●地学パート１●


【北校舎３Ｆ・図書室】

　続いて中間テスト２科目め、【地学】のテストである。
　この科目でもやはり問題用紙が見えずに、異世界に跳ばされてしまった生徒たちがいた。

「あれ？　テストを受けてたはずなのに、何か変だぞ？　学校の様子がおかしくね？」
　１年５組の学級委員・八城 昌也は、キョロキョロと室内を見回し、首をひねった。同様に、この図書室にいるのは、佐藤 英二と三希 環と御剣 刀、それに最上 るるかの５人だ。
「ってか、俺の服おかしくね？　何か不安定感を全身で感じるんだがっ！？」
「そうかな？」
　同じクラスの佐藤 英二が、ちらっと八城を見る。シャツのボタンが外れ、何だか胸許がセクシーにはだけているが、このホスト部所属のクラスメイトは、だいたいいつもこんな感じだ（たぶん）。
「べつに、いつもと変わらないと思うよ？」
「う〜ん？　でも僕も何だかさっきから、身体がもぞもぞするような……」
　と赤いマフラーがちくちくするのか、こちらもしきりに首をかしげているのは三希 環だ。
「え、何ここ。今まで講堂にいたのに？」
　同様にキョトンとしている赤毛三つ編みの女子、最上 るるかを目ざとく見つけて、
「ねぇ♪　そこのキミ〜！　何かここ変な感じがしない？」
　軽いノリで近寄っていく八城昌也。
「おっと♪　キュートなおヘソが見えちゃってるねぇ？」
　八城の指摘に、エッと自分を見れば、いつのまにかベストとブラウスのボタンが外れ、るるかのすべすべのお腹が、丸出しになっているではないか！
「俺は嬉しいけどお腹壊さないように気をつけないとね♪」
「って、キャーッ服が勝手に！？」
　あわててボタンを下から留め直そうとするるるかだったが、その指をかいくぐって、逆に胸許までめくれ返ってしまう制服！
「わっ、わわ！」
　真面目な佐藤が、思わず自分の目を覆い隠すが、
「やだ、スカートも！！」
　今度はプリーツスカートのホックが外れて、ずりずりと下に移動を始めた。ぺろん、とるるかの可愛らしいヒップが一瞬見え、はっしとスカートを引き戻す彼女。
「ふぇ〜ん、どうなってるのコレ！？」
　そう、この【地学世界】を支配する法則は、プレートテクトニクス理論！
　着用者の意志に関係なく、服が身体の上を分裂＆移動していく、それはそれはえっちな世界なのだ！
「ナニその法則！？　って、ちょっと男子ぃー！
　こら！　あっち向きなさいったらー！」
　るるかの悲鳴に、あわてて本棚に向かって回れ右する佐藤と三希と八城の３人。
（な、なんだ？　この不思議空間は！　俺にテストを受けさせずに、
　あまつさえ誘惑してくるなんてっ！……あ、ありがとうございますっ！）
　いつも軽いノリなので気付かれにくいが、実は女子と接するのが苦手な八城昌也は、るるかのあられもない姿に内心、心臓バックバクである。


　だがここに、そんなるるかの痴態（？）を、へいぜんと見ている男がいた。
　彼の名は、御剣 刀。あの海原生徒会長と並ぶ、寝子高屈指のムッツリ……ではなく、単に今日はおねむなだけである。テスト勉強の徹夜明けで、ぼーっとしているらしい。
「服がずれる？　ってこれ、プレートテクトニクスでも何でもねえだろ……。
　テオ、お前もう少しまともな世界用意できなかったのかよ……」
　まったく仰る通りである。あの猫め！　あの猫め！
「って、そこのアナタも後ろ向きなさいよー！」
「あぁ……うん（ぼんやり）。だが、逆にこう考えるんだ。
　服が分裂・移動するには服がないとできない、
　つまり服がずれるのが嫌なら、全部脱いで裸になれば良いって事だ」
　顔を見合わせる佐藤と三希と八城、このひとは一体、ナニヲイッテイルノ……？
「よし、俺が手本を見せてやろう（ぬぎ）」
　御剣刀が、ありのままの自分をさらけ出した！
「キャーーーーーーーーーーーーー！！？（図鑑投げ）」
「こ、こいつ……俺を誘ってるのか？　お、俺にそのケはないからっ！
　そのチラリズムいらねぇから！」
　チラリズムと言うか、自主全裸だ。たじろぐ八城も八城だが、手近な図書をぽいぽい投げつけながら、真っ赤に沸騰しているるるかも、意外といえば意外な反応。ふだんはギャルっぽい言動の彼女だけれど、中身は案外、うぶで純情なのらしい。
「……本末転倒だ、眠すぎてボケてる」
　その投げつけられる本を、無駄に良い反射神経で避けながら、「ガチン！ガチン！」とか口で言ってる御剣刀（全裸）。寝不足もここまでくると、そうとうだめな感じだ。


「元の世界に戻るには、付喪紙を元の紙に戻せればイイんだね？
　頭が良さそうに見える行動ねぇー……どうしたらいいんだろ？」
　一方、三希 環の方はといえば、そんな生徒たちの混乱をよそに、マイペースで付喪紙を見つける方法を考えている。きょろきょろと猫のような瞳で周囲を見回し、
「あっ、そうか。ここは図書室なんだよね。
　参考書を借りて読んだりしてれば、頭が良く見えるかも……って、うわっ！？」
　足を取られて、いきなりすっ転ぶ三希。
　今度は、何だなんだ？　見れば、自分のくるぶしを、ウンセとパンツがよじ登っている。
「！？　だっ、誰のパンツ？」
　誰のっていうか、これはさっきボケボケ御剣が脱ぎ散らかしたパンツだ。だって男物だから。御剣という情熱大陸から、一度は放り出されたパンツだったが、また新たなパンゲア大陸を求めて、ここまでプレートテクトニクスしてきたらしい。
「エエッ？　移動するのは、自分の服だけじゃないの？」
　そうみたい？
「って、ちょっ、まっ……」
　のんきにしていた三希環も、これにはさすがにジタバタと抵抗する。やっぱ男物は、ねぇ。


　その一方、すでに自分のパンツを、頭からかぶっている者もいる。
　真面目少年、佐藤 英二だ。その他に着衣の乱れはいっさい無いので、どうやってパンツが頭にまで移動できたのかは謎であるが、何しろプレートテクトニクス理論に不可能は無い。
「みんなの衣服が大変なことになってる！
　しかし、しかし……今はテスト中。一刻も早く答案用紙を確保しないと！」
　自分の服などもはや些事に過ぎないので、あえて気にしない佐藤だ。そして、こんな状況下でもテストのことを最優先する、真面目な性格。
（クラスメートのよしみで、野々さんの分も併せて、問題用紙２枚捕まえたいな）
　そして、ののこに対する思いやりもある。困っている人がいれば放っておけずに、陰からこっそり手助けするのが、彼の性分なのだ。
　ともかく、周りの光景は彼には目の毒なのでぎゅっと目を閉じ、必死に念じる佐藤英二。
（テストが見えないなら……僕は心眼で、問題用紙ゲットめざすよ！）
　心眼だ！　武道などの心得もあまり無さそうな佐藤に、そんなことが可能なのだろうか？
（普通に考えたら、そんなの無理だけど……
　答案用紙に意思があるのなら、切実に訴えてお願いしたら大丈夫そうな気がする）
「ちゃんと成果は出せないかもしれないけど、それでも頑張って試験勉強したのは事実だから」
　理系科目が苦手な佐藤だったが、１科目めの物理は重点的に対策した結果、ちゃんとテストを見ることができた。だがその分、２科目めの地学が手薄になってしまったらしい。
「でも僕は諦めずにテストを受けたい。
　だから、君達（問題用紙）が必要だ。
　僕の手に収まってくれたら助かる──！」
　目をつぶったままそう言って、付喪紙を迎え入れるように両手を差し出す佐藤。
　その指が……さわっと何かに触れた！
　やった、付喪紙だ！　やっぱり願えば、想いは届くんだ！
　嬉しさに開眼した、佐藤がそこに見たものは──
　脱ぎたてほかほかのブラジャーを付けた、憮然顔のテオだった。
『ん……？　どうした、てめえら。なに見てやがる』
「やだー！　ちょっとそれ、あたしのブラ！？」
　という最上るるかの悲鳴にもかまわず、
『遊んでねーで、とっととテストを見つけろよ？　ののこの分もな（念押し）』
　とスタスタ出て行ってしまうテオ……。
「「ぉおい！」」
　突っ込む全員、そして佐藤英二の心眼作戦、失敗！