Mother's Day でやりたくなる｜リアクション

Mother's Day でやりたくなる

　三折部朝衣は旧市街にいた。白いブラウスに黒いタイトスカートを穿いて花屋へと向かう。
　――やっぱり母の日は定番のカーネーションよね。シーサイドタウンの店は品数が豊富だけど、売れ筋ばかりでつまらないわ。
「掘り出し物なら旧市街ね」
　慣れた調子で狭隘な道を進んでいく。少し広い通りに出て急に足を止めた。戸惑いの表情を見せる。
　――あたしは何をしているのよ。カーネーションじゃない。おっぱいをあげないと。
　目は相手を求めた。近くに親子連れがいた。母親と女の子が手を繋いで歩いている。
　――できれば男性がいいわね。美少年、美丈夫が狙い目よね。
　にやりと笑って方向を変えた。人通りの多いところを選んで歩いた。
　苦々しい表情で親指の爪を噛んだ。
　――女性しかいないじゃない！　男性はどこに行ったのよ！
　怒りで頬が紅潮した。瞬間、虚脱した。
「何を考えているのよ」
　再び、向きを変えた。花屋への最短の道を選び、途上で立ち止まった。
「おっぱいが先よ」
　目を爛々と輝かせて別の通りに足を踏み入れた。
「いたわ！」
　声が裏返った。後頭部を摩っていた御剣刀は瞬時に顔を向けた。
「そこ、動くんじゃないわよ！」
　危険を察知した刀は逃げ出した。瞬く間に引き離される。
「待ちなさいよ！」
　刀が曲がった右手に声を荒げて駆け込むと、すでに姿はなかった。脚力の差は歴然で完全に見失ってしまった。
　朝衣は足を踏み鳴らして悔しがる。
「何なのよ！　このあたしから逃げるなんて信じられないわ！」
　腹立たしさから自身の胸を掴む。荒々しい手で揉みしだく。
　――こんなに弾力があって形の良いおっぱいが、他にどこにあるっていうのよ！
　もっと限りある資源を有効に使いなさいよ！　何にでも旬ってもんがあるんだから！
　低い唸り声を上げそうな顔で朝衣は獲物を探した。女性がやたらと目に付いた。
　――どこにいる。レアんもんはどこよ！　もう、同性でも構わないわ！
　大きな通りへと向かう。近道となる路地を突き進む。
　――やっと見つけわ。覚悟しなさいよ。
　前を歩いていた酒浸朱蘭の肩を掴んだ。無理矢理に振り向かせる。
「お、何なんだぜ？」
「あたしのおっぱいをあげるわ」
「あたしは哺乳瓶のミルクをあげるんだぜ」
　朝衣の口に哺乳瓶を突っ込んだ。
「これ、美味しいわね」
「そうなんだぜ。あたし特製のろっこんミルクなんだぜ。酔うこともできるんだぜ」
「いいわね、それ」
　朝衣は哺乳瓶を奪い取ると一気に飲み干した。大きな息を吐いて空の容器を突き出す。
「おかわりよ」
「良い飲みっぷりなんだぜ！」
　朱蘭はその場でろっこんミルクを作った。朝衣は変わらない勢いで空にした。
「どんどんきなさいよ」
　少し下がり気味の瞼で言った。
「まだまだあるんだぜ」
　陽気な声で応じた。

　クシュンと自身のくしゃみで目を開けた。
「……背中が痛いわ」
　仰向けになっていた身体を起こす。道端に白いブラウスが丸まった状態で落ちていた。その近くにはブラジャーが脱ぎ捨てられていた。
「どこの痴女の仕業よ」
　しょぼつく目を擦りながら朝衣はぼやいて立ち上がる。寝起きのように伸びをした。猫背になってゆっくりと息を吐き出す。
　目を見開いた。
「な、なんであたしが！」
　上ずった声を上げる。張りのある胸が露わになっていた。人影に怯えるような目となり、ブラウスとブラジャーを引っ掴む。
「これ、あたしのだよぉ」
　涙声で装着するのだった。

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