幼子の呼び声｜リアクション

幼子の呼び声

　木の下にやってきた旅鴉月詠は、冷静に事態を分析していた。
　夢とは記憶の整理である。
　意識している記憶は一部だが、日常生活で見ているものほぼ全てを無意識のうちに憶えているものである。
　そして夢を見ることで記憶を整理しているわけだが、そこから今後の状況をシミュレート：予測する事がある。
　無意識からの予測だからそれは自分で考える予想よりも当たる確率は高い。
　これが的中したものが正夢であり、それを回避しようとしたものが逆夢である。
「それは置いといて、夢を見せて伝えている可能性は極めて高いとみる。
　・赤い羽根＝怪我をしている
　・雪＝寒い＝体温が下がってきている＝死にかけている
　樹の上にある巣。それが発信源だろう。
　速やかに保護する必要がある」

　桜井ラッセルが、息を切らせてやってきた。
「鳥が怪我してるって聞いたけど、どこだ！？」
　ラッセルが見たねこったーには、
『血の付いた羽根？　なるほど！　つまり神だけではなく天使まで地上に降りてきたんだ！　そして怪我をしている！』
　などと書き込まれ斜め上に盛り上がっていた。仄の仕業である。
　首をひねりつつ、仄や他の人に聞いてここを知ったラッセルである。
　みんなに現状を聞き、血塗れの羽を見て顔をしかめた。
「襲われたのか……？　って、直接はまだみてねーの……？　上か」
　そこへ梯子を持った轟、真央、時子、救急箱を持った修が到着する。
　
「OK、んじゃちょっくら行ってきます！　様子見て、いけたら話聞いてくるから下でキャッチとか手当ての方たのむわ。
　下手に人間が登るよか、安心してくれると思うし会話できるかも」
「あ、でも……無理そうなら選手交代な？」
　たまにカッとなるから、と時子に目配せして笑う。
　そしてろっこんでカナリアに変身し、ゆっくり刺激しないように飛び上がっていく。
「キャッチって……できるのかよ？　まもるもいないし」
　優がつぶやく。
「あの子に元気になって欲しいし、笑ってる顔が見たいから母親早く見つける。
　母親が死んでるとかいうオチはなしな！」
　檸檬が自分に言い聞かせるように言う。
「私、登ってみます……」
　時子が拳を握りしめた。
「真央ちゃんも登るのだ！」
　言うより早く、真央は梯子をよじ上っていった。
　慌てて轟が梯子を押さえる。
「大丈夫か？　気をつけろよ～！」
　

　一方アリーセは、三階の窓から双眼鏡で巣を覗いていた。
「……あら？」
　鳥の姿がない。
　巣の中には、卵らしきものが見えるが……
「どういうことなの……まさか、もう落ちて？」
　胸騒ぎに双眼鏡を下に向けたとき、白い何かが目に入る。
「あれは……！」

　巣を覗いた大鷹のリンは、零の元に戻ってきた。
「どうだったのじゃ？」
　尋ねる零に、首を曲げるリン。
「ケガをしている鳥はいない、と言ってます」
　時子がろっこんの力で通訳する。
「何？　手負いの鳥はいなかったのかう？」
「親鳥はいない、ただ……」
「親鳥はいない？　つまり……」

「見つけたわ！　ケガをしてる鳥！」
　そのとき、アリーセが叫びながら駆けてきた。

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