つつもすすはらいて｜リアクション

つつもすすはらいて

　やはりそれでいいのだ。晴海飛鳥は確信する。
「今だよ！　忌竹を！　君たちもこっち来て！」
神無月ひふみに呼びかける。同じく竹を持っている、刻人・F・ミセリアと綾辻綾花を手招いた。
「ど、どう使おうこれ？」
「今何本ある？」
「えっと、飛鳥さんのところのが三本……」
「私たちも三本です」
と、綾花が答える。
「分かった！　じゃあ四隅に一本立てて！　残りでつつもを払って！」
「ど、どうすれば？」
「はたきがけみたいに払うんだよ！　ぱたぱたするの！　急いで！　動けるみんな、つつもを抑えて！」
飛鳥は二本の竹を持って走り出した。
「ひーちゃん！　信じてるよ。任せたからね！」
ひふみの手に残る竹は、つつもを払う、つまりは祓うためのものだ。きっと口を引き結び、身の丈よりはるかに長い忌竹を手になぎなたのような構えをし、ひふみは最後の戦いに挑んだ。

　敷地の隅を目指して走る飛鳥の横に、新井すばるが併走する。
「ボクが護衛するよ！　任せて！」
「ありがたいね！　僕は忌竹の設置に集中しちゃうからろっこんは使えない。頼んだよ！」
そう言いながら、飛鳥は色のあせた老竹を柔らかい土に突き立てる。別方向へ向かう綾辻綾花には来たときと同じく刻人・F・ミセリアが『同行』していた。
「すみません、ミセリアさん。ありがとうございます」
「いいんだよ。僕じゃ戦えないし……せめて役に立ちたいからね」
綾花の代わりに忌竹を担ぎ、足を速める。
（それに、これぐらい離れていないと危なくてゆっくり観察もできないからね。さて、あの悪霊か、妖怪か。いまさら祓ってもらっても、穏やかになるとは思えないけどね）
刻人は追い詰められつつある妖怪つつもを見て、ふっと不穏な表情を作った。

　楪櫻の一撃は功を奏した。本当に偶然ではあったが、頭の櫛がもみ合う最中に外れかける。もしやと思って引きぬくと、志波武道はがっくりとその場に崩れ落ちた。
「はぁ、はぁ……そういうこと、だったのか……」
それを見るとつつもは自分の黒髪に二つ残った櫛のうち、小さな方を抜き取ると、櫻に目掛けて投げつけた。その櫛の先を鞭のように伸びる黒髪が追い、しっかりとつかむ。操りの櫛が櫻にもう少しで届こうかと言うところで、櫛は一瞬で燃え尽きた。
「なに！」
「……ちっ。あの時気づいておけば、俺一人でやれたかもしれねぇのに」
森の陰から、一人の男が姿を現す。長身にパーカーとジーンズの姿、仮面に隠され素顔は見えない。その右てのひらからは、ごうごうと燃え盛る炎が立ち上っていた。
「何者だ、貴様！　よくも、よくも私の姉妹を！」
「へっ。『仮面の始末人』とでも呼びな」
仮面の始末人――灯斗南は、炎をかざしながらつつもに近づく。髪が幾筋も延びて斗南を襲うが、すべて体に届く前に焼き尽くされてしまった。髪の焦げる臭いがあたりに立ち込める。光と熱を恐れるように、つつもは初めて一歩後じさった。
「お前はもう裁かれる側ですらない。人に害を為すただの怪異だ。ただ、灰すら残さず焼きつくすのみ」
斗南は宣戦布告する。
傍らの維都月茉菜に駆け寄り、
「あいつの攻撃パターンを教えてくれ」
と尋ねる。
「髪で攻撃してくるわ。それと、櫛で人を操ってる」
「サンキュー。なら、跡形もなく焼いてやる！」
櫻は茉菜をちらりと見て、不思議に思った。彼女はいつの間にこの場に来ていたのだろう？　おっとりとした様子の茉菜は何か重そうなものが入った袋を携えていた。