魔女的、呪文メーカー｜リアクション

魔女的、呪文メーカー

　佐藤瀬莉は夕暮れに染まる街をのんびりと歩いていた。
「ん？」
　瀬莉は首を傾げる。
　前から不思議な格好をした女の子が歩いてくるのが見えたのだ。フリルのついた黒いワンピースを着て、とんがり帽子を被っている。手には身の丈ほどもある杖を持っていた。
「困った、困った。どうしよっかなぁ」
　笑顔なので、そんなに困っているように見えないのだが。
「あっ、そこの小学生女子！」
　女の子は駆け寄ってきた。
「こんにちは！」
「こ、こんにちは」
「わたし、ブルーナって言うんだ」
　瀬莉も思わず自己紹介をしてしまった。
「瀬莉ちゃんか。そんで、今、凄く困ってるんだよね。わたし、魔女……いわゆる魔法少女なんだけどちょっとさ、新しい魔法を作るのを手伝ってくれない？」
「はい？」
　瀬莉は困惑する。いきなり魔女だの魔法少女だの言われても信じられるわけがない。
「んー、実は魔女の世界からこの場所に来た時に色んな魔法を使うための呪文を忘れちゃったんだよね。なんか自分で考えた呪文は使えないし、誰かに考えてもらうしかなくてさ」
　瀬莉はしばらくぽかんとしていたが、
「ま、いっか」
　瀬莉は深く考えることを止めた。話だけを聞くと、中々面白そうである。
「うん、わかった。どうすれば良いの？」
「杖に魔法を使う力が宿ってるから、これを持って、呪文と決めポーズ、魔法の効果をイメージして実演して」
　手渡された杖を見上げた。
「そっか、どうしようかな」
　と、その時である。ブルーナの後方に何やら黒い靄を纏った女性が現れたのが見えた。
「何、あれ？」
　ブルーナは、はっとした様子で振り返った。
「まずったね。こんな時に」
「どういうこと？」
「魔女の世界にいる『悪(あく)魂(だま)』。魔女とか人間に憑依して、何故かわたし達魔女を襲いにくる厄介なやつ。うーん。今浄化の魔法使えないからなぁ」
「まずいんじゃないの？」
「まずいね」
　瀬莉は少し考えると、一度頷いた。
「じゃあ、あたしが浄化するための魔法を作れば良いの？」
「お、良い案だね！　よろしく」
　瀬莉は杖を構えながら前へ出た。ゆっくりと近寄ってくる『悪魂』から視線をそらさずに深呼吸。
　こういう時はやっぱり変身も必要だ。瀬莉は心の中でそう呟き、
「永遠なる魔法の使い手、ブルーナの名に置いて、星に命ずる！　星輝の力を我に与えん！」
　瀬莉は杖を空にかざし、回転させながら天高く放り投げる。目を閉じ、上半身をそらす。その瞬間、杖が眩い光に包まれた。
　その光が螺旋状に瀬莉の体を覆う。一瞬だけ一糸纏わぬ姿になり、その後、光がふりふりの黒のゴシックロリータ服に変わる。
　目を開けた瀬莉は杖をくるりと回転させ、槍のように斜めに構えた。
「汝の心に巣食う邪悪なる、魂に」
　杖の先端から光の粒子が吹き出し、竜巻のように女性を包み込む。
「永劫の浄化を！」
　女性は光の渦に巻き込まれ、憑依していた『悪魂』は消えていったのだった。
「……ふう」
　どうやらなんとかなったようだ。
　構えていた杖を下ろすと、ブルーナが拍手をしていた。
「うん、確かに浄化魔法が作られたよ」
「これでよかったの？」
「完璧だね」
　ブルーナは瀬莉の手を握った。
「ありがとう、瀬莉」
　そうお礼を言うと、返した杖を持って、去って行った。
「成り行きとは言え、魔法つかっちゃった」
　いつの間にか服は戻っていた。
　瀬莉はクスッと笑って、歩くのを再開した。
「あれ？」
通りかかった丁字路の先になんとなく視線を向けると、道の先に黒服の女の子と銀色の髪をした女の子、スピカ・フォーツが話しているのが見えた。
「？」
黒服の女の子は今しがた別れたブルーナに似ている気がした。

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