並走せよ！　暁の神速ランナー｜リアクション

並走せよ！　暁の神速ランナー

　ファイルされた過去の新聞の山の間から後木真央の頭がのぞく。いつも活発な彼女が今日いる場所は、普段は縁遠いと思われる図書館だ。地方面・社会面を中心に、一枚一枚めくって記事を確かめていく。
「持病があって、練習中の急死とかでないなら……事故なんかなら、新聞に載ってるはずなのだ」
真央が調査対象としたのは、二十年前から四十年ぐらい前までの、寝子島の新聞記事だ。かなりの量だが、真央は粘り強く目当ての記事を探していく。
「むむむう……」
難しい顔の真央に、思いがけない声が投げかけられた。
「あら？　こんなところで会うなんて」
「おー！　ブリジットちゃん！　長いのでブリちゃん！」
声の主は同学年のブリジット・アーチャーであった。イベント参加も厄介ごとに首を突っ込むのも大好きという共通点のある二人、共に行動しないまでも、顔を合わせる機会は多かった。ブリジットは真央の築いた新聞の山、その日付に目を留める。
「ひょっとして、神速ランナーのことを調べてる？」
「そうなのだ。真央ちゃんから見たら幽霊は大、大センパイなのだ。走る楽しさ、きっと誰よりもわかっていたはずなのだ。なのに……。こんなの、可哀相なのだ」
ブリジットは新聞の山に手を置き、真央の顔を覗き込んだ。
「どこまで調べたの？」
そう聞きながら、隣に座る。それから、少し遅れて来た人物に向けて、招くしぐさをすると新井すばるがごめんごめん、と言いながらやってきた。軽く手を挙げてあいさつ代わりに微笑む。
「ランナーの事故があったのは、二十四年前よ。その年の記事を一緒に探しましょう」
三人は並んで席に着き、目の前の情報の山を探り始めた。

事件の年が特定できると、目当ての情報を探し当てるのは早かった。
『早朝の寝子島街道で大学生がはねられ死亡』
『飲酒運転の男が大学生はね死なす』
「これに間違いないのだ」
真央はうなずき、記事を広げてブリジットとすばるに見せる。二十四年前の痛ましい事故のあらましと、その犠牲となった学生の名がそこにはあった。朝まで飲み明かした男が、自分で車を運転して帰ろうとしてハンドル操作を誤り、歩道に乗り上げて学生をはねたのだ。
「亡くなった選手は石田さんって言うのね」
「うん。あとこれ」
すばるは別な地方新聞の記事と、当時の寝子島地域の広報の写しを見つけ出す。
『「なぜこんなことに」夢断たれた陸上部の嘆き』
記事にはトップクラスの実力を持っていた石田選手を失った悲しみの声が記録されていた。当時の陸上部コーチと、もう一人。『彼は最高の友であり、ライバルでした』との発言を残す、小島と言う選手のものだ。
「きっとこの人が神速ランナーの相棒だった人なのだ？」
真央の問いにブリジットはうなずく。
「そう考えるのが妥当でしょうね。さてここからはどうしたものかしら……」
その時、ブリジットの携帯から、メール着信を告げる音がした。
「円からだわ。小島さんを見つけたそうよ。今なんとかコンタクトを取ろうとしているって」
「ほんとなのだ!?　すごいのだ！」
「えっ、もう!?　ホント、桜庭さんの行動力にはかなわないなぁ……」
「あっちは円に任せましょう。今からみんなで追いかけるより、私たちは私たちでできることを」
「わかったのだ！　真央ちゃんは、走るのだ！」
新聞ファイルの山をえいやっと一気に担ぎ上げ、真央はもとあった場所にそれらを返却しようと足早に去っていく。
「特訓してくるのだ！　すばるちゃん、ブリちゃん、一緒に調べてくれてありがとうなのだー！」
「まったく元気な子ね。それじゃ、私たちはどうする？」
すばるはお得意のウィンクで、ブリジットに答える。
「ゴールさせてあげるって、言うのはどうかな？　やってみない？」