魔女の噛み痕　マリーの帰郷｜リアクション

魔女の噛み痕　マリーの帰郷

　……そして。

「っは！？」
　汗にまみれ、ずしりと重い疲労に苛まれながら、高杉かようは目を開いた。
　カーテンの向こうから、朝の光が差し込んでいる。そこが桜花寮の自室であると気づいたのは、しばらくぼんやりと微睡んだ後のことだ。
「試合終了、ってか」
　視線を巡らせると、同室の響蒼留人がまだ寝息を立てていた。彼もまた額に汗粒を浮かべてはいるが、うなされてはいない。
　どちらも、五体満足のようだ。
　多重を成す悪夢は終わりを告げた。彼らはようやくにして、現実への覚醒を果たしたのだ。
「っと、まずいな。完全に寝坊だ、朝練が始まっちまうぜ」
「……ん。高杉、もう出るのか」
「おう響、おはようさん。悪いが先に、……行く……」
　振り返り、かようはぴたりと動きを止めた。
「ああ、俺もすぐ行くよ。また後でな」
　まだ暗い部屋の中で身を起こし、かようを見送る蒼留人の薄っすらと開かれた瞳は、青い色をしていた。

＜魔女の噛み痕　おわり。＞

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あとがき

担当マスター：墨谷幽
ファンレターはマスターページから！

　墨谷幽です。『魔女の噛み痕』シリーズ、完結編をお届けいたします～。

　時折、空想することがありまして。
　人間は夢を『見る』のではなく、夢と『繋がっている』のではないでしょうか？
　まるで夢を見ない、という人はあまり多くないことでしょう。人が眠る時、全ての人が、一つの大きな夢……たとえば夢境とか夢想域とでも呼ぶべき、そんな領域に接続されているのだとしたら？
　夢は現実ではありませんから、想像力は無限大です。夢境では翼を生やして飛ぶこともできるし、憧れのアイドルとデートをすることもできれば、この世のものではない奇怪な怪物に襲われたり、撃たれて死んでしまうなんてこともあります。
　顔見知り同士は相互に夢境のなかで出会いやすく、起きてから『今日は君のことを夢に見たよ』と語ります。
　そう、人は夢のなかで体験した出来事を、現実に持ち越すことができません。すっかり忘れてしまったり、そこで得た知識を取りこぼしてしまったりします。
　けれど時折、夢に見たアイディアを現実で形にして発明家になったり、夢での体験を綴ってベストセラー作家になったりする人がいたりします。予知夢を見て大金持ちになったと語る人がいたりもします。
　夢境には、これまで人類の得てきたあらゆる知識と記憶が蓄積されています。それらを体験し、夢から上手に持ち帰ることのできた人があるいは、天才とか偉大な成功者とか呼ばれることになるのかもしれません。

　……とかなんとかいう妄想が、つまりはこのシナリオの発端でありました。
　われながらヘンなお話ではありましたけれど、楽しんでいただけておりましたら幸いです～。

　ちなみに一連のシナリオで、夢のなかで体験した出来事は、ＰＣさん的に覚えていても覚えていなくても構いません。
　物品はいずれも持ち帰ることができませんが、記憶や痛みは残っているかもしれません。すっぱり忘れて、寝子島での変わらない生活に戻っていったかもしれません。
　夢の受け止め方は、皆さん次第というわけなのです。

　それでは、今回のシナリオも、ご参加いただきましてありがとうございました！
　また次の機会にお目にかかれますことを、心よりお待ちしております。
　お疲れさまでした～！

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