Good Day！！～『somnium』～｜リアクション

Good Day！！～『somnium』～

「お久しぶりです」

　ひょい、と頭を下げて挨拶した、仙藤紫に老夫婦は、おやおや、まあまあ、と驚いた様子だった。

「もう大学生になったのかしら？　あらまあ、すっかり大人のお嬢さんになったこと！」
「そんな……まだ何も知らない子供ですよ」

　伊都子さんの感心したような言葉に、さすがにそれは気恥ずかしいと、紫は苦笑いをする。思い返せばお店に来るのも半年ぶりなのだから、高校時代から年上に見られて居た紫に向けられる評価としては、妥当なのかもしれないが。
　そう、半年ぶり。半年ほど前、クリスマス前に雑貨作りに参加したときも久しぶりだったけれども、あれからまた何かと忙しく、大学に入ってようやく落ち着いてきたのがここ最近の事で。
　うららかに晴れた穏やかな午後、久しぶりに、この日和のように穏やかな『somnium』で過ごそうと思った。大学生活のことや他の様々の近況を、高明さんや伊都子さんに話したいとも思ったし。
　だから紫は老夫婦に、あたかも実の祖父母に話すかのように最近のことをあれこれと話して聞かせる。それを老夫婦はまるで実の祖父母のように、そう、と嬉しそうに頷きながら聞いてくれる。
　ひとしきり話を終えて、ところでお2人は、と尋ねてみると、この4月から孫娘が寝子高に入学して一緒に暮らし始めたと、嬉しそうに話してくれた。

「だから、後輩になるのかな？　今日は出かけて居ているけれど、また会うことがあれば何かと教えてやってくれるかい」
「わかりました。何か役に立てることがあれば」

　頼んだよ、と気さくに笑う高明さんにこくりと頷きながら、どうやら木原夫妻もお元気だったようで何よりだ、と心の中で安堵する。後輩だというお孫さんには――果たして本当に、役に立つようなことがあるのかはよくわからないけれど。
　そんなことを話していたら、からん、とガラス扉のベルが鳴って、新たな客が入ってきた。それじゃ、とひとまず話を切り上げて紫は雑貨をぐるりと見て回る。
　『somnium』で売られている雑貨は、伊都子さんが折に触れて手作りしたり、木原夫妻が旅先で気に入ったものを買ってきて並べている物がほとんどだから、しょっちゅう品揃えが変わる。だから、前に見てから半年も経っていれば、ほぼ初めて見るものばかりと言っても大げさではない。
　これは面白そうだとか、こっちの雑貨は材料を揃えれば自分でも作れそうかもとか、考えながらのんびり見て回って紫は、なんとなく目に付いた木彫りのフクロウの根付を買っていくことにした。根元についた小さな鈴が、揺らすと可憐にちりんと響く。

（さて……のんびりしていこうかしらね）

　根付のフクロウをちりん、ちりん、と鳴らしながら、紫はストレートティーと、ちょうど焼き立てだと聞いてマドレーヌを注文し、カフェスペースへ足を向けた。窓から差し込んで来る、春から初夏へと移ろう午後の光に目を細める。
　せっかくなので座るのは、優雅な日差しが感じられる窓際へ。ゆったり座って店内を見回せば、同じように5月下旬の穏やかな日和を楽しみに来たらしい人々が、思い思いにくつろいでいる。
　そんな人々の中に混じって、紫もまたこのひと時を堪能すべく、マドレーヌに手を伸ばした。ぱくん、と齧ればほろりと軽やかに崩れる甘い生地は、とても素朴で懐かしい。
　帰るときにはお土産に、妹の好物の焼き菓子を買って帰ろう。そうしてまた近々来れた良いのだけれど――そんな風に思いながら、紫の午後は望み通り、穏やかに過ぎていく。