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ショーウィンドウに映り込んだ若草色の瞳があからさまに笑みを含んで見えて、思わず口元を抑える。
(今日はかーちゃんとデートだ~)
思った途端、抑えた掌の下の口元がやっぱり緩んだ。男子にしては色白気味な頬にどれだけぎゅっと力を入れてみても、唇に笑みが零れる、頬に薄紅が差す。
幼馴染から待ち合わせ場所にと指定されたシーサイドタウン駅前の噴水前に向かいながら、うかうかと頬に浮かぶ笑みを誤魔化して繰り返し頬を擦る。
――デートではないがな
(って言われそ~)
いつだって眠たそうな水色の瞳を手元のスマートフォン画面に固定してさらりと訂正する幼馴染の言葉を思い浮かべてみても、それでもやっぱり嬉しい笑みは沈まない。
(まあ、一緒に出掛けるだけだけど)
幼馴染の彼女からしてみれば、いつもと何にも変わらないお出かけには違いないのだろう。その証拠に、時間より少し早めに着くのはいつも自分。時間に遅れる彼女を待つのもいつものこと。
待ち合わせ場所の噴水前でいつものように幼馴染を待ちつつ、のんびりと五月の空を仰ぐ。薄青い空の色が彼女の瞳の色に似ていて、意味もなく嬉しくなった。
(ゲームのイベントかな~?)
時間を過ぎてもやっぱり来ない幼馴染を待つままに、彼女が四六時中没頭しているいくつものスマホゲームを数え上げてみる。五月のイベントと言えばなんだろう。
――すまない遅れた、イベントが熾烈を極めていてな
あんまり申し訳ないとは思っていなさそうな顔の彼女が思い浮かんだ。
(でも、一緒に出掛けてくれるんだよね)
どれだけゲームに必死になっていても、彼女は外に出て来て一緒に並んで歩いてくれる。
堪えきれぬ笑みをくすりと零し、何気なく数歩進んだところで、
(……あれ、)
ふと、立ち尽くす。
(何してたんだっけ)
数歩進むその前まで、何をしていたのか、何を考えていたのか、思い出せない。
(あれ?)
目の前には大きな駅の出入り口がある。五月の風に涼し気な水を舞い上げる噴水がある。ロータリーにはバスや車が停まっている。駅や駅ナカ施設に向かう人々や駅から出て何処かに向かう人々で昼過ぎの駅前は賑わいを見せている。
周囲に満ちる喧噪が消えた気がした。
(あれ~?)
進めばいいのか戻ればいいのかも分からず、人込みの中に呆然と立ちすくむ。瞬き、首を捻り、周囲を見回したところで、
「すまない遅れた」
正面に立った黒髪の少女から声を掛けられた。
「ぬるいと思っていたイベントが熾烈を極めていてな」
真顔で言い、片手に持ったスマホを素早く操作する少女を、思わずまじまじと見つめる。
細い腿にまで届く黒髪は、よく見ればその内側が水色に染められている。髪の内側とよく似た水色の瞳はひどく眠たそうなその癖、どこかポップな印象を受けるのはそのせいだろうか。
(睫毛ながーい)
声を掛けておきながらスマホ画面ばかりを一心に見下ろす彼女の、けれどその白い頬に落ちる黒い睫毛の陰に見惚れる。物静かそうな見た目の裏腹、柔らかそうな耳朶を幾つも飾る大小さまざまなピアスに目を奪われる。
(首ほそーい)
誰なのかは分からないものの、
(……かわいい子だな)
心底そう思った。周囲を行き交うどの女の子もそれぞれに可愛いけれど、目の前に立つこの女の子が飛びぬけて可愛い。
「どうかしたか?」
長い睫毛をしばたたかせ、女の子がスマホから顔をあげる。
(うん、すっごくかわいい)
それだけの仕草が胸を掴まれるほどに可愛らしかった。思わず笑みが弾む。
「誰かと間違えてるの?」
「なつ氏?」
「それとも俺で合ってる?」
「なつ氏……?」
少女の空色の瞳が丸くなり、次いで不安げに細くなる。女の子にそんな顔をさせるのが純粋に申し訳なくて、せめても明るく笑っておどけてみせる。
「かわいい女の子に声掛けられたって、喜んでいいのかな?」
「冗談にしては趣味が悪いが……」
瞬く水色の瞳が顔を覗き込んでくる。心の奥まで無遠慮に見つめて来そうな瞳をまっすぐに見つめ返す。にこり、屈託なく笑ってみせる。
「ん~、ほんとに誰かと間違えてない?」
かわいい女の子に見つめられるのは悪い気はしないけれど、この女の子に見つめられるのは何だか胸がざわざわする。どれだけ見つめられても、今のこの心には何にもないはずなのに。
(俺は、……)
見つめられ続けて、やっと思い至った。
「……あれ? ……俺、誰だっけ?」
自分に関するどんな記憶も、身体のどこにも残っていない。
目の前の女の子の瞳を覗き込む。そもそも、自分はどんな顔をしていただろう。どんな顔でこの女の子を見つめているのだろう。
自分の名前すら、頭のどこにも見つけられない。
「なつ氏」
「……ごめん、俺って『なつ』っていうの?」
俯くように、女の子は頷いた。
「
立花 なつ
。それが君の氏名だ」
伏せた睫毛が持ち上がる。胸倉さえ掴まれそうな間近に女の子の顔が近づいて、だからなのか妙に心臓がどきどきと跳ねた。
(ん~……)
どうしてだか、他の女の子にはこんな風にどきどきしない気がした。
(きっと、好みの顔なんだよね)
そうであるのなら、考えつくのはただひとつ。
「……もしかして俺、ほんとに君とデートしようとしてた?」
「いや、デートでは無い」
間髪入れずきっぱりと首を横に振られる。それでもそんなに不満は覚えなかった。むしろ元からそんな気がしていたように思う。
「デートでは無いが、……本当に記憶が無いのなら、とりあえず買い物はやめて病院に行こう」
「あ、でもやっぱり一緒に出掛けようとしてたんだね」
ふうわりと人懐っこく笑んでみても、女の子はちらりとも笑わない。真顔のまま、行くぞと踵を返そうとする。
「待って」
女の子の肩に手を伸ばして掴む。然程力を入れたつもりはなかったのに、女の子は心底驚いたようにぎくりとこちらを振り返った。
掴んだ肩の華奢さと見開いた水色の瞳に、やっぱり何だか悪いことをしているような気分になる。女の子に触れるなんて、そんなに悪いことのようにも思えないけれど。
胸にちりちりと刺さる罪悪感のようなものを無視して、また笑ってみせる。記憶がないのは確かなようだけれど、
「病院はいいや。どこも痛くないし」
「だが」
「それよりデートの予定を潰すのはもったいないよ~」
「いや、デートでは」
繰り返し訂正しようとする女の子の唇の前に人差し指を差し出し塞ぐ。
「せっかく君と……」
指先を唇に触れさせようとして、どうしてだか出来なかった。この女の子に触れてしまうことに、どうしてこんなに躊躇うのか分からなかった。ついでに、女の子の名前も分からない。
「えっと、ごめんね、名前は?」
「……
千歳飴 楓子
だ」
指先に女の子の息が触れて、彼女がこちらには分からないほどの吐息をついたことに気づいた。
「なつ氏の、……親しい友人だよ」
聞き出した女の子の名前を繰り返し口にしてみる。『親しい』女の子の名前を魔法の呪文じみて唱えて記憶が戻ればロマンチックでいいなと考えたのに、自分のことも彼女のことも、何一つとして心には浮かび上がって来なかった。
とはいえ『親しい』ということであれば、彼女の呼び方は、
「じゃあ、楓子ちゃんだねぇ」
記憶のない幼馴染から普段とは違う呼び名で呼びかけられて、楓子は一瞬口を開きかける。訂正しようとして、止める。
「……まあ、なつ氏がそう言うなら様子を見てもいいだろう」
呼び名には一切言及せず、記憶を失ってもいつもとそう変わらずのんびりと構えて見える幼馴染と肩を並べて歩き始める。
(……親しい友人、か)
幼馴染だった。普段から好きだよ好きだよと言われ続けて来た。そうして、今年のバレンタインに『本命チョコ』を貰った。
――かーちゃんはずっと前から、俺の特別な女の子
ホワイトデーには告白を受けた。
イベント時に限らず、普段からされている恋の告白をされたところで、心は特に動かなかった。普段からよく女子グループに溶け込んでいる彼は、彼女たちにもきっと自分に向けるのと同じようなリップサービスをしているのだろう。だから彼からどんなに甘い言葉を囁かれても、心の奥には届けない。
そう決めていた。
そう決めていたのに、
――なつ氏が楓子に、恋愛のドキドキという物を教えてみてくれ
ホワイトデーにそう応じてしまった。
(あれは保留の返事にすぎない)
保留であるからこそ、待たせているという罪悪感がないわけではない。
(だが)
楓子は隣を歩くなつの横顔を覗き見る。
視線に目敏く気づいたなつがふわりと微笑む。同時に伸びて来た手に手を掴まれ、親し気に指を絡ませられ、知らず肩が強張った。
手を繋がれただけで震える自分の指先に動揺し、動揺したことに思い至って更に動揺する。繋いだ指先はほとんど意地で解かず、足を早める。
(だが、)
なつはきっと、誰にでもこんな風に優しいのだろう。
(……だが、……)
いつもはこんな簡単に、誰にでもするように手を繋いで来たりはしなかった。少なくとも、楓子には。
胸のあたりがもやもやとする。それが何故なのか考えたくなくて、楓子はなつと手を繋いだまま先に立って歩く。
「どこ行こうっか~、俺は楓子ちゃんとならどこでもいいよ~」
ふわふわと調子のいいことを言うなつをちらりと振り返り、すぐに前に視線を逸らす。ぶっきらぼうに応じる。
「楓子は欲しいプライズ商品があるからまずはゲーセンだな」
駅前を離れ、寝子島街道を渡った先、キャットロードにあるゲームセンターに向かう。
趣味の店が多く立ち並ぶ商店街にはふたりでよく訪れているはずなのに、なつは初めて来たかのように物珍し気に周囲を見回し、挙句、
「へ~、このゲーセンが定番なんだ」
いつも来るゲームセンターを前に楽し気に目を細めた。賑やかな音に溢れる店内を好き勝手にふらふらと歩いて行こうとするなつの手を離し、楓子は目当てのプライズ商品があるクレーンゲームの前に立つ。
(いつもなら)
ゲームに興じる楓子をなつは後ろで見守ってくれていた。
あんな風にひとりで歩き回ったりしなかった。
それはそれで別にどうでもいいはずなのに、やっぱり胸がもやもやとするのはどうしてだろう。
(……楓子はこれが欲しいのだ)
尖りそうになる唇を手の甲でごしごしと擦る。素知らぬ顔を装って百円玉を数枚ゲーム台の上に置く。深呼吸をひとつ、欲しい商品に狙いを定める。
(よし、始めよう)
なつのことは、今は様子見しておこう。もしかしたら次の瞬間には記憶が蘇っていつものなつに戻っているかもしれない。
欲しい商品は然程難しい位置にない。これならば簡単に手に入れることができる。そう思ったはずなのに、二度三度とクレーンを操作しても、クレーンの先は空を切るばかり。気持ちは背後をうろうろしているだろうなつに向かうばかり。
「楓子ちゃん、欲しいものは取れた?」
「……中々取れないな」
肩が触れるほど近くに立って親し気に話しかけてくるなつが、知らないひとのように思えた。そう思ってしまったことに気が引けて、
「すまないなつ氏、この千円札を」
「あ、見て見て~、これ可愛い」
敢えていつものように小銭の両替を無造作に頼もうとした途端、ぐいと肩を抱かれた。
「うおっ」
普段は決してされたことのない所作を受けて、咄嗟に女子らしからぬ太い驚愕の声が口から零れる。息を呑んだまま、瞠った目のまま、自分の肩を抱くなつの手を見る。楽し気にケースの中のぬいぐるみを示すなつの横顔を仰ぐ。
「いや、楓子の軍資金はそっちのプライズ用で……」
「そうなの? あ、今度はあれ、見てみようよ」
楓子の言葉をさらりと流し、なつは普段にはない強引さで手を繋いでくる。ぐいぐいと手を引かれ、楓子はなつの背を半ば呆然と眺める。今の彼が強引なのか、それとも、――
(……調子が狂う)
それ以上考えるのはやめた。
「……今日はもう諦める」
ぽつり、呟く。知らず靴先に落ちていた視線を上げ、なつは見ずにゲームセンターの外へ眼を向ける。
「楓子ちゃん?」
不思議そうにしながらも繋いだ手は放してくれないなつの手を引く。元から次に向かう予定だった同じ通りの服屋に向かう。
「今度は服? いいね~、楓子ちゃんならなんでも似合うよ」
「調子のいいことを言うのはいつもと同じだ」
くすくすと笑っていたなつの声が不意に途切れた。大人しくついて来ていた足が止まる。引いていた手を逆に引かれ何事かと振り返れば、なつの視線は通りの一角にある和服店のショーウィンドウに向けられていた。
「着物か」
母と三人の姉に仕込まれ、軟派な見た目に反してなつは茶道に生け花、料理も嗜む。
楓子の言葉に、なつは着物を見つめる視線はそのまま、首を傾げた。
「ん~、でも着物の事とか、分からな……い? あれ?」
「分かるだろう」
「俺……着方、分かるな……」
何事かを思い出したのか、なつは何度も何度も瞬く。ぽつり、零す。
「……そっか、友達とかにも、着せてあげたりしてた」
なつの唇からふと零れた言葉に、その言葉を呟いたなつの穏やかな顔に、楓子は心底安堵する。
「思い出したか」
正面に回り込み両腕を取らんばかりに勢い込んで確かめたのに、なつは何にも気にしていないようにのんきに首を横に振る。それどころか、こちらの反応を楽しむように、からかうように顔を近づけてくる。
「このままデートしてたら楓子ちゃんのことも思い出せるかも~」
思わず言葉に詰まる。素知らぬ顔を装ってそっぽを向く。
いつもより距離が近い。いつもよりべたべたと触ってくる。それが嫌だというわけではない、と思う。けれど思ってしまう。いつもはもっと適度な、楓子にとって心地よい距離を取ってくれていた。いつもはもっと、
(いつものなつ氏は、……?)
――好きだよ、かーちゃん
ふと、なつがいつも言っていた言葉が耳朶に蘇る。
記憶を失ったなつは、そう言えば一言もその言葉を口にしていない。
「デートではない」
「次はどうする?」
拒んでも拒んでも考えを改めないところは記憶があってもなくても同じだと、悔し紛れに思う。
「楓子はお腹が空いた」
「じゃ、次はカフェだね」
元よりの目的だった服屋に入るのも諦め、和服屋の向かいにある小さなカフェに入る。エメラルドグリーンのドアと白い壁が印象的な店の中は、客同士の視線を遮るように観葉植物がずらりと置かれ、さながら小さな森のよう。
その店で楓子がガトーショコラを注文したのは、特段それが好きだからというわけではない。
「ここのカフェ、おしゃれで良いね」
楽し気に店内を見回すなつを楓子は眺める。楓子に向けて柔らかく微笑み返してから、なつは注文の品を届けに来たウェイトレスにも同じ柔らかな笑みを向けた。
なつはアールグレイの紅茶にフルーツタルト。
楓子はコーヒーにガトーショコラ。
黙ってスマホゲームを始める楓子に構わず、なつはフォークに刺したタルトを楓子の口元に近づける。そのあまりにも自然な動作に、差し出されたケーキを反射的に頬張ってから楓子は少し狼狽えた。
「美味しい?」
「……美味しい、が……」
「楓子ちゃんのガトーショコラ、一口ちょうだい?」
朗らかな顔で口を開けて待つなつの前、楓子は皿を押し出す。楓子の仕草を気にした風でもなく、なつはチョコレート風味のしっとりした生地を口に運んだ。おいしい、と顔を綻ばせてから、少し考え深げに顎に手をあてる。
「でも俺なら隠し味に……」
思わず口に出してから、目を輝かせる。
「あ! 俺そういえば料理出来る系男子だった~」
「……ああ、そうだ」
「……前誰かに、ガトーショコラを作ったような」
「思い出したのか」
スマホ画面から目を離す楓子に、なつはあっけらかんと笑い返す。
「ううん、そこは全然~」
「そうか」
小さく息を吐いて画面に目を戻した楓子は、操作ミスに気付いて肩を落とした。
「なつ氏」
傾きかけた太陽を背に、楓子は振り返る。
あの後、どこに行ってもなつは自分のことを思い出さなかった。思い出すとしても、どこかぼんやりとしたことばかり。自分のことも、楓子のことも、思い出さないまま、今日のお出掛けが終わろうとしている。
「折角だし家に寄って行ってくれ」
記憶のないなつをそのまま家に帰すのは流石に心配だった。
幼馴染の家もそう遠くない場所にある。普段から頻繁に行き来をしていて、お互いの家には実家並みの気軽さで立ち入られる。
「楓子ちゃんの、家に? それは……」
だと言うのに、なつは何だか悪戯っぽいような笑顔をした。
「期待してもいい?」
それは普段なつが楓子に見せたことのない笑顔。けれどいつも見ていた笑顔。
(ああ)
やっとのことで思い当たる。なつの、ただ好意があるだけの明るい笑顔は、なつが普段周囲の女子たちに向けていたものだ。
今のなつは、
(……楓子の事を好きじゃないなつ氏なのだ)
だから楓子を『ただの女子』として扱う。
(楓子は随分と……)
『ただの女子』ではない楓子を、なつはとてもとても大事にしてくれていた。なつが記憶を失って、思い知ってしまった。
それがいいのか悪いのかも分からないまま、ただ願った。
(楓子を好きななつ氏に会いたい)
それが如何に自分勝手な願望であるのか、分かっている。なつがいつも伝えて来てくれていた『好き』から目を逸らし続けて来て、告白を保留しておいて、待たせておいて、
(都合の良い女だな)
つくづくそう思う。楓子は自分勝手で都合が良い。ずっとずっと、幼馴染のまごころを知らず踏み躙り続けてきていた。
もう一度、真直ぐになつと向き合う。
少し高い位置にあるなつの瞳を見上げ、問う。
「楓子の事は、まだ思い出さないのか?」
「……うん、思い出せない」
それが何でもないことのようにこくりと頷いて、そうしてからなつはほんの少し、困ったような顔をした。
「ごめんね」
「……そうか」
楓子は短く頷く。二度三度と瞬き、ぐっと顎を上げる。
「楓子の家で、いつものように楓子のためにお茶を淹れてもらえないか」
何かを決意した顔で、今日一日を一緒に過ごした女の子から言われ、なつは反射的に頷いた。
頷いてから、目の前の女の子の言葉にしみじみ不思議になる。
(この子と俺、どんな関係だったんだろう)
一緒に遊んで、自宅に呼ばれて、その子の家でその子のためにお茶を淹れてあげる関係をどう呼ぶのか、今のなつには分からない。
(知りたい)
思い出したいと、初めて思った。
玄関の前にふたりで立つ。楓子が鍵を開け、扉をくぐる。
「お邪魔しまーす」
他人の家に入るときは当然するだろうと思って何気なく口にした言葉に、靴を脱いでいた楓子が驚いたように振り返った。なつがきょとんと視線を返せば、気まずそうに顔を逸らし、
「っ……」
上がり框におもむろに仁王立ちになる。今日一日少しだけ低い位置に見ていた楓子の水色の瞳を見上げるかたちになって、なつは靴を脱ぐ動作を一瞬忘れた。ふわりと翻る黒と水色の入り混じった長い髪に、ひどく寂しそうな水色の瞳に、眼を奪われた。
細い腕が伸びる。
頭を華奢な胸元に引き寄せられ、抱きしめられる。
「楓子ちゃ……」
「……戻って欲しい」
聞いたことのないような幼馴染の声を聞いた。
「寂しいんだ」
耳元に囁かれる辛そうな声に胸が痛んだ。
ずきりとした痛みに唇を噛んで、次の瞬間。光が閃くに似て、忘れていたすべての記憶が空っぽだった身体を満たした。
「……ごめんね」
その言葉に続く拒否を想像してか、楓子の細い肩が小さく震える。普段何事にも動じない楓子にそんな動きを取らせてしまったことに、ますます胸が痛んだ。
「全部思い出したよ」
だから、なんでもないように付け足す。
「何で忘れちゃってたんだろ~?」
いつものようにのんびり笑ってみる。安堵と呆れ混じりの息を吐いて離れようとする楓子の背中を、
「かーちゃんのこと」
そっと、大事に大事に抱きしめ返す。
「こんなに好きだったのにね」
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日常
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10人
参加キャラクター数
10人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2018年01月12日
参加申し込みの期限
2018年01月19日 11時00分
アクション投稿の期限
2018年01月19日 11時00分
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