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靴の先が見えている。
アスファルトの道を踏んで、靴先が踏み出す。右足、左足、右足、
(え、)
左足を踏み下ろしたところで、動きが止まる。ランドセルの肩ベルトをそれぞれ掴む両手を見遣る。ランドセルを掴むにしては大きく見える手を肩ベルトから離す。俯けた視界の中に掌を映す。
(えっと、)
掌を開いて閉じて、思うままに動く掌が自分の掌であることを確かめる。けれどそれが分かったところで、他には何にも分からなかった。
(あれ?)
瞬きばかりを繰り返す。
視線を上げる。青色をまだまだ残す暮れ始めの空の下の、人気のない路地。
冷たくなり始めた風に乗って、どこからか魚を焼く匂いがする。遠くを走って行く車の音と電車の音がする。
(あれれ?)
分かるのはそれだけだった。
その他は何にも分からない。
(……ここ、どこ?)
「おれ、誰だっけ?」
呟いた声が自分のものとも思えず、手の甲で口を押える。もう一度同じ言葉を口にして、自分の身体から出る声が自分の声であることを確かめる。
(あれ変だな、)
自分が誰だか分からないことを確認できた途端、頬がさあっと冷たくなった。背中からもお腹からも体温が失せた。
思い出せない。
息すら忘れた。すぐに苦しくなって、慌てて息を吸い込む。吐き出す。途端、血の気の引いていた身体に熱が戻った。ぐるぐると回る視界をどうにかしたくて頭をぶんぶんと振り回す。視界を過る黒い髪が余計に眩暈を催す気がして瞼をきつく閉ざす。
(わー、どうしよどうしよ!)
群れを成して襲い掛かる疑問符に混乱して思わず駆けだしかけて、カタカタと鳴るランドセルの音に引き止められた。がむしゃらに動かそうとしていた足を止めて深呼吸をする。どきどきとうるさい胸を押さえる。額に滲んでいた冷たい汗を掌でごしごし擦る。
「えっと、」
落ち着けと自分に言い聞かせるため、わざと明るい声を出してみる。
「とりあえず持ってるもの確認しよう!」
大きく何度も頷いてもみる。
背負っていたランドセルを下ろし、道端の電柱の脇にしゃがみこむ。ふたを開け、入っているものを抱えた膝の前に並べてみる。
(えっとー、)
筆箱に教科書、
(あとリコーダー……)
大体のものを地面に並べたところで、丁寧に折り畳まれたプリント用紙を見つけた。
(えーっと……)
漢字の書き取り練習紙の上側に書き込まれた文字を辿る。
『6年1組 たきはら かのん』。
(たきはらかのん、たきはらかのん)
魔法の呪文のようにその言葉を繰り返しながら、地面に並べたリコーダー袋を引っ繰り返す。教科書を捲ってみる。そのどれもに同じ名前が書きこまれている。
同じ名前を確かめるうち、風が霧を吹き払うように思い至った。
(そうだ、おれの名前だ!
滝原 カノン
!)
名前ひとつを思い出しただけで、歓声をあげたくなるほど嬉しくなった。顔中で笑ってから、嬉しさにどきどきする胸にプリント用紙を抱きしめる。
(よかった)
名前と学年は思い出せた。このままの調子で行けば、他のこともきっとすぐに思い出せる。
ほくほくと自分の持ち物をランドセルに仕舞おうとして、
「……ん?」
ランドセルの底にもう一枚、紙を見つけた。丁寧に畳んだ一枚目とは違い、二枚目のそれは教科書や筆箱に押し潰されてくしゃくしゃになっている。取り出して膝の上で広げてみると、いちばんに目に入って来たのは色のないカーネーションの絵。
塗り絵らしい花の絵の隣には、跳ねるような字体で書かれた『母の日に向けて お母さんにお手紙を書こう!』の文字。
続く文字を強要するような太い囲いの空欄には、ただ一言。
――おかあさん、どこにいるの?
震えを押し殺すように書き込んだ文字は、けれど拒絶するように上から鉛筆で塗りつぶされている。
見てはいけないものを見た気がした。膝の上で広げた紙を咄嗟に両手で握り潰す。ぐしゃり、紙の潰れる音が耳に響いたその瞬間。
――生まなきゃ良かった
細い手で頬を張られる音を思い出した。
(……あ)
吹き飛ばされた身体が壁にぶつかる。衝撃に目の前が真っ白になる。
(おもい、だした)
呻いてはいけない、声を出してはいけない。一言でも痛いと言えば、やめてと言えば、また殴られる。うるさいと蹴られる。黙れと髪を掴まれる。
(そうだ、おれ)
目を上げてはならない。見てはならない。ここにいると思われてはならない。見ていると知られてしまえばまた叩かれる。怖い言葉を叩きつけられる。
――あんたなんか
――なんでここに居んのよ
――死ね、バカ
憎悪に満ちた金切声を聞きたくなくて両手で耳を塞ぐ。顔を上げれば固い拳が振り下ろされる気がして息を潜める。
自分自身に言い聞かせるように、呪いのように囁く。
「おれはいないよ」
お腹がどれだけ空いても、ぶたれたところがどれだけ腫れて疼いても、口を閉ざしていよう。誰にも気づかれないものになってしまおう。透明になってしまおう。
ごみだらけのあの家で透明のふりをずっとしているうちに、おかあさんを迎えに来た知らない男の人の声を聞いた。
――うーわ、ガリガリじゃん、メシ食わせてんのかよ
――放っとけばいいのよ、そんなガキ
耳をずっと塞いでいたはずなのに、最後に聞いた母と知らない男との言葉ばかりをよく覚えている。がしゃん、と無造作に閉ざされた扉の音をよく覚えている。
それきり、おかあさんはずっと帰って来なかった。
名前を呼んでくれるひとが誰も居なくなった。
(おかあさん、どこにいるの)
「……おれは、いないよ」
呟く唇が冷たかった。耳を塞ぐ指先が氷のようだった。うずくまった背中が寒い。夕暮れの茜の中にいるはずなのに、身体のぜんぶが凍える。
窺うように眼を上げる。震えながら辺りを見回す。黄昏の路地には誰の姿もない。
このまま、あの時のようにずっと誰にも見つけられなかったら。
考えた途端、どうしようもなく恐くなった。ランドセルの周りに広げた持ち物を詰め直して背負って駆けだそうとして、けれど身体がほんの少しも動かなかった。氷に固められてしまったように、指先のひとつも動かせない。声のひとつも零せない。
寒さばかりが肩に降り積もる。このままここで恐怖に押し潰されて動けなくなってしまう。
(どうしよう、どうしよう)
怖かった。ひたすらに怖かった。奥歯が鳴る。強張った目に涙が滲む。どうすればいいのか分からない。立ち上がりたいのに立ち上がれない。そもそも、立ち上がったところでどうなるというのだろう。どこへ向かえばいいというのだろう。
だって帰る場所も分からない。
帰る場所があるのかも思い出せない。
(どうしよう)
瞼を閉ざす。ぐるり、背中を丸める。帰る場所がないのなら、いっそのことここで消えてしまおうか。もうずっと自分なんていないことにしてしまおうか。だっておかあさんももうどこにいるのかわからない。
そんなことを考えていたとき、声が聞こえた。
もう誰にも呼んでもらえないはずだった、自分の名前を呼ぶ声。
(どうしよう)
顔を上げてもいいのか迷う。名前を呼んでくれる声の主は、自分を殴ったりしないだろうか。蹴ったりしないだろうか。ごはんの食べ方が気にくわないと言ってごはんを取り上げたりしないだろうか。
繰り返し繰り返し、自分の名前が呼ばれている。
なんて優しい響きだろう、そう思った。そのひとの声で呼ばれる自分の名前は、とても柔らかで優しいもののように聞こえる。
呼ぶ声に応じて、顔をあげる。
地面に放り出したランドセルを手に、その人は不思議そうに周囲を見回していた。
「……にーちゃん」
大好きな兄を呼んだ途端、
(ああ、そうだ)
ぜんぶ、思い出した。
母が姿を消した後、近所の人の通報で警察に保護されたことも。
寝子島にいる祖母に引き取られたことも。
おばあちゃんの家には先に引き取られていた兄がいたことも。
父親の違う兄のことが、大好きだということも。
記憶を覆い隠していた霧が一息に晴れた。肩に降り積もっていた冷たい恐怖がふわりと溶けて消えた。
「にーちゃん、おれ、」
声が掠れた。耳を覆う両手を離し、目前に立つ兄へと伸ばす。
「ここにいるよ」
眼を瞠る兄の胴に、膝立ちの格好で抱き着く。
「にーちゃん」
兄の顔を見た途端、抱き着いて存在を確かめた途端、涙が溢れた。
「にーちゃん、」
慌てたように瞬く兄の瞳に、同じ色した自分の瞳が映っている。
どうした、と狼狽える兄がいつもの兄で安心する。兄が名前を呼んでくれることに安心する。兄が名前を呼んでくれる限り、帰る場所はここにある。
いなくならなくたって、いい。
「にーちゃん、怖かったよー!」
兄の腰に縋りついて声を上げて泣く。声を上げてもいいことに安堵する。泣いてもいいことに安心する。
カノンが今の今まで記憶を失くしていたことなど思いもよらないはずなのに、いきなり泣き出したことに驚いたはずなのに、兄は黙って頭を撫でてくれた。
「おれ、ここにいるよ」
何度も頷いてくれた。
「ここに、いるよ……」
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
阿瀬春
シナリオタイプ(らっポ)
ゴールドシナリオ(200)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
定員
10人
参加キャラクター数
10人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2018年01月12日
参加申し込みの期限
2018年01月19日 11時00分
アクション投稿の期限
2018年01月19日 11時00分
参加キャラクター一覧
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