●物理パート７●


【校庭（第１グラウンド）】

「たっ、たたた太陽が落ちてくるって、なんですか！？」
　メガネをくもらせて仰天する白浜 渚に、
『まあ、安心しろ。太陽と言っても、あくまでこの世界の太陽だ。
　俺が造った太陽だから、本物に比べりゃ、ちっぽけなモンさ』
「小さいって……」
『まあ、直径１００メートルぐらい？』
　ウーン、と直立したまま卒倒する渚。加賀見 光子朗が、
「でかい！　充分でかいよ！？」
　まあだいたい、寝子高の野球場（第２グラウンド）と同じぐらいの大きさ？
「なんでそんなものが、ここに落ちてくるんだ！」
『今回は急造でテキトーに造った世界だ。
　どうせバレないと思って、糸で空に釣っておいたんだがな。
　その糸が切れて、落っこちてきたみてーだ』
「だから何で、わざわざピンポイントでここに落っこちてくるんだよ！？」
『そりゃあ、てめえ……この女の乳が引き寄せてるのに、決まってんだろ』
「…………」

「「Σ ええーーーーーーっ！？」」
　気絶している白浜渚のアルティメットおっぱいを、二度見するその場の全員。

『この俺様としたことが、ウカツだったぜ……。
　だが、126cmの乳が実在するなんて、予測できるはずがねーだろう？（肩すくめ）
　てなワケで、ここに太陽がぶつかるまで、あと３分だ。もう、おちおち遊んでらんねーからな』
　そのカウントダウンに、バッと頭上を見上げる全員、
　見ればもう太陽はいつの間にか、彼らの直上にまで迫っている！

　ズゴゴゴゴゴゴ……

「「わっ、わああああああああああ！？」」
　パニックに両手を挙げて逃げ出そうとする全員、しかし当然のごとく、渚の万乳引力に身体が引き寄せられて、ビクとも身動きがとれない！
「熱くて……も、もうだめ……（ぷちり）」
　いよいよ我慢できずに女子５人が、ブラウスのボタンも外し始め、
「おっぱい万能力学……なんてこったい、俺達は今世界の真実を目の当たりにしているんだ！
　おっぱいは偉大だ！！」
　と拳を突き上げ、ガッツポーズの横嶋 下心。
　その横でテロリスト・草薙 龍八はと言えば、さきほど自分が破った問題用紙をじっと見つめて、
（くっ……やむをえん。背に腹は代えられんか）
「おい、テオ！　俺には付喪紙が見えているからな。さっさと元の世界に戻してもらおうか！」
　と、その破れた問題用紙を持ったまま、現実世界にすぐさま帰還してしまう。
「あっ？」
　それを見た他の生徒は、そりゃないだろとテオに詰め寄るが、
『いや……この世界に連れてきた時に提示した、ルールだからな。
　てめえらも戻りたければ、はやく付喪紙を見つけろよ。あと２分！』
　ってこの猫、容赦ない。
「そうだ！　大きな胸が太陽を引き寄せてるなら、小さくすればいいんだ！」
　そこで良いことを思い付いたのは、響 タルトだ。
「巨乳の人、ちょっと失礼するよ〜」
　とトイレから持ってきたトイレットペーパーを晒代わりに、寝ている渚の胸をムギュウと締め付ける。

　ゴゴゴ・ゴ・ゴ・ゴ・・・

　わぁい！　太陽の落下速度が、ちょっと遅くなった！
「やったね♪　これで僕にも付喪紙が見えるはず！」
　と周囲を見回し、いるはずの問題用紙を探すが、
「う・うぅ〜〜ん」
　目を覚ました白浜渚が身じろぎした拍子に、ぶちぶちとペーパーが全て破れて、元の木阿弥。
「わぁあ〜ん、やっぱりダメだったよー」
『あと１分！』
「いやまてよ？」
　今度は、雨崎 荒太郎の出番だ！
「地球は自転して万有引力出してるから、
　僕らが回転すれば万乳引力から解放されるんじゃないー？」
　いや……地球の自転で発生するのは、引力じゃなくて遠心力だよ雨崎君……（小声）
　しかし、結果については彼の言う通りだ。もし、中心軸の渚がものすごく速く回転すれば、発生するその遠心力で、貼り付いている皆も離れられるかも？
「えっ？　わ、私が回るんですか？」
「よ〜し、やってみようっ！　くるくる〜☆」
　まだぼんやりしている渚を応援して、くるくる回転してもらう雨崎……しかし何もない所でもすっ転ぶほどの運動音痴・渚に、そんなスピン運動を求めるのは酷だった。２〜３回転でたちまち目を回し、（皆を道連れに）倒れてしまう渚。
「む、無理です……でも早く、この世界から出ないと。
　えーと、要は、問題用紙が見えれば良いんですよね？」
　ふらふらになりながらも、携帯を取り出して、
「人間に見えない問題用紙でも、機械なら見えますよね？
　スマートフォンなり携帯なりで問題用紙を撮影して、
　機械が見た問題用紙を私が見れば何とかなるはずです」
　しかしそのカメラを、どこに向けて撮影すれば良いのかが、分からなかった！　
　鳴き声がすれば、そちらの方向に見当を付けて撮影することもできたかもしれないが、今はそんな声がするのを、悠長に待っていられる場合ではなかった。それに、機械なら付喪紙が見えるというロジックも、はなはだ怪しいところである。
　せっかくの白浜渚のひらめきも、アイデア倒れに終わってしまった。
『あと１０秒！』
「うわ……どーすんの、どーすんの！」
　あわてふためく全員の頭上に、大気を圧して落ちてくる太陽。フレアとプロミネンスをその背後に吹き上げ、渚のバストめがけて真っ逆さまに落ちてくる、その灼熱の恒星──。
「も……もうだめ！！」
　絶望に固く目をつむる種子島 タネ、

　太陽、激突。

「あれ……でもまだ、うち、生きて……る……？」
　そして恐る恐る目を開ける郡 トモエ、そこに彼女が見たものとは。
　４つのおっぱいで太陽の落下を受け止めている、難波 辰と上穗木 千鶴の勇姿であった！
「おっぱいにはπの法則がある。
　π……それは黄金律……」
　もったいぶった口調でニヤリと笑っているのは、ろっこんでＦカップ美少女になった難波辰奈。
「πの法則をカラダで実証してやるぜ！」
　正確に言えば、太陽を受け止めているのは、難波自身のおっぱいではない。そのＦカップのバストから発生する万乳引力で、先ほどのプールの水を２つに丸め、浮かべたその巨大な水球で、太陽の落下を押し留めているのである！
　トップレスのバストを必死に両手で隠しながら千鶴も、
「そう、ぼくの胸はＨ。Ｇ（重力）を超え、Ｈ（水素）をも制御するバストなのだよ。
　そっ、そんなに見つめられると、恥ずかしいけどね……」

　ギャルギャルギャルギャルッ！！
　ドッシュゥゥゥウウウウウウ！！

　難波と千鶴、２人で４つの水おっぱいが、灼熱の太陽ボールを真正面から受け止め、その摩擦で周囲にすさまじい水蒸気が立ち込める！
「その昔ある物理学者はこう言った。
　乳には人類のロマンと女子のエロスと男子のリビドーが詰まっている……」
　すっごく真剣な顔で、さらにπの法則を解説する難波。
「おっぱいの理想値は脂肪９０％乙女の恥じらい１０％で構成される。
　ゴールデンπ！
　重力の法則に負けて垂れる乳も揺れる乳も弾む乳も眼福！
　どうだ、頭よさそうな発言……え、全然頭いくない？」
　だが、その時だった！
「キュ、キュキュ〜〜」
　周囲のグラウンドに、次々と付喪紙の姿が現れ始めたのである！
「よっしゃ完璧、やっぱり俺って頭良かったんじゃん？
　自分に惚れ惚れしちまうぜ！」
　いや違う。難波の発言に反応したのではなく、太陽との激突で発生した大量の水蒸気で、見えない問題用紙の位置が判明したのだ。
　顔を見合わせる全員、
「「そうか！」」
　タネとタルトと横嶋が、加賀見と萌が、雨崎とトモエが、渚が、そして難波と千鶴が。
　それぞれに計１０枚の付喪紙を見つけ、目視確認でテストの姿に戻す。
「それに、ののちゃんのテスト……！」
　そしてバッと周囲を見回す夢宮 瑠奈が、
（さっき草薙くんが破いた１枚は彼が自分で持ってったから、
　まだもう１枚、どこかに余ってる子がいるはず──、）
「いた！！」
　ののこの分、白浜渚のおっぱいに貼り付いていた最後の１匹を発見し、
『──よし、いいだろう。じゃあ全員、脱出だ』
　テオの一声とともに、一瞬で元の試験会場に転移する１１名の生徒──

　直後、無人となった寝子高のグラウンドに太陽が衝突し、まばゆい光と共に１つのささやかな世界が消滅したのだった。

　危機一髪、物理科目──これにて全員ミッションクリア！！