魔女的、呪文メーカー｜リアクション

魔女的、呪文メーカー

　橘明里は夕暮れの街を歩いていた。
　自販機の前を通り過ぎたのだが、その前で話込んでいるのは、旅鴉月読と黒服の女の子だった。魔法だの、呪文だの、不思議な単語が飛び交っている。ゲームか、マンガか、アニメの話だろうか？　気になったものの、歩みを止めない。
　そんな中、遭遇したのは魔女だと名乗る、女の子だった。名前はブルーナというらしい。
「というわけで、魔法とその呪文を忘れちゃって、考えてほしいんだよね。何故か自分が考えた呪文じゃ使えないし。困っててさ」
「忘れちゃって魔法が使えない……と」
「そうそう。実はそこで会った子に浄化の魔法を考えてもらったんだけどね、もっと使えるようになりたいからさ」
　どうやら不本意に魔女の世界からこちらへ来てしまったようだ。
　真剣に頷きながら聞いていた明里は片目を閉じて、ピースを横向きに額に当てた。
「この天使アカリンにおまかせ！　なの！　ふふ、魔法の手帳がキラッと光るのなのよ！」
「おお、アカリンは天使だったのかー！　頼むよ、天使様！」
　明里は手渡された杖を握って、力強く頷いた。
　明里はいつになくキリッとした表情で杖を真横に振った。
「そは、あまねく生命の源」
　杖を縦にし、
「その姿をここへ束ね、完全なる零の世界へと誘え」
　明里は目の前を見据える。
「その背は新たな白き翼、レト・チェル・エア！」
　縦にしていた杖に光りが灯り、明里の周りに冷気が渦巻く。そして、杖の直線上に鎌鼬のような鋭い風が放たれた。冷気を含んでいるらしく、風が通りすぎた地面に逆向きの氷柱が次々と現れる。
　対象となる物体や人はいないが、効果は明らかであり、上手く作れたようだ。
「やるじゃん、アカリン。めちゃくちゃ格好良い」
　明里はバトンのように杖を回転させながら頭上まで持っていって、両手で抱えてビシッと笑顔！
　明里の周りに魔法の力でできたスターダストが舞った。
「わたしより上手いかもしれないな。この世界って才能ある人が多いのかもね。アカリン、格好良すぎて惚れちゃうよ」
　明里はぱっと表情を輝かせた。
「そ、そんなに良かったなの！？」
　ブルーナは笑顔で頷いた。
「だったらあかり、ブルーナちゃんのためにもう一つ伝授しちゃうなの」
「さすがアカリン！」
　明里はもう一度一連の動作をし、最後の呪文を唱える。
「ワド・チェル・エア！」
　今度は明里を中心に身長ほどの半径で円状に展開された。先ほどと同じように冷気の風が地面に氷柱が現れる。
「さらにもう一つ！　イン・チェル・エア」
　その瞬間、冷気の風が明里を包み込み、
「ま、間違えたなの！？」
　彼女の体は瞬く間に凍ってしまったのだった。
「え……ちょっとアカリン！」
　ブルーナが慌てて駆け寄ると、明里を覆っていた氷が砕け、その場に膝をついた。
「大丈夫？　考えてた呪文と違う言葉を口にすると跳ね返ってくるからなぁ」
「ちひひー、しっぱいちゃったなの」
　明里はブルーナに助け起こしてもらい、
「何はともあれ、ありがとう。使える呪文が増えたよ」
「これくらい安いものなの」
　明里が杖を返すと、ブルーナは笑顔で去って行った。

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