摩訶不思議、寝子高龍！｜リアクション

摩訶不思議、寝子高龍！

●第四試合、尾鎌蛇那伊　ＶＳ　新田亮

　第四試合は、実質上の決勝戦という呼び声も高い戦いとなった。
　筋肉質な巨躯でありながら、髪を撫でつけ濃い化粧を施した蛇那伊は中国拳法の遣い手。
　対する亮は、蛇那伊と比べると一回りも二回りも小柄で、あどけなさを残した少年であるが、ボクシングと柔道とテコンドーを嗜んでおり、油断できない。
　驚くべきはこのふたり、同じ高校二年生だということである。

「うふふふっ、武を競う場が用意されてるなんて嬉しいものだわ。全身全霊を掛けてその競い合いの場に立たせてもらうわよ！」
「俺も狙うは優勝だ」

　亮はハンマーグローブを嵌め、ボクシングの構えをとった。相手が野菜星人なら容赦なくろっこん＜鬼人の体（サード・フォース）＞による身体能力の強化を図って打ちのめすつもりだったが、人間の蛇那伊相手なので、自らにろっこんを使った打撃は使わないことを課す。
　一方の蛇那伊は、呼吸を整えて気を練り上げてゆく。
　練り上げた気を全身に巡らして身体を戦闘モードに持っていくのだ。
　――はじめっ！　にゃ！
　亮が動く。小柄な体を弾丸のように弾かせて、蛇那伊の懐に飛び込んでゆく。
　ひゅっと鋭く息を吐き、立て続けに拳を繰り出す。
　速い。ボクシングの練習を真面目にこなしてきた成果が現れている。
　だが、蛇那伊になかなか当たらない。
　蛇那伊は、相手が仕掛けてきた技に合わせて掛ける『後の先』を基本戦術としていた。
　一点を見ずに全体を見る。五感全てを活性化させて文字通り全身で相手を観察する。
　すると相手が次にどのように動くかが読み取れるようになってくる。
　紙一重で避け、拳を捌いて生まれた隙を突いて逆に打撃を入れにいく。
「そうはいくか」
　ここまでボクシング技のみで戦っていた亮が、突然、蛇那伊の胸倉をつかみ、柔道の足払いを仕掛けた。
「あらやだ。そういう技も使うのね」
　蛇那伊は軽くジャンプして足払いを避けるとその流れで上段の回し蹴りを放つ。
　亮は身をのけぞらせてそれを避けると、ぱっと離れて間合いを取った。
「やるな」
「ふふ、そっちこそ」
　ろっこんはまだ使わない。もう少し、この生身の戦いを楽しみたい。
　蛇那伊と亮は、しかと相手と睨み合った。