- 0
- 0
- 種族
-
- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
五月病は恋の始まり
北風貴子とならんで歩いていたら、猫背気味だった伊賀解理の背中はしゃんとなり、目にも生気が戻った……が、その効果は続かなかった。
めざすスーパーマーケットが見えてきたころには、すっかりゾンビ解理が戻っている。視線は足元、口からは溜息だ。
「どうかした？」
「貴子さん。どうやら僕はアレになってしまったようです……五月病ってやつに」
なるほど、と貴子は解理に先を促した。
「いやぁ、予想以上に倦怠感が半端ではないです。貴子さんニウムを摂れてなければ確実に重力に負けてましたね」
「私を新種の化学物質みたいに言わないでよね、と言いたいところだけど、多少でもお役に立てたようでなにより」
貴子はレジカゴを取った。解理もそうする。自動ドアをくぐる。
スーパー特有の無害この上ないBGMを聞きながら、貴子は入り口そばのブロッコリーを取って品定めしている。
「この時期、そうなってしまうのは自然なことよ。いずれ治るわ」
「そうですか……それにしても、貴子さんは五月病にならなそうですよねえ」
「そう？」
「いつだったか、アレなシャツとジャージという格好を見た身としては、もしやワンチャンあるかもとは思っておるのですが」
目を閉じさえすれば解理はいつでも思い出せる、あの光景を。
「ワンチャンて」
貴子は苦笑いした。
「ところで、私もなってるから。五月病」
「まさか！」
思わず解理は高い声を上げてしまい、ぎょっとした店員の視線を浴びてしまった。なんでもないです、とバタバタと手を振りごまかす。
「伊賀さんは私をいつもスーパーウーマンみたいに言ってくれるけど、私もこのところエネルギー切れ気味でね……今朝だって九時には目が覚めたんだけど、結局昼前まで布団から出なかった」
「ジャージ姿で！？」
「まあ、そうだったと思う」
「ジャージの下はダサいTシャツで！？」
「そうよ。コンビニのキャンペーンでもらった『覆面バイカー』かなにかのよ」
「意外ですねえ」
と解理は、貴子のマネをしてニンジンを手にしながら言う。
「貴子さんは大学生になったばかり、キャンパスライフを満喫してるだろうからそういうのとは無縁なんじゃあないか、と思ってました」
「先月は慣れないことばかりで目まぐるしく、月後半にようやくペースは安定したけど、連休で全部リセットされちゃった気分……ちょっと疲れたな、というのが今の状態」
ブロッコリーを選び終わると、貴子は解理の手からニンジンを受け取り自分のカゴに入れた。
「そんな風に見えませんよう」
「家から出ずに一日過ごそうかとも思ったけど、さすがに冷蔵庫ほぼゼロだったから、こうして出てきたというのが真相よ」
かつかつと歩きながらタマネギのネットを取り、貴子はもう精肉コーナーに踏み出している。
「でもでも、今だってそんなに颯爽としているのに」
「気付きなさいよね」
気恥ずかしそうに、貴子は前髪を直した。
「私が伊賀さんの前でイイカッコしようとして結果、元気になってるだけってことに」
ええっ、と立ち尽くす解理に視線を合わせず、ぽつんと貴子は付け加えたのである。
「私もあれね、『伊賀さんチウム』だかなんだかを摂取して元気が出たみたい。ありがと」
とちらりと笑みを見せると、さっと鶏胸肉200グラムをカゴに入れ、貴子は次の売り場へと向かうのだった。
チクショー！ かわいいなあ！ すごいなあ！
解理は悶えてしまう。大人っぽさをただよわせ登場しておきながら弱みも見せ、最後にあのキュートさだ。貴子さんの域に自分が到達できるのはいつになるだろうか、と解理は思い、そんな日は来ない気がしてまた悶えた。
「あ、待って下さいよう」
小走りで貴子を追いかける。
「そ、そうだ！ 最近ワカメ先輩が『五月は恋の季節！』とか歌っているのを耳にしたんですが、まさか貴子さんにも春とか来てませんよね！？」
いつの間にか解理の五月病もどこかへ吹き飛んだようである。
「なによ突然？」
「貴子さん美人だし、僕だって男だったら多分おそらく放っておかなかったと思うし！」
「えーと、それはどうもありがとう」
「でも、そんな貴子さんに目をつけたキャンパスファッキンガイがいたっておかしくない、と僕は心配です！ 貴子さん！ 男選びは慎重にですよ！？ 具体的にはチャラ男はＮＧです！」
チャラ男？ ありえないでしょ！ というリプライを解理は期待していたのだが、違った。
「さて、どうかしらね？」
などと謎めいた笑みだけを残し、貴子は牛乳を買うためその場を、蝶のごとく去ったのである。
チクショー！ あれが大人の余裕かっ！
今度こっそり大学に見に行ってやろうかか、などと解理は考える。
五月病の気分なども、もう思いだすことすらない。
めざすスーパーマーケットが見えてきたころには、すっかりゾンビ解理が戻っている。視線は足元、口からは溜息だ。
「どうかした？」
「貴子さん。どうやら僕はアレになってしまったようです……五月病ってやつに」
なるほど、と貴子は解理に先を促した。
「いやぁ、予想以上に倦怠感が半端ではないです。貴子さんニウムを摂れてなければ確実に重力に負けてましたね」
「私を新種の化学物質みたいに言わないでよね、と言いたいところだけど、多少でもお役に立てたようでなにより」
貴子はレジカゴを取った。解理もそうする。自動ドアをくぐる。
スーパー特有の無害この上ないBGMを聞きながら、貴子は入り口そばのブロッコリーを取って品定めしている。
「この時期、そうなってしまうのは自然なことよ。いずれ治るわ」
「そうですか……それにしても、貴子さんは五月病にならなそうですよねえ」
「そう？」
「いつだったか、アレなシャツとジャージという格好を見た身としては、もしやワンチャンあるかもとは思っておるのですが」
目を閉じさえすれば解理はいつでも思い出せる、あの光景を。
「ワンチャンて」
貴子は苦笑いした。
「ところで、私もなってるから。五月病」
「まさか！」
思わず解理は高い声を上げてしまい、ぎょっとした店員の視線を浴びてしまった。なんでもないです、とバタバタと手を振りごまかす。
「伊賀さんは私をいつもスーパーウーマンみたいに言ってくれるけど、私もこのところエネルギー切れ気味でね……今朝だって九時には目が覚めたんだけど、結局昼前まで布団から出なかった」
「ジャージ姿で！？」
「まあ、そうだったと思う」
「ジャージの下はダサいTシャツで！？」
「そうよ。コンビニのキャンペーンでもらった『覆面バイカー』かなにかのよ」
「意外ですねえ」
と解理は、貴子のマネをしてニンジンを手にしながら言う。
「貴子さんは大学生になったばかり、キャンパスライフを満喫してるだろうからそういうのとは無縁なんじゃあないか、と思ってました」
「先月は慣れないことばかりで目まぐるしく、月後半にようやくペースは安定したけど、連休で全部リセットされちゃった気分……ちょっと疲れたな、というのが今の状態」
ブロッコリーを選び終わると、貴子は解理の手からニンジンを受け取り自分のカゴに入れた。
「そんな風に見えませんよう」
「家から出ずに一日過ごそうかとも思ったけど、さすがに冷蔵庫ほぼゼロだったから、こうして出てきたというのが真相よ」
かつかつと歩きながらタマネギのネットを取り、貴子はもう精肉コーナーに踏み出している。
「でもでも、今だってそんなに颯爽としているのに」
「気付きなさいよね」
気恥ずかしそうに、貴子は前髪を直した。
「私が伊賀さんの前でイイカッコしようとして結果、元気になってるだけってことに」
ええっ、と立ち尽くす解理に視線を合わせず、ぽつんと貴子は付け加えたのである。
「私もあれね、『伊賀さんチウム』だかなんだかを摂取して元気が出たみたい。ありがと」
とちらりと笑みを見せると、さっと鶏胸肉200グラムをカゴに入れ、貴子は次の売り場へと向かうのだった。
チクショー！ かわいいなあ！ すごいなあ！
解理は悶えてしまう。大人っぽさをただよわせ登場しておきながら弱みも見せ、最後にあのキュートさだ。貴子さんの域に自分が到達できるのはいつになるだろうか、と解理は思い、そんな日は来ない気がしてまた悶えた。
「あ、待って下さいよう」
小走りで貴子を追いかける。
「そ、そうだ！ 最近ワカメ先輩が『五月は恋の季節！』とか歌っているのを耳にしたんですが、まさか貴子さんにも春とか来てませんよね！？」
いつの間にか解理の五月病もどこかへ吹き飛んだようである。
「なによ突然？」
「貴子さん美人だし、僕だって男だったら多分おそらく放っておかなかったと思うし！」
「えーと、それはどうもありがとう」
「でも、そんな貴子さんに目をつけたキャンパスファッキンガイがいたっておかしくない、と僕は心配です！ 貴子さん！ 男選びは慎重にですよ！？ 具体的にはチャラ男はＮＧです！」
チャラ男？ ありえないでしょ！ というリプライを解理は期待していたのだが、違った。
「さて、どうかしらね？」
などと謎めいた笑みだけを残し、貴子は牛乳を買うためその場を、蝶のごとく去ったのである。
チクショー！ あれが大人の余裕かっ！
今度こっそり大学に見に行ってやろうかか、などと解理は考える。
五月病の気分なども、もう思いだすことすらない。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2018年02月18日
- 参加申し込みの期限
-
- 2018年02月25日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2018年02月25日 11時00分
