春は出会いと別れの季節と申します。
三月が受け持つのは『別れ』です。卒業、引っ越し、さようなら。また会うその日までお元気で。
四月が担当するのは『出会い』となるでしょう。入学、進級、新赴任、やあはじめまして、どうぞよろしくお願いします。
さてそうすると五月は? 五月だって、春ですよね。
……なんとも損な役回り、五月に連想されるのは出会いでも別れでもなくて、『五月病』だったりするのです。
それも、ゴールデンウィークが終わったあとのこの時期は、特に。
◇ ◇ ◇
寝子島高校。
あ、と小さく声を上げ、
市橋 誉は来た道を戻りかけた。
なんだかまっすぐに帰る気になれなくて、ふと立ち寄った放課後の屋上、フェンスにもたれ夕方の空でも眺めて、気が向けば即興演奏のひとつでもしようかと思い立ち寄ったその場所で、見てはいけないものを見たような気がしたのだ。
彼は下を向いていたのだけれど、特徴的なもっさりした頭を上げ、誉の背中に声をかけた。
「市橋くんじゃあないか」
奇遇だね、と
鷹取 洋二は口元にうっすらと笑みを浮かべた。
「察するに市橋くんは、胸の奥にたぎる青春のパッションを、詩なり楽器の音色なりに昇華させるべくここを訪れたといったところかな……?」
洋二らしい言い回しだが口調に勢いがない気がする。
――なんだか鷹取先輩が、『鷹取先輩』というキャラを演じているような。
誉はそんなことを思った。
「いや、そんなのじゃないです」
と返す語尾にデクレッシェンドがかかる。
「なんとなく、気が晴れなくて」
「奇遇だね」
すると洋二はほっとしたかのように、深く溜息をついたのだった。
「僕もなんだよ。なんていうか……アンニュイな感じさ」
「アンニュイ、ですか」
「うん……要は、ちょっとやる気が出なくてね」
カシャンと音を立て洋二はフェンスに背を預けた。唇は変わらず笑んでいるのに眼差しは沈んでいて、ちょっとしたきっかけでもあれば、涙をこぼすのではないかとすら見えた。
いつも超マイペースで楽しげな先輩、そんな印象が洋二にはあったのだが、今日はなんだか様子が違うようだ。
「三月に海原先輩たちが卒業してしまっただろう? 息つく暇もなく僕も最終学年になって、新入生もどっさり入って、バタバタゴチョゴチョで賑やかで……それが一段落した今は急に、胸にぽっかり穴が開いてしまったような気がしているのさ」
ハハ、と洋二は笑い声を立てたのだが、ひどく空虚に響いた。
「なんて、僕らしくないかい?」
「そんなこと、ないですよ」
思わず誉は声に力を込めていた。
「俺だって、なんていうかこのところ、それなりに充実しているのだけど……」
「空しい?」
「そう……かもしれません」
そうなのかい!? 洋二は突然、ひょいとフェンスから身を起こした。
「ならその心の空虚を埋めないとね! たとえば……
恋とかで!」
「
は?」
ドウシテソウナル?
発想のトップアスリート級の飛躍に、誉はついていくことができない。
「おー! 単なる思いつきだけど良いこと言ってる気がしてきた! そうだ! 三月は別れ! 四月は出会い!
そして五月は恋! これだよ!」
さっきまでの倦怠あるいは愁いはどこへやら、洋二は起死回生のハツラツフェイスへと変貌する。
「僕はいまから、五月の恋を応援するBGMを作曲しよう!」
ベートーベン風のワカメ頭を振り振りしながら、彼は屋上から飛び出すや階段を一段飛ばしで駆け下りてゆく。
「サンキュー! 市橋くん! おかげで着想が湧いてきた!」
そんな台詞だけ後に残して。
やっぱり鷹取先輩は鷹取先輩だ、と誉は肩をすくめた。
けれど『らしい』ほうがいい。
それにしても。
「……恋、か」
もしかしたら洋二はああ見えて、誉の心を見透かしていたのかもしれない。
彼女のことを考えていてつい、誉は屋上にたどり着いていたのだから。
◇ ◇ ◇
あなたの五月はどんな五月だろうか。
五月病まっさかり、まさしく暗中模索の五月でも、
逆にそんなものまるきり無縁、恋ばかりの五月でも、
両者のミックスでも、
そのどちらとも無関係の、うららかな五月でも、いい。
はじめまして、あるいは、お久しぶりです。マスターの桂木京介です。
シナリオ概要
五月のある一日を描く日常系シナリオにしたいと思います。
表題の『五月病』『恋の始まり』は単なるイメージです。アクションが思いつかない人はヒントにしてみて下さいね、という程度のものにすぎません。
ですので鍛錬鍛錬のストイックな一日でも、バイトバイトの労働日でも構いません。友達と遊びまくる春の日でも大丈夫! それどころか逆に、始まりどころか恋の終わりであってもまったく問題はないのです。どうぞ、あなたのキャラクターにさせたいことを、自由に書いてくださいませ。
描写する場面について
五月中旬のある一日から、一場面を切り取って描写します。
平日でも休日でも大丈夫です。時間帯も、特に指定はありません。
NPCについて
基本、制限なしとします。ですが相手あってのことなので、必ず希望のNPCに会えるとは限りませんのでご了承下さい。
といっても登場させる努力はします……どうしても難しければ、伝家の宝刀『夢オチ』が繰り出されるかもしれませんが、努力はしますです、はい。
以下のキャラであれば、指定すれば100%遭遇できます。
●鷹取 洋二
この場面の直後、放課後のヴァイオリン弾きと化し、寝子島高校内を徘徊して思いつくフレーズを奏でまくります。……うん、不審者ですね。
●野々 ののこ
ある休日。彼女にしては大変珍しいことに、「ちょっと疲れちゃって……」とゆっくりすぎる朝寝をしたのち、さすがに空腹になったのでジャージ姿&つっかけ履きで、のそのそと外出しはじめました。
●長田 孝明
色々と事件を乗り越えたのち中学一年生として、ようやく新しい環境に慣れてきた様子の彼ですが、ここ数日なにやら元気がありません。もともと目立たない性格だったとはいえ、最近は特に、漫然と日々を過ごしているように見えます。
●恋々(レンレン)(未登録NPC)
中国出身。ナイトクラブ『プロムナード』で働いています。基本明るい人ですが、今月に入って、仕事を辞めようかと悩んでいるようです。人見知りしない性格なので、初対面の人でも親しく接します。
以下のキャラは、どうやっても登場しません。(ともに未登録NPC)
●アルチュール・ダンボー、ドクター香川
途絶えておりますが、『FEAR THE FORCE』というシリーズシナリオのキャラクターです。
※NPCとアクションを絡めたい場合、そのNPCとはどういう関係なのか(初対面、親しい友達、ライバル同士、等。参考シナリオがある場合はページ数まで案内して頂けると大変助かります)を書いておいていただけないでしょうか。
また、必ずご希望通りの展開になるとは限りません。ご了承下さい
それでは、あなたのご参加を楽しみにお待ちしております。
次はリアクションで会いましょう! 桂木京介でした!