魔女的、呪文メーカー｜リアクション

魔女的、呪文メーカー

　夕暮れの街で出会ったのは、魔女だと名乗る女の子だった。名前はエールというらしい。
　椿美咲紀は彼女の話を聞くことにしたのだが。
「ふむふむ。それは色々と大変ですね」
　この世界へ来た時に呪文を忘れてしまい、魔法が使えなくなってしまったとのことだった。エールは美咲紀に新しい呪文と魔法を考えて欲しいと頼んできたのだった。
「ええ、緊急事態なのよ」
　美咲紀は顎に手を当てた。
　どうしてこの世界へ飛ばされて来たのか。魔法少女的に何か世界の危機的理由が隠れてそうだ。そう考えた美咲紀は顎に手を当てた。
「魔法が使えないと調査探求・事態対応に苦慮しますからね」
「……調査？」
「世界の危機に立ち向かう魔法少女のピンチですしね！」
「魔法少女？　この世界ではわたし達をそう呼ぶのね。でも世界の危機というのは？　もしかして、あなたは何か」
　美咲紀はエールの肩に手を置いた。
「その使命、手伝わせてほしいです」
「そ、そう。お願いするわ」
「私で良ければ協力しましょう」
「ありがとう、助かるわ」
　エールから杖を受け取った美咲紀は人差し指を立てた。
「こんな魔法はどーでしょ？」
　すうっと息を吸って、
「プリズムの輝き！」
　そう高らかに言葉を紡いだ。
　杖を図上に掲げ、くるりんと二回転。スカートが舞い、美咲紀の長い髪がふわりと広がる。
　杖の先端についている魔法の力の源、魔法石から透過光がリボン状に出現、美咲紀の回転に合わせて彼女の体を包む。
　リンと鈴のような音が辺りに響き、美咲紀の周りがフラッシュ。
　それがおさまると、彼女は七人に分身していた。
「こ、これは、高度な魔法だわ」
　身長五十センチほどのミニサイズな美咲紀がそこに。
「やった、成功です」
　そう言った美咲紀の声は七人で綺麗にハモっていた。それから、真ん中にいた杖を持つ美咲紀が一歩前へ。胸元に手を当てる。
「ちなみに本体は私で他の私は光なので物理攻撃でのダメージは受けないです。効果は十分程ですかね」
「こんな魔法を即興で思いつくなんて……」
「いやーん、私ちゃん、天才ですか」
「ふふ、そうかも知れないわ」
　と、その時。エールがはっとして顔を上げた。
「どうしました？」
「まずいわ。あれ」
　エールの指の先を追うと、黒い靄が浮かんでいた。
「なんですか？」
「『悪魂』……簡単に説明すると、わたし達の天敵よ」
「つまり敵ってことですね！　任せて下さい」
　美咲紀は駆け出した。他の六人も後について走り出す。
　すると、黒い靄が変形して、鋭い刺が伸びてきた。
「視点共有！」
　二人のミニサイズ美咲紀が刺に飛びついて、捕まえる。
　それから足を止めた、杖を持った美咲紀。彼女を追い抜かしていく四人。様々な方向から刺を繰り出し、ウニのような形へと変化する『悪魂』だが、美咲紀達はそれらを素早く避けて行く。
「良い感じです」
　杖を持った美咲紀は他の六人の視界を見渡し、二人の美咲紀が押さえている刺に飛び乗って、『悪魂』の本体へ駆け出す。
「行きますよっ」
　杖を回転させ、勢いよく杖をスイング。『悪魂』はその衝撃で砕け散るように消えたのだった。
　地面に着地した美咲紀は元の身長に戻り、他の六人は光となって霧散した。
「凄いわ。この魔法」
　駆け寄ってきたエールに美咲紀は、
「エールさん、この世界に飛ばされた理由を探るとかしないの？」
　好奇心を隠せないように、美咲紀は言った。
「もちろん、魔法を取り戻したら仲間と合流してそうするつもりよ」
「そうですか、頑張って」
「……ありがとう」
　美咲紀は頷いて、エールに杖を渡した。