愛ある全てのものへのダンジョン｜リアクション

愛ある全てのものへのダンジョン

■愛しいあなたのもと
　愛あるすべての者へ。
　愛あるすべての者へ。
　これは。
　あなたの愛を証明するための冒険です。

　なにが始まりであったのかを語ることは、ここでは難しいでしょう。
　大天使天吏の信仰と、夢と、愛のお話をするには、ここだけでは、あまりに深くて広すぎたのです。
　ですから今は、愛のお話だけをすることにしましょう。
「……ここは？」
　天吏が身体を起こして振り返ると、草原の中に黒くて大きな扉がたっていました。
　それが恐ろしい冒険への旅立ちだと、心で理解できるほどの扉でした。
　けれど退くことなどありません。
　天吏は立ち上がり、一度ゆっくりと瞬きをしました。
　手の中に現われたのは、いつかのナイフ。
　美しい曲線を描くハーピーナイフでした。
　まるで鳥の顔やくちばしにも似た刀身を天吏はゆっくりと人差し指でなでました。
　そして穴に指をひっかけて、強く強く握ります。
　これがただのナイフではないことを、もう天吏は知っているのです。
「……ハーピー、ハルピュイア。私を守ってね」
　扉にてをかけ、大きく開く。

　石造りの広い部屋。無数に並ぶ柱。
　元が誰であったのかもわからないほど包帯に覆われた怪物が棺を蹴り開けて現われ、天吏の首へと掴みかかりました。
　天吏はそれを眼帯のない目で見て、軽やかにかわします。
　かがみ、潜り込み、すり抜け、まるでかすめ取るようにナイフの刃が怪物を切り裂きました。
　ああ、まるで。
　ああ、まるで。
「鳥さんのよう……」

　道はテレビや本で見たピラミッドの内部にどこか似ていましたが、あちこちに掲げられた彫刻や壁画は見たことも無いものでした。
　見知らぬ神をあがめる、見知らぬなにかの墓所でした。
　けれどなぜでしょう。
　天吏はこれがなんのための冒険であるのか、もう理解できていました。
　通路を抜け、罠を抜け、とても開けた部屋に出ました。
　長く、そして広い階段。
　先には光。
　松明が順に火をともし、階段の途中でまつ無数の『あれやこれや』を照らし出しました。
　乗り越えるべき、あれやこれや。
　天吏はナイフをもう一度指で撫でて、強く強く握りしめました。
「さあ、モンスター達、かかってきなさい。切り刻んであげるわ」
　階段を駆け上がり、襲いかかるすべてに、天吏は立ち向かうことにしたのです。

　無事とは、さすがに言いがたい状況でした。
　沢山怪我をして、痛い思いをして、やっと階段を抜けました。
　そこは花さく庭園でした。
　見たこともないような鳥が飛びかう、不思議な場所でした。
　歩いて行くと、振り返る何者か。
「ああ……」
　天吏は、手にしていたナイフをやっと手放しました。

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