最終試合は黒猫組のボールで始まった。
　地面に叩き付けられたボールが大きく弾む。目にした水上 桜が前に出た。自然に身体が動く。
　ボールを跳び上がって掴むと即座に投げる体勢に入った。白猫組の服部 剛が、こいや！　と声を上げて構える。
　強敵と判断した目は流れて伊藤 佳奈を捉えた。大きく振り被った手でボールを投げ付ける。外野にいた黒猫組の伊藤 美緒が瞬時に叫んだ。
「佳奈、当たったら絶対に許さないんだから！」
　その怒声に近い声を受けて佳奈は身体の中心でボールを受け止めた。柔らかい笑みを美緒に向ける。
「美緒ちゃん、応援するチームを間違っていると思うんだけど」
「だ、誰が応援よ。ライバルに不甲斐ない試合をして貰いたくないだけなんだからね！」
「じゃあ、それでいいよ」
「そんなことより、早く投げなさいよ！　内野から外野のパスは認められているわ」
　美緒は構えた。小さく手招きをする。
「それはないかなぁ。まあ、ボールはちゃんと投げるけど」
　のんびりした調子で佳奈は黒猫組を眺める。コートの中央が不動の位置というように尾鎌 蛇那伊が両手を軽く突き出す。
「挑戦してみる？」
「遠慮しようかなぁ」
　二人の間に紗雪 幽が割って入る。
「俺なんかどうよ？　狙い易いんじゃないかな。早い者勝ちだよ」
「なんか強さは感じないんだけど」
　佳奈はボールを後ろに引いて外野に投げた。構えていた新田 亮が受け取る。反応の遅れた男子が慌てて逃げ出す。
　外野にいた八神 修が声を飛ばす。
「背中を見せて逃げるな！」
　男子は無理に身体を捻る。体勢が崩れたところを狙われた。亮の放ったボールは太腿に当たった。
　点々とするボールは蛇那伊が掴んだ。
「どうしようかしらね」
　値踏みするような目を白猫組に向ける。
「今度は負けへんで！」
　剛が腰を落とした。万全の態勢で臨む。
「そこまで構えられると当て難いわ」
「遠慮はいらんで。どんとこいや！」
　蛇那伊の笑みに凄味が加わる。
「あたしが全力で投げちゃうと、結果が怖いことになりそうなのよね」
　コートの隅にちらりと目をやる。華奢な七音 侑が小刻みに動いていた。その後ろの外野には工藤 耀の姿があった。
「決めたわ。いくわよ」
　手首の力だけで投げた。ボールは真っ直ぐに侑に向かって飛んでいく。
「ウチのステップは無敵だにー」
　笑顔で横に跳んで躱した。ボールは外野の耀の手に渡った。
「侑、この勝負は俺の勝ちだ」
「決まってないにー」
　自慢の脚力で逃げる。先の展開を読んだ耀がボールを放つ。膝に当たる直前、横から低い姿勢で飛び込んできた七夜 あおいが根性で受け止めた。
「今度はこっちの攻撃よ！」
　一気に前に出るあおいに敵側の幽が気軽に話し掛ける。
「あおいさん、夜の海岸ではどーも！　あの後、気に入ったシーグラス、見つかりましたー？」
「え、それって今、聞かないといけないことなの？」
　投げようとした手が止まる。直後に、あー、と間延びした声を上げた。
「そんな言葉で油断なんてしないからね！」
　気を取り直してボールを投げる。外野にいた日々野 結衣香が両手でキャッチした。
「当てていきますよー」
　ポニーテールを振って全力で投げた。近くにいた剣崎 エレナにボールが飛んでいく。
「華麗な舞の前では無力に等しいわ」
　エレナは跳躍した。前後に広げた足が直線を描く。ボールは真下を通過した。
「あれー？　やりますね！」
「当然の結果ね。クラシックバレエに敵はないわ」
「これ、ドッジボールなんだけど」
　一人の女子が心配そうな顔をする。エレナの耳には届いていない。片足立ちでピルエットを披露した。
　ボールが外野に向かって転がる。走り込んだ桜が素早く拾い上げた。外野で軽く手を挙げた修に向かって鋭いパスを見せる。
　角の辺りで受け取ると近くにいた女子に視線を合わせた。左の方に逃げていく。滑らかな動作でボールを投げた。
「こっちかよ」
　悔しそうな声が右手で上がる。視線とは逆の方向に投げられたボールは男子の脛に当たって地面に落下した。
　成果を目にした修は、悪いね、と朗らかな顔で言った。
「きっちりとお返しはさせて貰うで！」
　低い姿勢で剛が走る。自陣にあったボールを拾い上げて尚も速度を上げる。中央のラインの手前で跳躍した。
　鋭いオッドアイを蛇那伊に向ける。
「これが俺の全力投球や！」
「わくわくするわ」
　急角度のボールが蛇那伊を襲う。右肩に当たる寸前、右の掌が阻んだ。弾む余地を与えず、左手で挟み込む。
　ボールの速さを物ともしない。観客は一様に驚いた表情を浮かべた。
　美咲紀は決定的な瞬間をデジタルカメラに収めた。半ば興奮した声でＩＣレコーダーに経緯を録音した。
　蛇那伊は眼前にいる剛に微笑んだ。
「お返しするわね」
「ちょ、待てや！」
　極端に低い体勢で剛が逃げ出す。振り被った蛇那伊は躊躇いを見せた。
「当て難いわね」
　その台詞を好機と判断した。剛は右手を地面に付けた。両足を滑らせて回りながら立ち上がる。
「逃げ切ったで」
「面白い動きをするわね」
　二人の攻防に黒猫組の幽が拍手を送った。
「先輩のキャッチはすげえわー。対する先輩の逃げ足の速さも凄くて、草原を走る黒ヒョウみたいで惚れ惚れっすよ」
「お前、ええ目をしとるな。見込みあるで」
「おおきに、てな感じで合ってますかー」
「ばっちりや！」
　唐突に会話が途切れた。審判によって投げ込まれたボールに全員の目が注がれた。赤色を認識した男子は一斉に慄く。
　蛇那伊は片方の眉を吊り上げた。
「全てのボールを受け止めるって言ったけど、赤いボールはノーサンキューよ」
　代わって女子が中央に殺到する。弾む赤いボールに誰もが手を伸ばす。
「根性で取ってやるわ！」
　白猫組のあおいが他を引き離す。大きく踏み込み、両手でボールを掴んだ。
「悪いわね」
　無防備な瞬間を蛇那伊は狙った。両手が塞がったあおいは易々と当てられた。特別ルールの適用で生き残るが次はない。
　外野にいた味方のサキリ・デイジーカッターが叫んだ。
「同時攻撃だ！」
　前に詰めていた佳奈は黄色いボールを素早く拾った。あおいと並んで同時に投げた。
　飛んできたボールを幽は、あぶねー、と陽気に言いながら避けた。後方にいた蛇那伊に二つのボールが迫る。
「これは無理そうね」
　両方の掌で二つのボールを受け止めた。

　ボールが複数になったことで急に展開が速くなる。特に赤いボールは男子にとって猛威を振るった。ボールに触れることも許されず、次々と外野に送られた。
　その中、黒猫組の二人、幽と雅樹が大いに抗う。
「あ、いいねー。その投げるフォームいい感じだよー。あれ、当たっちゃったんだー。ドンマイ、お疲れー」
　幽はボールを避けながら軽口を叩く。目の当たりにした観客は俄かにざわつき始める。
「地味だけど、意外と凄くないか？」
「避けすぎだろ」
「普通に見えるのに」
　幽は満足した顔で観客にも話し掛けた。
「コツってなもんでー。まあ、攻撃には貢献できないっすけど、生き残れば勝ちの芽はにょきにょきなんじゃないっすかねー」
「その通りだよ」
　眠たげな顔で北里 雅樹が同意した。のんびりとした雰囲気を纏いながらも飛んできた全てのボールをギリギリで躱す。
「俺は狙われているのかな」
　ぽつりと出た一言が現状を如実に表していた。男女問わず、雅樹を狙う。気怠そうな見た目で最小の動きを見せる。当たりそうで当たらない。僅かな空間に素早く逃げ込む。
　幽とは微妙に異なるボールの避け方に観客は関心を寄せた。
「あれも頭脳プレーになるのだろうか」
「カサカサって感じだな」
　好き勝手な感想を口にした。
「カサカサって」
　苦笑した顔が真剣味を帯びる。
　コートに黄色いボールが追加されたのだ。
「このチャンスを待っていたのよ！」
　外野から内野に移動した黒猫組の美緒がボールを掴んだ。足元に転がってきた赤いボールも拾う。
「佳奈、覚悟はできたわね！　これが伝説の分身魔球よ！」
　二個のボールを矢継ぎ早に投げる。体勢が整っていた佳奈は全てを受け取った。味方の外野にパスを出して黒猫組の被害は拡大した。
　美緒は身体を震わせた。地面を何度も踏み付ける。
「なんで当たらないのよ！」
「まぁ、ボールを投げる前に教えてくれるからねぇ。もう少し他の人も狙ってみたらいいんじゃないかなぁ」
「勝ち逃げは許さないわ！　絶対に当ててやるんだから！」
「そう言われても、まぁ、お手柔らかに」
　そのような遣り取りに関係なく試合は進む。白猫組の男子が赤いボールを避けた。
　大きくバウンドしたボールを侑が飛び込んでキャッチした。
「逃げるだけじゃない。チャンスがくれば投げることもあるにー」
　黒猫組に目を向ける。外野から移った耀が真剣な顔で見ていた。
「誰にしようかなー」
　顔をゆっくりと左右に振って、決めたにー、と声を張り上げた。コートの端にいた女子に視線を固定。軽い助走からボールを投げ付ける。
「あっぶねぇ！」
　耀は仰け反ってボールを遣り過ごす。それを見た侑はぺろりと舌を出した。
「工藤君、空気を読んで欲しいにー」
「侑にボールを当てて俺が勝つ！」
「ウチだにー」
「夫婦漫才はええとしても勝つのは俺がいる白猫組やで」
　剛が親指を自身に向けた。
「誰が夫婦だ。ふざけたこと言うなら先に当てるぞ」
「そら楽しみやな。お、追加のボールがきたようやで」
　青いボールが山なりで飛んできた。誰もが及び腰となった。
　耀はあからさまに飛び退る。立っていた位置にボールが落ちてべチャッと湿った音を立てた。
「工藤、チャンスボールやないか。ちゃんと受け取らなあかんで」
「わかってる！」
　語気を強めたものの、足は一向に前に出ない。粘液を滴らせる青いボールに嫌悪の色が隠せない。
「これこそ、最大のチャンスなのよ！」
　美緒は耀を押し退けてボールを両手で掴んだ。取り落しそうになって胸へと抱える。真新しいユニフォームは粘液に塗れた。
「これくらいどうってことないわ！」
　重心を下げてゆっくりと歩く。中央のライン際に立ち、佳奈と向き合った。
「このボールを取ってみなさいよ！」
「えー、避けたらダメかな？」
「勝ち逃げは許さない！　真っ向勝負よ！」
「できれば触りたくないんだけどぉ」
　佳奈は目尻を限界まで下げた。逆に美緒は眦を吊り上げた。
「逃げたら美緒の勝ちになるんだからね！」
「そんなルールはないと思うよ」
「あるのよ！　絶対なのよ！　だから食らいなさいよ！」
　美緒は上体を捻った。遠心力を活用して両手でボールを投げた。
「仕方ないなぁ」
　佳奈はふわりと飛んできたボールに両手を伸ばす。挟むようにして掴むと滑った。
「ぬるぬるだよぉ」
　少し仰け反って胸で受けた。暴れるボールを両手で押さえ込もうとしたが零れそうになる。
「もうー、これなら」
　ユニフォームの裾を捲り上げてボールを包み込んだ。隠れていた白い肌が露わになった。ブラジャーに迫る勢いに観客が一斉にどよめく。
「見ちゃダメ！」
　美緒が叫んだ。敵陣に駆け込み、佳奈の前に立ちはだかる。
　審判はコートの外から警告を発した。
「早く自分のコートに戻りなさい！」
「わ、わかったわよ」
　美緒は佳奈に向き直る。
「いつまで見せているつもりよ！」
「そ、そんなこと言われても、ボールが滑るんだよぉ」
　おろおろして頬を赤らめる。美緒は乱暴な手付きで裾を下ろさせた。
　瞬間、ボールは弾んで美緒の胸に当たって落下した。
「え、これってもしかして」
　美緒は苦笑いで審判の方に目を向けた。相手は渋い表情で俯いている。間もなくして笑みを浮かべた。
「アウトということで」
「それならどうして笑顔なのよ！」
　文句を言いながらも美緒は大人しく外野に出た。
　残された佳奈は足元のボールを見やる。嫌そうな表情となり、目は周囲に助けを求めた。
　大股で剛が歩いてきた。
「俺に任せろや」
　青いボールを両手で掴み、地面に引き摺るようにして敵陣に向かう。
「パスやで！」
　渾身の力を加える。転がるボールの先にいた耀は、おい、と怒りを含んだ声で跳び上がった。
「わざとか」
「ただのパスや」
「当たりそうになったぞ」
「当たればええやん。アウトになるわけでもないやろ」
　剛は欠伸の真似をした。耀は右足を大きく後方に引くと地面の浅いところを蹴り上げた。
「おいおい、サッカーとちゃうで」
「服部、ボールになれ」
　完全に目が据わっていた。剛は両手を上げてふざけた調子で走り回る。
「うわー、この人、めっさ怖いわー。目がイッテはるわー」
　コントのような遣り取りに観客の数人が噴き出した。中には笑い転げて目尻の涙を拭う者までいた。
　和やかな雰囲気の中で試合の苛烈さは増した。
　審判が調子に乗ったのか。再び、青いボールが追加された。両チームの陣地の状態が極端に悪くなる。二つのボールが地面を滑り易い泥濘に変えていく。
　白猫組の侑は真面な地面を跳んで渡る。そこに青いボールが飛んできた。手前で失速して地面にへばりつく。
　侑は恐る恐る近づいて手でボールを触った。
「うにゃ、ぬるぬる～。これ、とんでもないボールにー。なら、向こうの陣地をもっとぬるぬるにするだにー！」
　両手で思いっ切り、ボールを転がした。不規則な動きで相手の陣地を侵食していく。逃げようとした男子が素っ転んだ。外野にいた結衣香が黄色いボールを投げ込む。
「当たったー！」
　ポニーテールを弾ませて子供のように喜んだ。
「味方の活躍は嬉しいんやけど、こっちもぬるぬるや」
　剛は踏ん張るようにして立っていた。上体が不安定に揺れている。外野にいた修は側面から黄色いボールを投げ付けた。
「甘いわ」
　ふらつきながらもボールをキャッチした。その裏に隠れていた赤いボールまでは気が付かなかった。
「ま、待てや～」
　力の抜けた声で赤いボールの餌食となった。両手と両足を満足に使えない状況では仕方がない。
「まあ、味方のボールになったし、ええやろ。八神、相変わらずの策士やな」
「ストックしていた甲斐がありました。服部先輩は手強いですから」
　修は朗らかに返した。
「シュー君、さすがなのです♪」
　美咲紀は観客に混じって大きく手を振った。
　外野と内野の出入りが激しい。二人の策士、サキリと修は自陣の味方に的確な指示を与える。同じように内野の人数を減らしていく。
　その中、黒猫組が押され始めた。身軽さと頭脳でボールを回避していた雅樹が立ち尽くす。避ける素振りも見せずに当てられた。体力が底を突いたのだった。
　幽の限界も近い。軽妙な語りは封じられ、荒い息で占められた。
　桜は一度、当てられていた。前髪は額に張り付き、両肩を上下に動かしている。
　修は白猫組の亮を目にした。疲れは全く見られない。外野で体力を温存した成果を如何なく見せ付ける。投げるボールの威力が凄まじい。何人もの味方が外野に送られた。側には守りの要、あおいが控えている。ボールを奪うと透かさず外野にパスを送った。
「あの連携……話し合いの成果か」
　修の表情が厳しくなる。瞬間、審判に目をやった。時間を気にするような仕草は見られない。
　味方の外野が投げた黄色いボールをあおいに止められた。
「いくわよ！」
　あおいは幽を狙って投げた。緩慢な動きで辛うじて避ける。転がるボールを追い掛ける気力はなかった。外野のサキリが拾い上げ、即座に投げ付けた。参ったという風に手を挙げた幽の太腿に当たった。
　修は表情に決意を滲ませる。ふらふらとした状態で外野にきた幽に声を掛けた。
「よく頑張ったな。俺が代わりに内野に入る」
「……もう、ガス欠っすー」
　幽は無理して笑った。
「本当によく頑張ってくれたよ」
　修は感謝を込めて自陣に走って向かう。桜の横に並んで立った。
「女子がいれば赤いボールも怖くないね」
「膝がガクガクですけど」
「とにかく、やれるだけのことはしよう」
「当然です」
　桜は負けず嫌いの本領を発揮した。
　早速、黄色いボールが修を襲う。桜が身を乗り出して受け止めた。
「助かったよ」
「次がきます、避けて」
　桜の言う通り、白猫組の外野にいた剛が黄色いボールを投げた。
「お返しや！」
　力んだせいでボールは微妙に曲がる。修を避けて自陣へのパスとなった。
　あおいがボールを拾い上げた。
　瞬間、サキリが声の限りに叫んだ。
「パスだ！」
　その声に修は反応した。サキリとの距離を空ける。
　パスは回った。あおいのボールを受け取った結衣香は修の背中に向けてボールを放つ。身を捩ったが間に合わない。
　右腕を捉えたボールが高く上がった。桜は自身のボールを手放してキャッチを試みる。片方の膝がカクンと落ちてバランスを崩す。
「あと少し！」
　伸ばした両手でボールを掴み、そのまま前に倒れ込んだ。
　審判は終了の笛を吹いた。二人が同時にアウトという判定を受けた。
　観客は生徒達に盛大な拍手を送る。
「どっちもよく頑張った！」
「最終戦に相応しい内容に感動した！」
　両チームは激励に包まれた。
　修は空を見上げた。すっきりとした表情であおいに目を向ける。
「お疲れ様」
「疲れたけど、面白い試合になったね」
「そうだな。本当に楽しかったよ。あおいのキャッチが凄くて驚いた」
「この通りよ」
　あおいは得意顔で腕を曲げる。力瘤は全く見えなかった。
　サキリは外野から自陣に戻ってきた。ふと頭に浮かんだのか。修は真っ先に口を開いた。
「あのパスの声にはやられたよ」
「僕がパスを要求したと思ったのかい？」
「身体能力を知っているだけに、ね」
　あおいが笑いながら話に加わる。
「最初に結衣香ちゃんと連携する約束をしたのよ」
「そうです！　私、運動は得意じゃないですけど、がんばりました！」
　走ってきた結衣香はあおいとハイタッチを決めた。手を取り合って勝利の喜びを分かち合う。
「服部、逃げるな。大人しくボールになれ」
「マジになんなや。笑いは心の清涼飲料水やで」
「俺の清涼飲料水はお前を蹴ることだ」
「いややー、そんなん、いややー」
　逃げる剛を耀が猛追する。その二人を侑が、待つにー、とスキップするように追い掛けた。
　修の両肩から力が抜けた。
「話し合いは大事だなー」

　両チームの熱い攻防は終わり、爽やかな風が吹き抜けていった。