音。

「ふと、夜中戸をしきりに叩く音。
　縁側の方からだ。
『なんじゃ……この夜遅くに……』
　スッと障子を開けるが人の気配は無い。
　だが足元に視線を向けると古びた桐の箱と置手紙」
　聴衆がその言葉と展開にじっと耳を傾ける。
　カタン、と零の言葉に合わせて木製の箱が鳴る音がした。

「【是非この奇妙な人形の供養を、しっかり成仏させてくださいまし。】」
　零が手元の紙を、さも手紙であるかの如く開き読み上げれば、周囲から息を呑むような緊張が伝わってきた。

「桐の箱の大きな蓋にはびっしりとお札、しかし古びていて、字も掠れ腐食や損傷が激しい。
『人形供養……か……。こいつはまた……強烈じゃな』。
　──伝わる雰囲気、箱からの妖気と言っても差し支えない空気に──」
　観客が一心に言葉に耳を傾ける中を、零が続ける。

「『む…？』」
　そして、状況の変化を示した零に、聞き手が一斉にざわめいた。

「重々しい蓋を開けるが肝心の人形は入っていない……。
『こいつはどう言う……！？』
　どういう事だと口にするよりも早く背筋に強烈な寒気と嫌な汗──」
　背後で静かに鳴っていた雨音が、いつしか退くように消え去った。
　一寸の音もしなくなった空間を、零の声のみが響く。

「縁側を歩く木目の通路の軋む音、明らかに自分とは違う何者かの足音。
　縁側正面の庭への視線からゆっくり縁側通路の左へ移すとそこには人形。
　和服におかっぱ、ひざ元高さの菊人形がいつも神社でつかう見慣れた盆に湯呑を乗せヒタヒタ歩く。

『ほんとにここで成仏できるでんしょうね！？』
　無表情な人形から確かに聞こえるややキツイ口調の少女の声が──」

「今日はありがとうございました！」
　──それから、
　怪談の公演ライブにて。己の身に起こった体験談を話し終えた零は、楽屋でようやく一息ついた。
　暖かいお茶を前に、挨拶に来たスタッフにこちらも軽く礼を告げる。
「そう言えば夏神さん、動く人形と言えば今ＳＮＳで凄い騒ぎになってるんですよ！」
「む？　それはどのような？」
「『旧市街で人形が動く』って話なんですけどね」
　零が詳しく話を聞けば、まるで人形がいきいきと喋り、人のように動き歩き回るのだという。それも白昼堂々と。

「ふむ、人形が動く怪か……」
「少し検索掛けるだけで、いろんな人が見たって目撃情報が上がっているみたいで」
「なるほど、体験は拙者のみにかぎらぬようじゃな。
　ちなみに、目撃情報はどの辺りか分かるでござろうか？」
　その言葉に、スタッフが少し携帯をいじると、九夜山の入り口にあたる参道の画像が表示された。
「この辺りみたいですね」

「生きた女性の生霊や念が入り込んでいるのやも知れぬでござるな。
　これから行ってみるとしようかの──拙者のところに届けられた人形も気になるが」
　そう言って、零はテーブルの上から異様な威圧感を放つ、先程の怪談話と全く同じ体裁をした桐の箱を目にしながら頷いた。

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