【らっかみ！　は終わらない！　止まらない！　いつまでもフォーエバー！】

　ぱちぱちぱちぱち……どこからともなく届く、盛大な拍手。ぴーぴーと鳴る指笛口笛に、轟く大声援。
　ばしん！　ばしん！　スポットライトが灯り、ステージを照らします。青赤紫にオレンジ、ぱかぱかと忙しく瞬くネオンサイン。掲げられた大きな文字はもちろん、こう書かれておりました。



ら！　っ！　か！　み！


「……ふ、ふふ♪」
　今宵初めてステージへと立つのは、ぴちぴちボインでフレッシュな１６歳のニューアイドル！　隠された右目に秘められたミステリアスが止まらない、たまらない！
　アケチくん……じゃなかった、明智 珠姫さんです！　きらりーん☆
「みなさん、今日は私の歌を聴きにきてくれてありがとうございます！　私、一生懸命歌いますね！」
　青いバラをあしらったフリフリハデハデな衣装に身を包み、ミニスカひらりと翻し、珠姫は満員御礼の観客席へと向かってムチュッ☆　と投げキッス。
「それじゃ、聴いてください……私のデビュー曲！　『破廉恥に抱き締めて』」
　スポットライトは深いブルーに色を変え、そのなかで微笑む珠姫の笑顔はまさしく、息づく青薔薇の蕾といった艶やかさでありました。
　曲調は静かな立ち上がり。とん、とん、爪先鳴らして。ハンドマイク握り締め、すうっ、口を開きます。



アナタの瞳　みつめてる

ジラさないで　なんてテクニシャン


　とん、ととん、ステップふみふみ。
　立てた指を一本、ふりふり。客席では徐々にヒートアップするファンたちが、サイリウムをゆらゆらゆら。



ひざしの明るさ　まぶしくて

でも　背中向けないで　アナタのすべて

サラけだして！


　透きとおったボイスは静かな始まりを経て、やがてリズムもグンっと速度を上げてアップテンポへ。
　珠姫はくるり一回転、チャームポイントと自称してはばからないプリ尻をふりふり。シェイク！　シェイク！！



破廉恥に抱き締めて　おひさまの下

エンリョしたら負け　恥ずかしがらないで


　シェイク、シェイク、シェイク！　どこまでも愛らしく、どうせだからと突き抜けて、媚ビッコビに笑顔を振りまいて！
　くるり、くるんと回り廻り、ゼンブ抱きしめるみたいに手を広げて、珠姫の歌声はクライマックスへ！



破廉恥に抱き締めて　おひさまの下

楽しんだもの勝ち　脱ぎ捨てるの


　両足揃えてジャンプ。たんっ！　地に足着けばぴちぴちボインがぷるんと揺れて、観客席の興奮も最高潮！
　珠姫はにっこり、満面の笑みはまさしく、青薔薇の花開くがごとし！



それが　アナタとワタシ
最高の　アートだから！


　珠姫の歌が終わっても彼女の振り付けは止まることなく、流れる音楽が止まることはありません。
　ちゃかちゃかじゃんじゃん、間奏が鳴り続けるなか、階段状のステージには次々と、バックダンサーたちが登場！

　スキップする毒島 虹子を先頭に、けらけら笑う野々 ののこに手を引かれた佐藤 英二が慌てて歩調を合わせ、ダンディな教師コンビ神嶋 征一郎とシグレ・ナイトウォーカーは肩を組み、女体化した可憐な服部 剛と弥逢 遊琳が寄り添いながら現れます。

　続いては高杉 かよう、響 蒼留人、マーガレット・ライカーに島岡 雪乃先生のバニーガールズ……みんながみんなガールじゃないですけれど、ともかくみんなで腕を組み、なんとも楽しそう！

　お菓子の国のお姫さま、白沢 絢子先生も駆けつけてくれました。脇にはふりふりドレスな三夜 千暁に、七夜 あおいをエスコートする八神 修と鴻上 彰尋。観客席めがけてお菓子を振りまいた弓立 招。まだ両手にお菓子持って食べてる三夜 深夜子。佐和崎 紗月と初瀬川 理緒はきゅっと手をつないで指を絡ませて仲睦まじく、宮祀 智瑜も負けじと桐島 義弘先生の腕をむぎゅっと抱き締めます。
　ぱから、ぱから、ぱから。白馬に乗った王子さま、吉田 熊吉先生は花嫁姿で頬を赤らめる化神 小次郎をお姫さま抱っこしながら入場！

　伊賀 解理は北風 貴子お姉ちゃんにピットリとくっついてご満悦。ファンタジーな装いの綾辻 綾花は早川 珪に手を引かれてぽっと顔を赤く染め、羽生 碧南もまた鷹取 洋二と恋人同士らしく腕を組み、軽快に足を振り上げます。

　深海のゆるゆるお魚パラダイスからの面々は、ふわふわと宙を泳ぎながらの空中ダンスを披露！
　真ん中にはおなじみサンマさんとマンボウくんがくるくるぴちぴちと舞い踊り、その周りを曖浜 瑠樹がラピちゃんラズちゃん、白猫のまちかといっしょにくるくるくる。ばっちりポージングをキメる真境名 アリサを万条 幸次がぱしゃぱしゃとカメラで撮りまくり、城山 水樹とヒュー・ヒューバートはふたりだけの世界にいるかのように静かな空中ワルツを踊ります。

　北里 雅樹と椎井 莉鳥はへろへろで噛み合っていないような、それでいて時折ぴったりとリズムが合うという不思議なダンスを。顔面蒼白な如月 庚の口にはなぜだかハンカチが突っ込まれていて、瞳にハートマークを浮かべた屋敷野 梢が暗い笑顔でそれを見つめております、至近距離で。
　呉井 陽太と志波 武道は、それぞれのドッペルゲンガーと肩を組み合い和気あいあい！　朝鳥 さゆるもいつもよりほんのり笑顔？　に見えて、けれどどこか寂しげにソロダンス。お隣のサキリ・デイジーカッターはいくつものナイフで器用にジャグリングを。くるくるくるん！

　遠い星空の向こうからは、自称カプギアの女王こと胡乱路 秘子がご帰還です。両脇にはほっぺたほんのり桜色な来島 アカリと、こぐまの着ぐるみを脱いだロベルト・エメリヤノフが彼女をエスコート。旅鴉 月詠さんはいつもの無表情で、メイドなラスボス新田 樹の笑顔はぴっかりこん！
　勇ましい革命軍を率いた古尾 桐子、星山 真遠にミーツェ・Ｍ・フェリスは、たくさんの部下たちといっしょに一糸乱れぬパフォーマンスを繰り広げます。
　もちろんカプギアマフィア、クラウンギアの構成員たちだって、負けてはいません。漁 良太に神嶋 星志郎、オトナバージョンの工藤 歩夢に謎めいた宿里 早鳴も。ボス・源 竜世とその右腕タイラ・トラントゥールが姿を見せれば、大歓声！　端っこにはあまり主張しないクールな鳳城 翔と、しれっと混ざってる牧 雪人の姿もありました。
　彼らに合流した暁桜 逢莉と環 的子、それに陸堂 源次と愛犬ロボも、たんたんぽいんと軽やかに飛び跳ねます。
　そして彼らの前にはずらずら、ずら～り！　それぞれのカプセルギアたちが並んで、ぴたり揃ったラインダンス！

　宇宙マウンテンバイクと合体したスーパーレインガールこと柚瀬 玲音は、ダークレインガールといっしょにブースター全開！　ニンジャルックな恵御納 夏朝に恵御納 夏夜、恵御納 久隆、恵御納 理沙の恵御納家も、縦横無尽に飛び回ります。もちろん妖精姿の冬夜くんに動く猫パペットのハルくんも、たくさんの付喪神たちだってびゅんびゅん飛び回り、大ハッスルであります。

　ミッシェル・ナイスゲイはこれでもかとエレガントに着飾り、クローネ……じゃなかった四十九院 鸞先生といっしょに。どちらも赤ら顔、ぶっちゃけ酔っ払いでした。
　ひゅるりと風が吹き、紙吹雪がひらひらひらり。小粋な演出は、今は姿の見えない花風 冴来が気を利かせてくれたのでしょうか？　優しい風は観客席をも包み込んでかれらの頬をくすぐり、花のような微笑みを増やしていきます。

　ずごごごご！！　突然地面に穴が開き、現れたのは地中探査艇『ながた１号』。扉が開いて、新田 亮と紗雪 幽の肩をがっしとつかんだ曖浜 鴻が、がははと笑いながら現れました。
　鬼河内 萌と野菜原 ユウはミニスカ魔法少女ルック。手にはなんでかカレーとスプーン！　美味しそうですね。
　御巫 時子は五十嵐 尚輝先生の手を引いて、水上 桜の隣へ並びます。上機嫌な桜が不意に尚輝先生へお手製のペンダントを手渡すと、彼はどこか照れくさそうに、それを時子の首へとかけてあげました。
　薄野 五月の姿は、たくさんのモグラ型地底人たちの上。担ぎ上げられた彼女はずれたメガネを押し上げて、ふっふ！　と笑います。

　ぞろぞろぞろぞろ。無数の深縹 露草が絶え間なく入場してくるのと同時に、いつもの巨乳に戻ったエロ・イーアールオーはふわぁとあくびをひとつ漏らし、黒兎 都は揺れた双丘を憎々しげに睨みつけ、ぺちん！　おもむろにひっぱたきました。

　総勢６０……７０？　えーと何人だ……た、たくさん！
　たくさんのバックダンサーたちがステップを踏み、腰を振り胸を反らして、時に穏やかに時に激しく、思い思いのダンスを踊り、観客たちへ笑顔を届けます。

「ふ、ふふ。さあ、ライブもいよいよクライマックスです。さらに本日はもうひとり、スペシャルなゲストがいらっしゃるんですよ」
　にこにこな珠姫が唇に指を当て、きゃるん☆　と愛らしく小首を傾けます。
　手のひらを翻し、彼を呼びました。
「一部の界隈で大人気の、キラキラ☆アイドル！　この方のご登場でぇす！」



　ステージへ満ちる声。観客たちは聞きました。底抜けに明るくて、誰もが元気になってしまう……そう、あの高笑いを！
　トリを務めるのは、この方！
「はーーーっはっはっはっは！！　さぁっ、お待ちかね！　スーパーアイドル、花椿 涼太郎の登場だよ！」
　真紅の薔薇がぶわーーーっ！！　吹き荒れる花嵐。床にぽっかり開いた穴からずんずんずんとせり上がってくるのが、キラッキラのゴージャスな衣装を身に着けた涼太郎その人でありました。
　スタンドマイクのケーブルをびょんと波打たせ、ここからは涼太郎のショウ・タイム！
「最後まで盛り上がっていこう！　では聞いてくれたまえ……『キミの瞳に映る僕に恋してる☆』（作詞作曲：花椿 涼太郎）」



薄情な男と　キミは僕を　恨むだろうか

許しておくれ　自分を裏切るなんて　できない


　激しく刻むリズム、情熱的なナンバーが、聴く者の魂を揺さぶります。
　はっと呑まれた観客たち、我に返り贈るのは、万雷の拍手！



ああ、神さま　なんて罪なことを

どうしても届かない人に　恋してしまったんだ


　ステージを縦横に横切りながら、スタンドを蹴り上げ振り回し、力強くマイクへ声を叩き込めば、スピーカーから飛び出した歌声は空気をずんずん震わせます。
　どこからか現れたオーケストラが高らかに楽器を弾き鳴らし、バックダンサーたちのコーラスも荘厳に、涼太郎の歌を演出してくれました。



I love you reflected in your eyes.

I love you reflected in your eyes.

映し鏡　それが僕の　罪の名さ


　どこどこどこん、腹の底に響くビートが観客たちをとめどなく高揚させていきます。
　涼太郎自身もまた激しく腕を翻し、長い脚を振りかざしてテンションマックス！



I love you reflected in your eyes.

I love you reflected in your eyes.

ごめんよ　僕は──



　タメてタメて、引いて引いて。
　たっぷりの静寂を挟んだ後、カメラ目線でウィンクを一撃！



キミの瞳に映る　僕に恋してる


　最後はクラッカーが一斉に、どっぱーーーん！！　と弾けて、飛び出した色とりどりのリボンテープが、ステージと観客席を虹のかけ橋のように繋ぎました。
　涼太郎は駆け寄ってきた珠姫と、がっちり握手を交わします。お互いを素晴らしいアイドルと認めたがためでしょう……大きく開いた珠姫の胸元からは、目のやり場に困るのか、ふいと視線を逸らしておりましたけれど。
　ダンサーたちが手を叩き始めると、それはさざ波のように広がり、やがて全てを飲み込んでいったのでした。
　今年のエイプリルフール、これにて終了！　大団円！！









　もう、６年になりますか。
　らっかみ！という物語が綴られ始めてからというもの、そこには幾度かの区切りもまた訪れてきました。壮大で心弾んだステージの光景も、きっとそのひとつではあったのでしょう。
　けれどこの物語はまだまだ、終わりの気配を見せてはいません。ののこちゃんだって天に帰るつもりはゼンゼンなさそーですし、最近は新しいらっかみまで落っこちてきたというんですから。これがなんとも可愛らしい、白猫のらっかみちゃんです。これからずんずん人気者になっていって、許嫁が手も触れられないくらいの大物になってしまうことでしょう。
「余計なお世話だぜ……」

　らっかみ！はまだまだ、終わりません。この道はずうっとずうっと、未来へと繋がっているのですから。
　もちろんこれは、ホントのことですよ？　ウソだと思うなら、願えばいいんです。叶えればいいんです。きっとどこかの神さまが、シンコーンっと聞き届けてくれることでしょう。

　私たちの大好きなこの世界には、とっても不思議で素敵な力が、満ちあふれているんですから！