ジャガイモ畑でつかまえて（精神）｜リアクション

ジャガイモ畑でつかまえて（精神）

　その間。後からやって来た伸幸に、親友の天野が麦茶のグラスを傾けながら、顛末を話して聞かせる。
「ふんふん、家出する理由もちゃんとあるのねぇ。けど」
　伸幸は膝を折り、そふとと目線を合わせて、首を傾げる。
「やあ、おじーさんに居る場所、言わなくて大丈夫？」
「え。だって、俺……家出して来たのに」
「うん、そうだよねぇ。そりゃあ、おじーさんも怒ってるかもしれないけれど、それ以上に」
　伸幸は、ただゆったりと言葉を紡ぐ。
「心配してると思うんだけどなぁ」
「そうだな。少なくとも保護者に、無事は伝えた方がいい」
　修も同意した。
「もし、そふとくんがすこーしでも思うところがあったら、自宅に一報入れるのも手だと思うんだよねぇ」
　へにゃりと笑って、伸幸はそふとの頭を撫でる。
「あの……婆ちゃんでも、いいかなぁ？」
　問えば頷いたので、携帯を修に借り、そふとは祖母とコンタクトを取った。
　そふとは同じ家族でも、祖母には素直で、少し甘えるような素振りも見せる。

「話が済んだら、一回俺と代わってもらっていいか？」
「――はい、もう大丈夫です。どうぞ」
　携帯を受け取れば、元気のいい年配女性の声。
『すみませんねぇ、うちの子がご迷惑お掛けしてます』
「いえ、たくさんジャガイモを頂いたみたいで。皆、むしろ喜んでますよ」
『それなら良かった。美味しいでしょう？　たーんと召し上がってくださいな』
「お婆さん。お爺さんは、今？」
『ああ、倉庫でジャガイモの選別してますよ』
「そうですか。あの、明日なんですが、そちらに伺ってもよろしいでしょうか？」
『ええ、どうぞどうぞ。へんくつジジイに、がつんと何か言ってやってくださいな』
「ありがとうございます。じゃあ、明日改めて」

「良かったぁ」
　電話でのやり取りを見守っていた伸幸が、頬杖をついた。
「言われた事よりやりたい事があって、それを優先する事自体は、悪い事だとは思わないのよねぇ。俺」
　そこは、個人だしー。伸幸もジャガイモを一つ、ぱくりと口にする。
　ほっこりと、優しい味がして。大事に育てられたのだなと、思わせた。
「けれどほら、心配かけてるなーって思うとー……何だか自分がもやっとするしねぇ？」

「コンバンワー！　皆いるぅー？」
　外から元気な声が響き渡った。
　大八車引っ張ってやって来たのは、自身も祖父と共に納農園を切り盛りしている、納十一である。
　同じクラスの空音が、真っ先に反応した。
「十一くんだー、どうしたの？　野菜もそんなに一杯」
「よー、空音～！　耕作さんに話聞いてさ、そふとここに来てるよね？　ちょっと邪魔するよー」
　どっこいせと、十一は大八車を下ろす。
「農園の野菜持ってきてみた！　ブロッコリーに人参にカブ！　春カブは旬だからやわらかくておいしいよ！
　他にも色々！　大きな鍋とか、器具も持ってきてみた！」
「ほほう、ブロッコリー……これも故郷では、よく食べたものだ」
　解理が早速、品定めに入る。
「お、いいとこ来たな。今、チーズじゃがが完成したとこだ。食ってけよ、黒胡椒利いてて、んめーぞ」
　望月がチーズが、かりっとするまで焼いたチーズじゃがの皿を、テーブルに並べた。
「シチューも完成したよー」
「おまっとうさんー」
　荒太郎がシチューの鍋を運び、かなえがこれまた様々なデザインの皿に、盛り付ける。
「うまそー！　テンション上がってきたー」
　叫ぶ十一を、修がすみっこに、ないないした。
「芋に芽が生えて食中毒でも出たら、また不祥事になって、猫鳴館の存続危うくなるからな？
　ちょっと落ち着いて、大人しくしような？」
　修は星ヶ丘の寮生だが、猫鳴館の自治会長戦にも関わり、親和的だ。
　変に歪んだ噂が立つと、それこそ猫鳴寮廃止派にネタとして使われかねないという懸念で、やって来たのだ。