Good Day！！～『somnium』～｜リアクション

Good Day！！～『somnium』～

　花厳望春が『somnium』を訪れたのは、久しぶりのことだった。

（紙ねんどスイーツのヘアピンってあるかな？）

　以前、怪我をした伊都子さんを手伝った折に、小さなクッキーやドーナツのスイーツヘアピンを作ってみたら面白いのではないかと、提案した望春である。それを思い出して、そうだヘアピンを探しに行こう、と『somnium』を訪れたのだ。
　幾度か訪れたことのある望春をちゃぁんと覚えていてくれた老夫妻に、お久しぶりですと挨拶すると、伊都子さんが嬉しそうに雑貨コーナーに手招いた。

「以前、スイーツのヘアピンがあれば……て言ってたでしょう？　あれから幾つか作ってみたのよ、どうかしら？」
「へー！　あ、やっぱり可愛いですね！　紙ねんどと――これはレジン、とビーズかな？」
「そうなの。紙ねんどが可愛らしいから、他の素材でも作って見たらどうかしら、って」

　ふふふ、と嬉しそうに笑ってヘアピンやネックレス、ピアスなどを見せてくれる伊都子さんである。――すっかりハマったらしい。
　良いですね、と望春は伊都子さんににっこりした。そうして当初の予定通り、紙ねんどのヘアピンを幾つか購入する。
　クッキーやドーナツ、マカロンにキャンディといったモチーフのヘアピンは、大きさや色合いによって甘くも大人めいても見えた。帰ってさっそくつけてみようかな、と考えて、でもせっかく来たんだからとカフェスペースでお茶もしていくことにする。

「えーっと、チーズケーキとホットの紅茶をお願いします」

　ショーケースの中を覗いて注文し、カフェスペースでぐるりと辺りを見回して、空いている席を探す。今日は良いお天気だからだろうか、客席はそれなりに埋まっていて、中には顔見知りも幾人かいた。
　やあ、とそんな面々に声をかけながら程よい空席を見つけて腰掛けた望春は、早速チーズケーキを一口ぱくんと頬張って。
　ほぅ、と感嘆の息をもらす。

（久々にここのスイーツを食べたけど、やっぱり美味しい！）

　うあぁぁぁ、と身悶えた。自身でもお菓子作りを嗜んでいるけれど、どうにも、自分の作るお菓子はこのお店のお菓子に比べて、何かが足りていない気がするのだ。
　『somnium』のスイーツは家庭でも作れるそうな、素朴な味のものも多い。だが高明さんが作ったものは、それに加えて優しさと、なんとも言えない満足感があったりして。
　何が違うのかな、と思う。材料はそこまで大きく違うと思えないし、何かコツでもあるのだろうか。
　うーん、と一口ずつ味わいながら考えて望春は、思い切って高明さんに直接聞いてみることにした。

「――というわけで。何か、アドバイスとかもらえたら嬉しいな、って思って……」

　チーズケーキセットを食べ終わり、食器を返しがてら悩みを打ち明けてみると、高明さんはふむ、と考えるそぶりを見せた。そうだね、と言葉を選ぶように音を紡ぐ。

「僕は正式に製菓を学んだとは言い難いから、専門の学校で学ぶのが一番とは思うけれど――」
「あ、えぇと。別にお菓子作りのプロになりたいわけじゃないけど、食べた人全員が嬉しい気持ちになれるような、そんなお菓子を作れたらいいなって思うんです」
「あぁ――それは素敵だね」

　僕と同じだ、と高明さんは茶目っ気たっぷりに望春にウィンクして見せた。そうして、良かったら今度食べさせてくれるかな、と微笑む。
　そんな高明さんに、はい、と望春は大きく頷いた。何なら、こちらからお願いしたいと思っていたところである。

（よし、頑張ってみよう！）

　高明さんの申し出は、だから願ったり叶ったり。ゆえにどんなお菓子を作ってこようかと、望春はわくわく考え始めたのだった。