●地学パート２●


【北校舎１Ｆ・廊下】

「……馬鹿には、みえない……、なんて」
　さて、こちらの保健室前の廊下でしょんぼりしているのは、志波 拓郎と多喜 勇生の２人だ。
「に、苦手科目だから徹夜で復習したのにぃ……」
　この１年生２人もまた、テストが見えなかったクチらしい。付喪紙という判定器で自分がバカだと判明し、涙目でしょげている多喜。
（苦手の世界史と地学が重なったから、こっちを捨て教科にしたら……）
　そして拓郎の方もまた、あまり口には出さないものの、地味にショックを受けているご様子である。
「せ、せめて……暗記、忘れる前に……
　早く、見つけて……ガンバロウ……！」
「そ、そうだね！」
　ぽん、と同士に肩をたたかれ、多喜の方もともかく、ふっきれたようだ。
「このままじゃ昨夜の一夜漬けが無駄になっちゃう！
　どうにかして問題用紙を元に戻すぞー！」
　付喪紙を見つけるために、２人は協力し合うことにした。
　さて、では見えない付喪紙を、どうやって見つけよう？
「水を撒いて……は、元が紙だからなんか嫌な予感がするし……
　チョークの粉、は汚れそう。そうだ、なら……」
　志波拓郎のアイデアは、こうだった。
　シャーペンや下履きなどの小物系を廊下に撒き、じっと待つ。付喪紙が通過したら、小物が動くなり、音がするだろう。その音を頼りに追い詰めよう、という作戦。
　ただし、手持ちの小物では数が少なすぎて、廊下に撒くにはちょっと心許ない。間がどうもスカスカで、もし付喪紙がやって来ても、これでは簡単に通りすぎてしまいそうだ。
「う〜ん、僕もマイ工具箱とか持ってきてたらよかったんだけど」
　ＤＩＹ好きの多喜だったが、さすがに試験会場にまでは持ち込んでいなかった。
　けれども、幸い保健室がすぐそばだ。
　多喜が使えそうな小物を見つけてきて、拓郎の所持品に足す。中でも、包帯があったのは良かった。廊下の数カ所にピンと敷いて、小物の隙間をフォローできた。付喪紙が通過すればその箇所が引っ張られて分かるだろうし、うまくすれば転んでくれるかもしれない。
「結構、うまくいきそうじゃない？」
「この考えで……もし見えたら、あとは自分に、任せて……。
　ダッシュで捕まえてみせる、から……」
　拓郎は陸上部員なのである。眠気覚ましにちょうどよさそうだし、時間はたっぷりある。身体を思い切り動かしてから、試験に臨むのもいいかもしれない。
　保健室のドアの陰に隠れて、廊下の様子をうかがう多喜と拓郎。

　タタッ・タタッ……

　さっそく小さな足音が聞こえて、顔を見合わせる２人。そして、シャーペンの転がる音がした！
「（今だ）って、……うぉあ！？」
　いきなりベルトが外れ、ずり落ちたズボンに足を取られる志波拓郎。しかし、デヤッ！と利き足でこらえて、幅跳びで鍛えた見事な跳躍を見せる陸上部員──（ズボンは地上に置き去りにして）。
『フギャ……じゃねえ、いきなり何しやがる！』
「捕まえ……、えっ？」
　拓郎の両手の中でもがいているのは、ブラジャーを両耳にかぶせた灰色猫・テオ。そしてさらにその後を追い、ノーブラの胸を片手で押さえて、最上 るるかが突進してきた！
「そっ、そのバカ猫捕まえて……ってキャーー！？　キャーー！！（急ブレーキ）」
　赤面するるるかにハッと下半身を見下ろせば、いつの間にかパンツ１枚になっている自分の姿！
「こっ、これは、その……（たくし）」
「ばかーーばかーー！　何でそんな格好（つるっ）」
　急ブレーキで引き返そうとしたるるかが、さらに包帯トラップに引っ掛かって、拓郎にストライク命中☆
「痛った〜い、もうやだー！」
「だ、その……すっ、スグどくから……（待って）」
「って、きゃーっあたしもパンツ丸見え！」
　るるかのスカートも足首までずり落ち、おしりに猫のプリントが入った可愛らしい下着が丸出しに。
「み、見てないよぉ！」
　とこちらも真っ赤になって目を逸らす多喜勇生、一方のるるかの方は、
「今日はお気にのにゃんこパンツなのに……
　お子様だって笑えばいいでしょだって中間テストで見られる事想定してないし
　見せパンなんて用意してくる訳ないじゃん！」


【北校舎３Ｆ・図書室】

　さて一方、図書室に残された男子４人組は。
「なるほど状況は説明してもらって何となく分かったぜ！」
　佐藤 英二、三希 環、御剣 刀らの説明を受け、この不思議空間がテオの造った世界であることを、ようやく八城 昌也も知らされていた。『ひと』である八城には、さきほどのテオの声も聞こえていなかったのである。
「そうか、分かってもらえてよかったよ。
　こんなデタラメな話、信じてもらえないと思ったけど」
　ほっとする佐藤 英二に、
「ああ分かったぜ──これが、地学ならぬ恥学の抜き打ちテストだって事がな！」
　いや……やっぱりどうもまだ、よく分かっていないようだぞこの学級委員。
「いくら苦手科目とはいえ、問題用紙が見えないとはな」
　と憮然顔なのは、（あいかわらず全裸姿の）御剣 刀。
「……まあ、地学が分からなくても俺の生活には影響ないし、
　でも徹夜で勉強したのに意味ないよって言われた気がして少しムカつく」
　いいからパンツを履け。
　見かねて三希 環が、カーテンを引きちぎって御剣に掛けてやる。
「また、法則のせいで脱げちゃうかもしれないけど」
「すまん、ありがとう。さっきまでの俺は、寝不足で頭がどうかしていたようだ（ぬぎ）」
「だから自分から脱がないでよ！？」
　ところで、そろそろお気付きかもしれないが、今回この【地学世界】に来ている女子は、実はさきほどの最上 るるか１人きりなのである。何という……絶望的ッ……絶望的な女子不足……ッ！
　よって、誰得になるのか分からないが、ここからは相対的に、男子の脱衣描写が増えていくことを、どうかお許し願いたい。
　……ということで。
「あれっ？　やけに股間がスースーするような」
　いや、そう言う佐藤はさっきから「はいてなかった」のだが、見ればその頭に被っていたパンツまで、いつのまにかどこかに消えている。おや、いったいどこに行ってしまったのだろう？
　すると、
「キュ〜、キュ〜？」
　本棚の陰からぞろぞろ現れたのは、４人前のパンツたちだ。
　……んっ？　と顔を見合わせ、男子たちが慌てて下半身を確認すると、いつのまにか彼らのパンツが消えているではないか！
「まさか、付喪紙に……履かれてる！？」
　佐藤のビックリ声にこちらも驚き、
「キュッキュー！」
　跳び上がって逃げ出す４枚のパンツたち。そう、彼ら付喪紙だってよくよく考えれば全裸なのだ。今は馬鹿には見えないけど、もし可視化されてしまったら、紙だってハダカはそりゃ恥ずかしい。折よく入手できたパンツをそれぞれに履いて、ワーーと逃げていく付喪紙たち。
「って、ちょっ、まっ……」
　パンツを奪われた男子４人が、慌ててその後を追った！
「こ、これが恥学の抜き打ちテストか！？」
　確かにまあ恥ずかしい仕打ちだけど、ビミョーに納得いかない八城昌也だ。
「キュ〜、キュキュ〜♪」
　しかし目をつぶれば、アハハうふふ〜あたしたちを捕まえて〜♪と聞こえなくもない、可愛らしいキュンキュン声である。
「こ、これは可愛い妖精さんだと思えば俄然捕まえる気が増すね！
　よーし！　捕まえちゃうぞ〜♪　待てまて〜♪」