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眼下に夜景が広がっている。切り取られたように広がるその先の闇はどうやら夜の海らしい。
煌く街の灯りを揺らし、遠い海岸線から潮の香孕んだ風が流れ寄せて来る。丘の上の公園まで一息に駆けあがってくる向かい風に抗い、足を踏ん張る。ほとんど反射的に、腕に抱いたものを風から護るように僅かに背中を丸める。
ふと。
不意に思い至った。
曲げた腕に座らせるように抱いている、緩く波打つ黒髪に紅玉色した瞳の球体関節人形は何だろう。
無機質なはずの紅玉の瞳に責められている気がして、人形から視線を逸らす。途端、静寂に押し包まれた夜の公園が目に入った。人気のない夜の公園にひとり立つ理由が分からず、それどころかここが何処なのかもわからず、
(俺は)
誰だ、と思うに至って、思わず目を瞠る。
どうしてこんなところで人形を抱いて立っている?
そもそも、自分は何者だ?
公園の木々を揺らし、風がひゅるひゅると笑っている。頭上には遠い街の灯りよりも余程近く思える満天の星空が広がっている。
さんざめく星々に、舞い踊る夜風に、記憶なんて大したことないよと言われている気がした。
(いや)
うっかり同意を示してしまいそうなのんきな自分に、慌てて首を横に振る。
(いやいや十分やばいよ!)
夜の公園に立ち尽くしたまま、人形を大事に抱いたまま、自分が誰であるのかを考える。けれどどれだけ自分の中を探っても、考えても考えても、自分に関わる何一つとして思い出すことが出来なかった。
記憶がない。
(どうするんだよ!)
怒りにも似た感情がふつふつと腹の底から湧き上がる。
(また神魂かよいい加減にしろよ!)
眉間に皺を寄せ奥歯を噛みしめ、拳を握りしめて胸の内に怒鳴ったところで首を捻った。
(って、神魂って何だ?)
緑の匂いを纏って流れる海風を頬に受けつつ、反対側にまた首を傾げる。怒りと共に浮かんだ言葉は、きっと普段から折につけて自分が思っていることに違いない。
『神魂』が何なのか思い出せれば、自分の記憶も芋蔓式に思い出せるかもしれない。
(……腹減った)
何も探り出せない腹の底から息を吐き出す。何も思い出せないことに焦りを覚える。
そもそもからして、『神魂』なんて言葉はフツウにはあり得ないのではないか。そんなものを知っている自分のフツウはどんなものなのだろう。
「あー、もう訳わかんねえよ」
がりがりと頭を掻く。片腕に座らせた人形を両腕に抱きしめる。
「ヤバいよルヴィアどうしよう?」
呻くように呟いて、口をついて出た人形の名前に頭を殴られるような衝撃を受けた。あんなに大切に想っていたルヴィアを、僅かな間とは言え忘れてしまっていた。
「ルヴィア」
確かめるように人形の名を繰り返す。胸に抱いた人形の紅玉の瞳が怒りを宿しているようにも見えて、思わず瞳を伏せる。
「すまん」
真摯に詫びてから、怒るなよと淡く笑う。
「すぐに思い出しただろう?」
それほどに、この子を大切に想っている。己のことすら思い出せぬ今の状況にあって、それはとても大事な縁に思えた。
とは言え、思い出せたのは腕に抱いている子のことのみ。
頬を撫でる夜風に息をひとつ吐く。公園から街へ下りる急な階段の際に立ち、ここからどこへ行けば良いのか迷う。光の揺らぐ街か、波間に月影映す海岸か、それとも背後の公園から山頂へ至るらしい道か。
海風に錆びついた階段の手すりに触れる。立ち尽くすことに疲れてもたれかかる。今はただひとつの絆である人形を両腕に抱きしめたところで、小さな足音を耳にした。
階段を登ってくる軽い足音の主を探し、月明りを頼りに視線を伸ばす。
外灯もほとんどない夜の階段を慣れた足取りで登ってきていたのは、幼い顔立ちの小柄な少女だった。
小さな頭の左に結い上げた柔らかな栗色の髪を追い風に揺らし、左右色合いの違う青の瞳を瞬かせ、――こちらを見止めて僅かに微笑む。小首を傾げるような笑い方は、まるで小さくて柔らかな動物のようにも見えた。
見知らぬ少女からの笑みに戸惑う。笑みを返すべきか迷い、結局不愛想な顔のまま軽く会釈するにとどまる。そうしてしまってから、こんな夜中の公園で見知らぬ人間と鉢合って怯えさせてしまわないかと不安になった。危害を加えないと示すためすぐさまその場を立ち去ろうと踵を返しかけて、駆け寄って来た少女に肩を軽く叩かれた。
親しげな少女の動きにますます戸惑う。眉をひそめて言葉を探す間に、少女は鞄から取り出したスケッチブックを手慣れた仕草で開いた。
『こんばんは』
事前に書き込まれていたらしい文字を月光に読み取り、少女が声を発せられないことを悟る。
「ああ、……うん、今晩は」
曖昧に挨拶を返す。続ける言葉を持たぬうちに、少女はスケッチブックの新しい頁を開き、なにごとかを素早く書き込んだ。
『どうかしたの?』
己を真剣に心配する少女の表情にも、躊躇いばかりが胸に湧く。
「……誰だ?」
うっかりと口にしてしまってから、少女が浮かべた驚きと哀しみの表情に、自分でも怯むほど胸が痛んだ。
もしかして、と思う。自分はこの子を知っているのかもしれない。悲しませたくないと思っていたのかもしれない。
自分に関する記憶が一切消えているこの状況にあって、見知らぬ彼女に対する警戒心が全く湧かないのもその証拠なのだろう。
(記憶を失う前の俺は)
この少女を心から信頼していたのかもしれない。
青色の瞳を瞬かせてこちらを見つめていた少女は、慌てた動作でスケッチブックを胸に引き寄せる。栗色の髪を揺らしながら焦って鉛筆を動かす様子がやっぱり小動物じみていて、こんな状況にあるのに思わず口元が緩んだ。
少女が書き込んだ文字をこちらに向ける。
笑ってしまったことを隠し、口元に手を当てる。考え込む風を装う。
『わたしだよ、うみだよ』
「はあ、……うみさん?」
首を捻る。少女の示した名前に、思い当たる節はない。
青い瞳が悲し気に伏せられる。小さく『
小山内 海
』と丁寧な文字で書き足し、もう一度自信なさそうにスケッチブックを持ち上げるその様子にあまりにも胸をつかれた。
「ごめん」
申し訳ない気持ちと同時、腹の底に滲む温かいような思いに戸惑う。胸を締め付けるようなこの気持ちは、一体なんと呼べばいいのだろう。
「ちょっと記憶がなくてよく分からない」
自分の気持ちも気持ちも分からないまま、現状を吐露する。少女は大きな瞳をますます大きく見開き、忙しなく瞬きばかりを繰り返した。白紙の頁を捲り、鉛筆の先を紙にあてる。書き込む文字に迷い、難しく眉を寄せる。
『じぶんのなまえも?』
記された文字を覗き込み、小さく頷く。
『もしかして、きおくそうしつ?』
「……たぶん」
子どものように大切にしている人形を唯一の縁のように抱いて頷くばかりの黒髪黒目の少年の姿に、海は瞳を伏せる。様子がおかしいとは思っていたけれど、記憶喪失だなんて思いもしなかった。
「気づいたらここに立っていた」
記憶を失くしているというのに、彼は然程焦っているようには見えない。元より肝の据わった性格だとは感じていたけれど、記憶を失ってさえ動揺しない強い心はどうすれば手に入れられるのだろう。
寂しさに容易く折れてしまう自身をちらりと振り返り、海はスケッチブックを胸にぎゅっと抱く。けれど今は、自分のことよりも彼のこと。
『けがしてるとことかない?』
「ないと思う」
『いたいところは?』
「ないよ」
階段の錆びついた手すりにもたれかかる彼の周りをぐるりと巡り、転んだりしたような痕跡がないか確かめる。
見たところ怪我をしている様子はなく、それはそれで一安心ではあるものの、だとすれば原因は何なのだろう。
(誰かのろっこんのせいなのかな)
それとも、島のあちこちに散り落ちて様々な影響を及ぼしている神魂のせいなのだろうか。
心の内に推測しながら、けれど海は敢えて屈託のない笑みを彼に向ける。
『だいじょうぶ』
階段の傍に設置されたベンチに腰を下ろし、隣に座るように促す。
『きっとすぐにおもいだせる』
素直に頷き、素直に隣に来る彼に、海はとにかく自分の知っていることを教えると告げる。
『あなたのなまえはかたな』
御剣 刀
、と鉛筆で記し、強調するようにぐるぐると何重にも丸で囲う。
傍らからそれを覗き込みながら、刀はそれでもどこか納得のいかないような顔つきをしていた。名を知ったところで、記憶を持っていなくては自身の名でさえも見知らぬものに思えてしまうものらしい。
『わたしと同じ、ねここうの二ねんせい』
「ねこ?」
不思議そうに瞬く刀の顔は何だか妙に可愛らしかったけれど、会話をスムーズにするためにいつものように平仮名と画数の少ない漢字だけを使っていては必要な情報は伝えきれない。そう判断して、海は会話の速度には構わず、
『寝子島高校』
丁寧に漢字を書き込む。
『けんどうをやってるね』
「……ふうん」
忘れてしまった自分の情報をどこか他人事のように聞く刀の横顔を見上げていて、
(……ちょっとからかってみようかな)
ふと、悪戯心が湧いてしまった。
だってこんな状況、滅多とあるものではない。誰かのろっこんや神魂の影響であるとすれば、きっとそんなに大事には至らないはず。記憶の喪失状態だってそう長くは続かないはず。
(ちょっと、だけ)
『あとは』
含みを持たせてから、できるだけサラリとした風を装って書き込む。
『かのじょがふたりいる』
「えっ?」
文字を辿った途端、刀の黒い眼が不審げに瞬いた。凛々しい黒眉を寄せ、『かのじょ』の文字を指先で叩く。
思った通りに刀の気が惹けて、海はうっかり嬉しくなってしまった。今にも笑いだしてしまいそうな唇の内側を噛み、大真面目な顔をしてみせる。
「ふたり?」
彼女がふたり、ということがおかしいことであるという認識はあるらしい。
(ソンナコトナイヨドコモオカシクナイヨ)
二股を掛けられていると相談されたかのように、刀は難しい顔をした。
「それってどうなの? やばくない?」
『ひとりはわたし』
「っ……」
何でもないことのように書き込まれた海の文字に、刀は目に見えて動揺を示した。自分の記憶が失せてもさして動じなかった刀の狼狽えように、海はちょっぴり罪悪感を感じる。
「君はそれでいいの?」
少し時間を掛けて、海は新しい頁に文字を書き込む。
『「どっちかなんてえらべない。ふたりともおれがしあわせにしてみせる!」』
括弧でくくった文字の頭に『刀』の文字を付け足す。刀自身が言ったのだと記してみせる。
「俺そんなこと言ってるの?」
思わず声を高くして頭を抱え込んでしまいそうな刀の様子に、海は罪悪感をひとまず押し隠して頷く。
『もうひとりの子は、わたしのしんゆう』
今は、恋人でもある。
刀を――同じ人を好きになって、その人を見つめる親友の凛とした眼差しにも、いつしか恋をした。
不可思議な三角関係だとは自分でも思う。思うけれど、自分の気持ちを偽ることは海にはできなかった。そうであるなら、落ち着くところは結局、三人がお互いに恋人になるということではないのかと今は思う。
『おたがいにみとめあって、ふたりとも刀のかのじょになった』
真実と違うのは、それだけ。
刀はたぶん、厳密にはきっとふたりを恋人だとは思っていない。希望に希望を重ねても、せいぜいが『友人以上恋人未満』止まりの関係なのだろう。
刀がひたすらに、一心に見つめるのは隣の女の子などではなく、果てしなく続いていく剣の道だけなのかもしれない。
(駄目かな)
海が想う理想の関係は三人で恋人になることだけれど、記憶喪失状態であってもそれを刀が認めることはありえないのだろうか。
女の子からの恋心にどこまでも鈍感で、そのくせその意志と眼差しの強さでひとを惹きつける少年の横顔を海は見つめる。そんな彼だからこそ、剣のことを忘れている今は、今だけは――
『しんじてくれないの……?』
切ない吐息をつくように小さな文字を書く。スケッチブックを膝に置き、嘘をついたせいで冷たくなってしまった手をそっと伸ばす。恋人にするように刀の指に指を絡めようとして、出来なかった。服の袖をちょこんとつまむだけに終わってしまった。
思わず俯く海の視界に、刀が真剣な顔を覗き込ませる。記憶を持たないせいでどこか茫洋とさせていた顔に力強い笑みを浮かべ、
「君が言うならそうなんだろう」
きっぱりと言い切った。ぐっと頭をもたげ、五月の夜空を仰ぐ。
「任せろ! 俺が二人とも幸せにしてみせる!」
誓うように刀が言い放った言葉に、それは自分のついた嘘が原因である言葉だと理解していても、海は嬉しくなる。知らず滲む嬉し涙を手で擦って隠す。
「うん、ヤバい内容なのにしっくりきた」
海の涙には気づかず、刀は雄々しく空を仰いだまま晴れやかに笑った。
「ありがとう、海」
不意打ちにいつもの呼び方で名を呼ばれ頬を赤くする海にもやっぱり気づかず、刀はひとり納得した顔で何度となく頷く。
「呼び方も呼び捨てが自然だし、」
自分と海ともう一人が彼氏彼女の関係であるということを、そういうことなんだろう、の一言で片づける。
「なんかすげーな」
『すごい?』
「うん、なんかすげー」
記憶はまだ戻っていないはずなのに、刀は問題が何もかも片付いたかのようなさっぱりとした笑みを浮かべた。
「海」
その顔をひょいと間近に寄せられ、海は息を詰める。うなじに触れる刀の吐息が衣服の下に隠した秘密の噛み痕にも触れる気がして、声にならない声をあげる。受け入れてしまいたい気持ちと押しのけてしまいたい気持ちとがぶつかり合い、身じろぎも出来なくなってしまう。
「折角だしこのままデートしよう」
固まる海の手を、刀は微塵の迷いもなく掴み取る。先に立ち上がる刀を目に追い、海は声を発することのできない唇をぱくぱくと動かした。
(え、あ、)
でーと、と動く唇に、まん丸に見開かれる青い瞳に、刀は不思議そうに首を傾げる。恋人がすることと言えば、まずはデートだと思ったのだけれど、違うのだろうか。それとも、自分たちは三人でないとデートをしたりしなかったのだろうか。
「ごめん」
海の手を引こうとするまま、刀は項垂れる。
「幸せにするとか言っちゃったけど、正直、具体的な手段はさっぱり分からない」
思ったことをその通りに口にしているらしい刀に、海は笑いながら首を横に振る。記憶を失くしていても、刀はやっぱり刀だ。
「だから、海」
片腕に人形を抱き、刀は片手で力強く海の手を引く。抗いきれずに立ち上がり、よろめく海の頭を胸に抱きしめる。
「俺が幸せだと感じることを試していこうと思う」
片腕に収まる華奢な身体に、片手に抱き寄せられる小さな頭に、ふわふわと柔らかな匂いのする髪に、そうして何故だか小さく震える少女の様子に、刀は知らず頬を赤らめる。恋人同士だとは言っていたけれど、もしかすると記憶のある自分は今目の前にいる彼女に触れたことなどなかったのかもしれない。
(いや、……)
抱き寄せた少女の首筋に唇が触れた途端、そうではないと直感に近く思う。少なくとも、己はこの体温を知っている。震える小さな身体も、細いうなじも、血の色が透けそうな薄い肌も、少女の身が持つ甘やかな匂いも。
(うん、知ってる)
知っているということだけを思い出し、そのことだけに安堵する。
少なくとも、自分には守るべきひとが居てくれている。片腕に納まるような小さな少女の体温が、記憶を持たなくとも自分が自分であることを確かめさせてくれた。
「ありがとう」
海の耳に口を寄せ、囁きかける。そっと離そうとして、今度は海の方が胸に抱きついてきた。胸元の服を掴み、まるで縋りつくように、子どもが許しを乞うようにきつくしがみついてくる『恋人』の細い肩を、刀はもう一度抱きしめる。
「海、寒くない?」
腕の中で海が首を横に振る。少女の泣き出しそうな笑顔を、刀は己に記憶がないためだと理解した。海の手を取り、夜の公園を歩き始める。
手を繋いでいれば、朝までだって歩いていられるような気がした。
(海もそうだったらいいのに)
海岸の方まで歩いて行ってみようか、けれど風が冷たくて恋人に風邪を引かせてしまうだろうか。そんなことを考えながら、刀は海の手を握りしめる。小さな指先も、柔らかな掌も、初めて触れたもののように思えた。
(女の子の手って)
こんなに小さくて柔らかなものなのか。
口にしてしまえば自分の記憶がないことを海に再確認させてしまいそうに思えて、今度は口を閉ざす。
眼下に広がる町明かりを瞳に映しながら、肩を並べて階段をゆっくりと下りる。繋いだ小さくて柔らかで冷たい手に己の体温が移ってゆく。溶け合う体温が不思議なほどにくすぐったくて照れくさくて、思わず頬が緩んだ。
隣に海が居てくれることに、欠けた記憶でさえどうでもよくなるような気もした。満たされるというのはこういう気持ちなのかもしれないと思った。
(そういえば)
胸を満たす温かな気持ちを味わいながら、刀はふと思い出す。
そう言えば、剣の修練をしていた時も海は傍に居てくれた。
(……剣?)
その言葉を胸に繰り返した瞬間、掌に、指先に、海の小さな手よりも確かな感覚が蘇った。
知らず剣の柄を握るように海の手を掴む。その力の強さに、裏切りにあったかのように海の手が震えた。手の中、逃げ出したそうに海の指がもがく。
(ああ、そうだ)
もがく細い指を離すまいと更に強く握りしめ、刀は強い眼差しを月影映す夜の海へ投げる。どうして忘れていたのだろう。どうして忘れてしまえたりしたのだろう。
(俺には剣術もあった)
右手にはルヴィアと剣の重み、左手には海の手の温かさ。
(……俺は)
強欲だなとふと思う。包み込むように温かくて柔らかなものも、冷たく硬く切り裂くものも、手から離したくない。この眼に映るものは、この手に掴み取ったものは、何であろうと護り抜きたい。
それは体に染みついた業とも呼ぶべきものなのかも知れなかった。
けれどその業を想えば、その他の記憶が戻らぬ不安は霧散した。
(もう大丈夫)
そう思えるのは、自分が必要とするものを、自分が自分であるための記憶を取り戻したからなのだろう。他の記憶は、だから戻らなくとも問題はない。
「海」
階段の半ば、刀は足を止める。どこか不安げな顔を見せる海に、大丈夫だと笑いかける。
「だから、傍にいて」
「……っ……」
恋心を寄せる相手から、ずっと望んでいた言葉を囁きかけられ、海はたまらず俯く。だって、今の刀には記憶がない。今まで友達として三人で過ごしてきた記憶も、その間に経験したさまざまの思い出も。
(……記憶が戻ったら)
今こうして過ごしたことはどう思うのだろう。
三人で付き合っている、という嘘のことをどう思うのだろう。それも悪くないと思ってくれたりはしないのだろうか。
想いを巡らせながら、海は顔をあげる。今はまだ、『恋人』である刀を見つめていたかった。
たとえ次の瞬間に記憶喪失の魔法が解けるとしても、今だけは――
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担当ゲームマスター
阿瀬春
シナリオタイプ(らっポ)
ゴールドシナリオ(200)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
定員
10人
参加キャラクター数
10人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2018年01月12日
参加申し込みの期限
2018年01月19日 11時00分
アクション投稿の期限
2018年01月19日 11時00分
参加キャラクター一覧
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