摩訶不思議、寝子高龍！｜リアクション

摩訶不思議、寝子高龍！

●愛でろ！　黒白の子猫珠

　さて、体育館はどうなっているかというと。
　黒と白の子猫珠が合体し、陰陽ちゃんとなって子猫を産みまくったおかげで、体育館は、あちらもこちらもにゃーにゃなーなー騒がしい。その中で、恵御納夏朝がメロメロ顔で子猫たちと戯れている。
「うわあああ……！　よじ登る子、すりすりする子、にくきゅうでぷにぷにする子、可愛く鳴く子……どの子も可愛い癒される……！」
　遠野まほろもそっと子猫を手で掬い上げ、とろけるような顔。
「本当だね……ここは天国なのかな……」
　小犬丸信乃も頬を染め、息を荒くして大興奮だ。
「うおお！　触れても猫ぱんちもされぬっ！　どころかすり寄って……！」
「これは！　シャッターチャンス！！　ああ、ムービーにも残さなきゃ！　信乃さ～ん、こっち向いて～！」
　鴉取荘助はスマホを構え、別な意味で大興奮である。
　連写音がすごい。
「信乃さ～ん、子猫と一緒ににゃーっていってみてください」
「荘助、お前もこの可愛さを残したいのか！　わかるぞ」
　信乃は超勘違いな納得をし、白い子猫ちゃんを抱き上げると、片手をくいっと持ち上げた。
「さあ子猫殿のかわいさ、しかとおさめるのだ！　ほら、子猫殿。にゃー！」
「ああっ、いいです！　その笑顔最高です、信乃さん！！！」
　今度は連写音はしない。ムービーで録画しているようだ。
「はぁぁあかわいいなぁ～～～、最高の光景だ」
　そのとき、夏朝がはっとした。
　いつのまにか子猫の雨がやんでいる。ぐるぐる回っていた陰陽ちゃんもいない。
「あ、しまった……黒白さん達見失った！」
「つい子猫に気をとられちゃったね……」
　まほろもきょろきょろするが、何しろ生まれた子猫たちはみんな黒か白か灰色で、漠然としたモノトーンの集合体に見えてしまう。どうも、白ちゃんと黒ちゃんは、そのなかに紛れてしまったらしい。
「うう～ん、どこだろ……」
　夏朝が寄り目になって目を凝らすと、――いた！　白ちゃんが、白い子猫たちの中に埋もれている！
「今度は失敗しないように……」
　虫取り網を構えて白ちゃんの背後から近づき、振るう。……と見せかけて、それは囮！
　網から逃れようとジャンプした白ちゃんを、夏朝は隠し持っていた洗濯用ネットで捕獲した！
「ごめんね……！」

　一方まほろは、黒い子猫たちにふみふみされている黒ちゃんを見つけた。
「かわいい……ずっと見ていたい……！」
　メロメロと心が蕩けそうになるが、はっとして首を振り、やらなきゃいけないことを思い出す。
「ただ近づいたんじゃ逃げられちゃうよね……それに、敵じゃないって、わかってほしいし……」
　まほろ自身も、よじ登ってくる子猫で猫まみれになりながら、ぬいぐるみのスプーンを抱きしめて＜きみのみかた＞を発動する。まほろのこのろっこんは、動物に対して自分は安全であるとしめすことができたり、安心感を与えたりすることができるもの。害はない。
「おいで……？　スプーンも大丈夫だよって言ってるよ……？」
　ぴくっ、と黒ちゃんの耳が動いた。
　ぴくぴくっと周りにいた子猫たちの耳も動いた。
「あ、あれ……わああっ！」
　白と黒と灰色が、波になって動く。次の瞬間、まほろはにゃにゃにゃーんと突進してきた子猫の群れに押し倒された。周りにいた子猫たちが次から次からまほろの上に乗っかってきて、まほろの姿が見えなくなる。
「遠野さんっ！？」
　夏朝が慌てて子猫をかき分ける。群れた子猫たちの中からまほろの顔が現れる。
「大丈夫？」
　するとまほろはほんのり笑った。
「ありがとう。見て、夏朝ちゃん……つかまえたよ……？」
　夏朝がまほろを抱き起してやる。まほろの腕には、スプーンといっしょに黒ちゃんが抱かれていた。