Good Day！！～『somnium』～｜リアクション

Good Day！！～『somnium』～

　からん、と御巫時子は『somnium』のガラス扉を押し開けた。落ち着く雰囲気と、店主夫妻の人柄が好きでよく訪れるこのお店は、時子のお気に入りの場所の1つだ。
　時子は軽く店内を見回してから、老夫婦に丁寧にお辞儀した。

「高明さん、伊都子さん。お早うございます……」
「やあ、いらっしゃい」
「今日も良いお天気ね」

　すっかり顔見知りの時子の姿に、高明さんと伊都子さんがにっこり微笑んだ。そうして、今日は新作ケーキがあるよ、とウインクする。
　わ、と時子は早速ショーケースを覗き込んだ。お店までのお散歩の道すがら、そろそろではないかと考えていたのだ。

「えぇと……それじゃ、メロンのタルトとサクランボのタルトをもらえますか……？　飲み物は、そうですね、温かい紅茶をお願い致します……」

　時子の注文を、高明さんがにっこり笑って用意してくれた。暖かな紅茶とケーキを受け取って、カフェスペースのお気に入りの場所に腰を下ろす。
　そうして銀のフォークを手にとって、タルトを一切れ、さくりと口に運んだ。ほぅ、と美味しい息を吐く。
　タルトのフルーツは新鮮で瑞々しくて、甘みと酸味のバランスが絶妙だ。そんな時子に伊都子さんが、美味しいでしょう、と嬉しそうに微笑む――伊都子さんもまた、夫の作るケーキの大ファンなのだ。
　はい、と時子ははにかみ頷いた。それからふと、この春から新たにお店に加わった、2人の孫娘の姿がないことに気がつく。

「そういえば、今日は理子さんはいらっしゃらないんですか……？」
「ええ。お友達と遊びに行っているの」

　こっくり首を傾げた時子の疑問に、ふふ、と伊都子さんが微笑んだ。そうですか、と時子もそんな伊都子さんに微笑み返す。
　今年から時子と同じ寝子高の1年生になった理子とは、校内ではまだ一度も会ったことがない。会えるのが楽しみだと、とくすぐったく考える――いつぞやに作ったヨタカさんのキャンドルは、大事に勉強机に飾ってあるというからそれもいつか見てみたい。
　そんなふうにほっこりしながら、ゆっくり、ゆっくり味わってタルトを食べ、ほっこり頬と心を綻ばせ。

「ごちそうさまでした……」

　最後の一口を食べ終えて、名残惜しくも幸せな気持ちで、時子はお行儀よく手を合わせた。そうして、今日は雑貨も見ていこうかな、とお店の奥へ足を向ける。
　並んでいる雑貨は、テイストも種類もまちまちだ。アジアンな銀の鈴のネックレスがあると思えば、ちりめん細工の人形がちょこんと並べられ、窓際にはレジンのスイーツアクセサリー。
　そういった雑貨達を、まるで挨拶するように時子は1つ、1つ見て回った。中でも和風のインテリアや、鳥をモチーフとした小物があるとつい、ゆっくりと足を止めて鑑賞する。
　そうして一通り見て回った、時子は再びショーケースの中を覗き込んだ。今夜の夕食のデザートにしようと、つやつやの美味しそうなプリンを購入する。
　プリンと、おまけの焼き菓子の入った箱を受け取って、時子は小さくはにかんだ。それから、あの、と控えめに告げる。

「また何か……教室の予定が決まったり、バイトが必要な時などは、いつでもおっしゃってくださいね……」
「ええ、ありがとう」

　時子の言葉に、伊都子さんが快く頷いた。はい、とそれに小さく力強い頷きを返す時子である――彼女はこのお店で過ごせる時間が増えることを、とても楽しみにしているのだ。
　なので、何かあれば。そう、はにかみペコリと頭を下げる。

「また来ますね……」

　そうしてプリンの入った箱を嬉しそうに抱え、時子はのんびりと帰り道を辿り始めた。やっぱり『somnium』は落ち着くと、ほっこり嬉しくなりながら。

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