魔女的、呪文メーカー｜リアクション

魔女的、呪文メーカー

　夕方。
　ランニング中だった風雲児轟は前方に不思議な格好をした女の子を見つけた。何やらうなだれて、と元気なさげに歩いている。
「まさか、またろっこん絡みか？　……ちょっと聞いてみよう」
　なんとなく勘が働き、轟は少し離れて女の子の隣に並んだ。
「見かけない顔だな。何か困ってんのか？」
　顔を上げた彼女はエールと名乗った。仲間と一緒に魔女の世界からやってきた迷子らしい。
「さすが寝子島、今度は魔女まで連れてきたぜ」
「なんだかよくわからないけど、ここは凄い場所なのね」
　どうやら、轟に会う前に何人かと遭遇したらしい。
　轟は親指を立てた。
「寝子島だからな」
「寝子島、ね。覚えておくわ。あ、そうだわ。あなたにもお願いがあるの」
　聞くところによると、こちらの世界へ来た時に、魔法を忘れてしまったらしい。轟は新しい魔法と呪文を考えてほしいと頼まれたのだが。
　轟は少し考えて、
「俺の専門はヒーロー系だから本格的な魔法はちょっと難しいが、それでもそれなりの知識はある。主に日曜日の朝がメインだけどな！」
「日曜の朝が魔法と関係あるの？」
「おいおい、日曜の朝抜きに魔法は語れないだろ。それはそれとして、ここで実演すればいいんだな？」
「ええ、お願いするわ」
　轟は杖を受け取ってから、民家の塀に手をかけて、ひょいっとのぼった。
「何をするの？」
「こういうのは演出が大事なんだぜ？」
　塀の上で、轟はすっと息を吸った。
　それから額に杖の先端をつけ、
「我を導け」
　そう、言葉を紡ぎ、杖を上へ掲げながら、
「リンク、ボンド！」
　高らかに唱えた。
　轟は自分の体が輝き出すのを確認し、塀からジャンプ。地面に着地する前にその姿が消えてしまう。
「え？」
　エールは少し慌てたように辺りを見回す。
「ちょっと、大丈夫なの？　どこへ」
　と、エールは背後に気配を感じ、振り返る。その瞬間、宙に現れた轟がいわゆるスーパーヒーロー着地。
　エールと目を合わせる。
「成功みたいだな！」
「空間移動魔法ね」
　轟は頷いて、
「この魔法が使えたなら、はぐれた仲間のところへ行ったり元の世界に帰れると思うんだ」
　エールは、はっとしたようだ。すると、轟は笑った。
「そう、できるように念じたんだぜ？」
　轟に差し出された杖を受け取ったエールは頷いた。
「ありがとう。これで仲間と会えるかもしれないわ。あなたには感謝しかない」
「そうだ、別れる前に一つ。もしまた寝子島に来れるようになったら教えてくれ。その時は友達と一緒にこの島で楽しい思い出を作れるように協力するから！」
　エールは少しだけ頬を赤らめて、
「世話焼きなのね。でも、嬉しいわ」
「おう、気をつけて帰れよ！」
　轟は去っていくエールの背中に手を振るのだった。
　と、轟は自分がいつの間にか公園の近くに来ていたことに気づいた。公園の敷地内のベンチの前で何やら話している二人組が見えた。カップルかもしれない。
「お熱いじゃん」
　轟はそのまま帰路についた。