Good Day！！～『somnium』～｜リアクション

Good Day！！～『somnium』～

（なんだか美味しそうな匂いがする……！）

　アリス・ミーティアは思わずピタリと足を止め、きょろ、と辺りを見回した。なんとも言えない美味しそうな匂い――果たしてこの匂いは一体どこからやって来ているのかと、匂いを辿った先に見つけたのは1軒の小洒落たお店。

「ケーキ屋さん？」

　こくり、小首を傾げて呟きながらガラス扉の向こうを透かし見る。ショーケースに並ぶ数々のスイーツは、まごうことなくケーキ屋さんだ。
　ならばちょうど3時のおやつの時間だし、入ってみようとアリスは、からん、とお店の扉を開く。途端、甘やかなお菓子の香りが鼻先をくすぐった。
　美味しそう、と思いながらショーケースの中を覗いたアリスはそこに並ぶ、数々の美味しそうなケーキに悩ましい溜息を吐く――これは選べそうにない。

「どれがおススメ？」
「そうだね――」

　もとより人見知りな方ではない。こんな時はと遠慮せずショーケースの向こうに尋ねると、尋ねられた店主の木原高明はそう、柔らかな眼差しをショーケースに落とした。
　そうして高明さんの、丁寧で愛情に満ちた説明を聞いたアリスは、その中から3つとコーヒーを注文して。イートインで頂こうと程よい席を見つけて座り、早速ケーキを口に入れて。

「……ッ」

　そのまま、無言。けれども顔いっぱいに浮かんだ幸せそうな表情を見れば、聞かずともケーキの味は窺い知れた。
　口いっぱいに広がる優しい甘さは、だが甘すぎたりはしないので食べやすく、どんどん手が動いてしまう。気付けばあっという間にケーキを全部食べてしまっていたけれども、困ったことにまだ物足りない。

（………いつも運動してるからもう一個追加しても大丈夫だよね）

　逡巡の末、アリスはそう自分に言い聞かせて、もう1つ注文することにした。そうして合計4つのケーキとコーヒーをお腹に収め、幸せな気持ちで立ち上がると今度は、店の一角にある雑貨コーナーへと足を向ける。
　まるでインテリアのように並べられた、様々な雑貨。その中にきらりと光る星のアクセサリーを見つけて、わ、と嬉しげな声を上げた。
　印象的で目を引くのに、決して主張してはいないアクセサリーは、どんな装いにも映えそうだ。

（これ、良いな）

　直感的にそう思う。お店に置かれた姿見で合わせてみたら、ほら、今着てる服にだってよく合うし。
　そんな風に考えていたら伊都子さんが、良ければ他にもお出ししましょうか、と声をかけてきた。

「幾つか作ったのがあるのよ。色々比べてみたらどうかしら」
「良いの！？」

　弾かれるように振り返り、それから『作った』という言葉にもう1度驚く。あんなに美味しいケーキが作れるだけでもすごいのに、こんなに奇麗なアクセサリーまで作れるなんて、この店の夫婦はとても手先が器用らしい。
　アクセサリーを作った事のないアリスには、それだけですごいな、と思ってしまう訳で。出してもらった幾つかのアクセサリーの中で一番気に入ったものを購入し、さっそく身に着けながら、ほぅ、と感嘆の息を吐く。
　手の中の、お土産のケーキの箱に眼差しを落とした。このお店のケーキの美味しさをBarアストラルのマスターや友達にも味わって欲しいと、持ち帰りで注文したものだ。
　その箱に書かれた店名を心に刻む。

「ソムニウム、っていうのね。うん、憶えたよ」

　そう、1つ大きく頷いて、アリスは店主夫妻に満面の笑顔を向けた。

「美味しかったよ。ありがとう！　また来るね！」
「ええ、ぜひ」

　そんなアリスの言葉に店主夫妻は、まるで孫に向けるような微笑でそう頷く。それにまた笑顔を返し、アリスはお土産のケーキを手に、シーサイドタウンを弾むように歩き始めたのだった。

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